第29話:小さな案内人
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
四人が広場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
ひんやりとした冷気が肌にまとわりつき、ランプの明かりが不自然に揺れる。
「……なんか、ここ、空気ちがう」
ミラが思わず呟く。
声が広場に反響して、遠くから返ってくる。
「ここは……きっとその昔、多くの人が集った場所……」
グレイが低く言った。
アーヤは足元に目をやり、思わず息をのむ。
崩れた石畳の隙間から、かつての生活の痕跡が覗いていた。
壊れた陶器、散らばった木製の玩具、さびついたナイフ。
「…人が暮らしてたのね……」
アーヤの声が少し震える。
「そうだな。建物の配置も、広場の形も……村だ。昔はここに集落があった」
グレイが膝をつき、瓦礫をどけると、土に半ば埋もれた石碑が現れた。
「…古代語…文字が刻まれてる……読めるか?」
アーヤがすぐに近寄る。
「ちょっと待って……」
アーヤは石碑の表面をそっとなぞり、声に出して読み上げた。
「ここ…に…眠るは……星を…祀りし……者たちの村」
アーヤははっと顔を上げた。
「星を祀る村……?」
「ガネリーホが作られる前、このあたり一帯は星を信仰する人たちの集落だったって聞いたことがあるわ」
アーヤの声はどこか遠くを見ているようだった。
「だけど、こんな地下深くに……」
「埋まったってことかニャ?」
エリスが尻尾を丸めて体をプルプルさせる。
「地殻変動か、あるいは……」
グレイは言葉を濁した。
アーヤの胸の奥が軋む。
「……ここにも、誰かの生活があった……」
笑い声も、悲鳴も、すべて土に呑まれてしまったのだろうか。
「……行きましょう。立ち止まってたら、飲み込まれそう」
アーヤは一歩前に出た。
「ちょ、ちょっと待て!」
ポッコが慌てて呼び止める。
「まだ見てねえだろ、これ!」
彼が指差した先には、壁に爪痕のようなものが残っていた。
石の壁が深くえぐられ、まるで巨大な爪で引き裂かれたかのようだった。
「……でかいな……」
グレイが低く唸る。
「ただの獣じゃないな、これは……」
「こんなの、どんなヤツがやったの?」
ミラが青ざめた顔で壁に近づく。
「しかも、わりと新しい……」
アーヤも思わず息をのむ。
「これ、探してたやつの仕業かもな」
ピッコが腕を組む。
「探してたやつ……?」
アーヤが首をかしげると、ピッコは鼻を鳴らした。
「おれたち、ずっと追ってんだよ。ここの地下に巣くってるデカブツをな」
「デカブツ?」
エリスが目を丸くする。
「……それって、もしかして」
ミラが声を潜める。
「ちがうちがう!魔王じゃねぇよ」
「違うの……?」
アーヤはしゃがんでピッコの顔をみる。
「ぜーんぜん違う!こいつはどデカいモ・グ・ラ」
「モグラ?」
エリスがぴょんと跳ね、前へ出た。
「あぁ、凶暴なやつで、手がつけられねぇ。タッキルも手を焼いてる感じだ」
次の瞬間、通路の奥でカサリと音がした。
「!?」
全員が同時に身構える。
影が一つ、通路を横切った。小さい。
「ネズミか……?」
グレイが剣に手をかける。
「いや、待て。あれは……」
ポッコが素早く身をかがめた。
次の瞬間、エリスが勢いよく飛び出し、通路の奥から何やらくわえて帰ってきた。
「ひゃっ!」
ミラが思わず声を上げる。
エリスがくわえてきたのは小さなネズミ獣族だった。
頭にぼろぼろの布を巻き、腰には小さな袋をぶら下げている。
「おい!は、離せ!殺すなっ!食わないでくれー!」
エリスの口元で小ネズミはじたばた暴れた。
エリスはポイっとグレイの前にネズミを下ろす。
「オレはネズミは食わないニャ!」
エリスが目を細めてネズミをみる。
「お前、タッキルってやつの手下か?」
「ち、ちがう!ちがうってば!俺はただの斥候!」
「斥候……?」
アーヤが顔をしかめる。
「……手下じゃねーか!お前オレたちを舐めてるのか?」
エリスが背中の毛を逆立てて脅す。
「こりゃ都合がいい。何か聞き出せそうだな」
グレイが冷静な口調で冷たく言い、剣をちらりと光らせた。
「ひぃぃぃ!しゃ、しゃべる!何でもしゃべるから!」
「よし、じゃあまずは地下二階への道、案内してもらおうか」
エリスが口角を上げて両手の爪をみせる。
「ひぃぃ……!」
小ネズミは観念したように、しっぽをぴんと立てて頷いた。
「よし、交渉成立だニャ!お前、名前はなんだ?」
「…チョ…チョロス…」
「チョロス?………はっはっはーーーうまそうな名前!!こりゃーオモロイニャ!!」
エリスが大笑いし、小ネズミをロープでぐるぐる巻きにした。
「な、なんだよ……こいつ!」
「待って、こいつに案内させるの?」
ミラが不安そうに尋ねる。
「逆らう気はなさそうだし、利用できるうちは利用するさ」
グレイの声は冷静だった。
「ま、オレは楽しけりゃいいけどな!」
エリスが、ぐるぐる巻きにした小ネズミ後ろからちょんと押すと、小さな声で道順をペラペラ説明し始めた。
「こっちを抜けると、地下二階に降りる大穴がある。けど、近づくと見張りが……」
「見張り?」
アーヤが眉をひそめる。
「タッキルの部下だ。オレ、あいつら嫌いなんだよ!」
「へぇ、ネズミ同士でも仲悪いんだ」
エリスがにやりと笑う。
「簡単に信用するんじゃない。敵の部下だぞ」
グレイは相変わらず慎重に判断する。
「……あ、ほら、来るぞ!」
チョロスが叫んだ瞬間、通路の奥から複数の足音が迫ってきた。
「迎えが来たみたいね……」
アーヤが杖を構える。
「やれやれ、退屈はしないな」
グレイが低く笑い、通路の先へと踏み込んだ。
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
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Z.P.ILY




