第28話:カエルの親切
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
瓦礫の隙間に作られた小部屋に、四人は腰を下ろしていた。
壁一面に描かれた地図を囲み、灯されたランプの明かりが影を揺らす。
ここから先の道を決めるため、皆の視線は自然と地図に集まった。
「ほら、ここがお前らが最初にたどり着いたとこで、ここが通ってきた通路だ」
ポッコが棒切れで地図をトントンと叩く。
「次の階層に行くには、ここか、こっちのルートしかねぇ。……ま、どっちも安全じゃねぇけどな」
「ふむ……」
グレイが腕を組んで地図を覗き込む。
「この南回りのルートは?」
「そっちは崩落してて通れねぇ。行くなら北回りだな」
ピッコが得意げな顔をする。
「けど、北回りは小ネズミどもが出やすい。行くなら戦闘は避けられねぇぞ」
「小ネズミ……って、さっきもすごい数がいたわ」
アーヤが不安そうに眉を寄せる。
「あぁ、あいつら相手にしてるとキリがねぇ。大量に襲ってきたら、逃げるのが賢明だな」
ポッコが肩をすくめて走るマネをする。
「まあ、無事にここまで来れたんだ。やれるだけやれよ」
「言われなくても……」
グレイが短く答え、剣の柄に軽く手を置いた。
「なーんか、おっかねぇ話ばっかだニャ」
エリスが尻尾をぱたぱた揺らす。
「で、どっちのルート行く?オレは早く行きたい派!」
「そんな軽いノリで決めないで!」
ミラが即座にツッコむ。
「ちゃんとみんなで決めるの!」
アーヤは地図を見つめ、深呼吸をした。
「……北回りで行きましょう。崩落してる道よりはマシだと思うわ」
「決まりだな……」
グレイが頷き、地図を睨む。
「へっ、まあ死ぬなよ」
ピッコが片目をつむると、奥の通路を指さした。
「そっちが出口だ。……あぁ、そうだ。小ネズミに出くわしたら、これを使え」
ピッコはそう言って、アーヤにミントの香りのする布袋を渡した。
「こいつは効くぞ!小ネズミがキライなやつだ。近づいてきたらニオイを拡散してやれ」
「へぇー、ミントか。わかったわ…ありがとう。カエルさんたち、とっても親切ね」
「ふん!人間なんかに褒められてもな!」
ピッコは満更でもない顔でそっぽを向く。
「でもさ……」
ミラが袋を覗き込み、鼻をひくひくさせた。
「これ、けっこう匂い強いわね……。ねえ、試してみてもいい?」
「おいおい、今ここで広げるなよ!」
ピッコが飛び跳ねる。
「俺たちカエルだってミント苦手なんだぞ!しかもそれはニオイを強烈にしてる特別仕様だ!」
「え、そうなの?」
アーヤが思わず笑う。
「そりゃそうだ!鼻がいいんだ、こっちは!」
後ろでカエル兄弟のもう一匹が鼻を押さえてごろごろ転がり始める。
「ゲコォォォォ……頭がシャキッとするぅぅぅぅ……」
「それ、良いことじゃないの?」
ミラが首をかしげると、ピッコは両手を広げて叫んだ。
「良くねぇ!寝起きの苦い茶みたいで気分が悪ぃんだ!」
「……例えが地味だな」
グレイがぼそっと突っ込む。
「うるせえ!とにかく早く出ろ!匂いで気絶する前にな!」
アーヤたちは笑いをこらえながら、のそのそとアジトを出ていく。
背後では、まだ鼻を押さえてのたうつカエル兄弟の声が響いている。
「よし!行くぞ!」
グレイが話を切り上げると、四人はカエルのアジトを後にした。
ピッコとポッコはニオイのせいか少し距離を開けてついてくる。
通路はひんやりと湿り気を帯び、足音がやけに響いた。
壁には苔の光が細い筋となって続き、遠くまで淡く照らしている。
「しーんとしてんなあ……」
エリスが耳をひくつかせる。
「なんか、誰かに見られてるみたいニャ」
「気のせいじゃなさそうね……」
アーヤも小声で答える。
「さっきから背中がぞわぞわする……」
「前方、注意しろ。物音がした」
グレイが低く告げる。
確かに、遠くで何かが転がるような音が響いた。
カラン、カラン……と、乾いた金属音が静寂の中を渡る。
「……やめてよ、そういう音……」
ミラが肩をすくめる。
「もう怖いってば……」
「怖いときこそ声を出せ、だろ?」
エリスがニヤニヤして、突然大声で歌い出した。
「へいらっしゃい!今日のおすすめは地底魚のぉ〜♪」
「やめて!!」
ミラが慌てて止める。
「もう、なんでそうなるの!」
そんなやり取りのあとも、静寂は戻らない。
遠くでまた、何かが這うような音がした。
足音か、爪の音か……それはまだ、わからなかった。
四人は足を止め、しばし耳を澄ます。
何も聞こえない。
だが、誰かに見られているような視線を背後から感じる。
アーヤの心臓は落ち着かない音を鳴らす。
「……先に進もう」
グレイが低く言い、アーヤを促した。
「は、はい……」
アーヤは後方を気にしながらも前に進む。
苔の光が途切れた先には、ぽっかりと開けた空間が見えてきた。
そこには、廃墟の中心部らしき、円形の広場が待っていた。
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Z.P.ILY




