第26話:魔王軍
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
ーーテラノクス 魔王の城ーー
玉座の間には蒼黒の光が揺らめいていた。
ヅカッタは負傷した腹部を庇いながら、ゆっくりと玉座の前に立つ。
背後には、彼が率いる小ネズミの兵士たちの影が続く。
「報告を……」
玉座の主、ユルジークの声は深く、地鳴りのように響いた。
溶岩のように赤い瞳が冷たく光る。
「お待たせいたしました、主よ」
ヅカッタは膝をかるく折り、報告を始める。
「塔の試練を乗り越え、やつらはすでにテラノクスに侵入しておりました」
「そうか……すでに来ておるのか?」
「はっ!三人と一匹……迎廊の間で食い止めようといたしましたが、想像以上の力に驚きました」
「はっはっはっ!……たった四人をお前が殺れなかった……ということか?」
「はっ、申し訳ございません……とくに剣を振るうグレイという男……かなりの強敵かと…」
「ふむ……」
ユルジークは玉座に深く腰を沈め、指先で肘掛けを叩く。
「そうか……それはちと厄介だな……」
「はい、しかも剣に魔力を注入できるところまで使いこなしております……」
「…剣に魔力?…」
「はっ!」
「まさかとは思うが……剣に魔力……か……三人と……一匹……といったな?」
「はっ!」
「一匹とはなんだ?」
「ネコの獣族です」
ヅカッタが簡潔に答えると、魔王の瞳が鋭く光った。
「なるほど……面白い……いや、実に面白いではないか」
ユルジークは低く、だが明らかに興奮した声で言った。
「奴らがここまで来るとはな……城までたどり着けるか……」
「おやおや、総司令ともあろうお方が、もしかして怪我をされていらっしゃるのかな?」
ヅカッタの後方にある玉座の間の扉が開くと、そこには三つの影が立っていた。
「おぉ、お前たち……きておったか……」
「魔王様、そろそろ総司令の見直しをされてはいかがですか?…たかが四人に手を焼いているようじゃ、魔王軍の品位にかかわる……」
三つの影はゆっくりと玉座の間に入り、魔王の元へと近づいてくる。
「それでは、このタッキルめを是非!」
「何を言うか!たかが狩人ごときが魔王軍をまとめることなどできるわけないわ!このエムエムこそ相応しい……」
「ンーー……ドウデモイイ……」
「フン、好き勝手言いおって……まともなのはイタッシャだけか……」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、相変わらず元気がいいのぉ……」
「ははっ!」
玉座の間に入ってきた三人が声を揃えて魔王の前に跪く。
テラノクスの各階層を任されたボスたちである。
「ヅカッタよ……このままで終わるお前でもあるまい……この先奴らが進む道……必ず食い止めてみせよ……」
「ははっ!」
「タッキル!」
「はっ!」
「エムエム!」
「はっ!」
「イタッシャ!」
「ハーーー」
「このテラノクスに入り込んだ不届き者がおる。
各階層に散れ!そして待ち構え、奴らが来たら全力を以て叩き潰せ!」
「ははっ!」
各階層のボスたちは、ヅカッタの醜態に納得がいかない表情で、魔王の命に従い床の中に消えていく。
「ヅカッタ、よいか……このテラノクスは不落である。お主の働きが不可欠……頼んだぞ……」
「はっ!必ずやあの四人を倒してご覧に入れます!」
「よかろう……ゆけ!」
ユルジークの声は命令として空気を震わせる。
「ふふ……見ておれ、人間どもよ。絶望の淵に追い込んでやるわ……」
ーー地下一階 通路ーー
ヅカッタとの戦いの後、四人はグレイの回復を待っていた。
テラノクスの暗い通路は、その不気味さを漂わせている。
「よしっ……そろそろ……」
「副長、まだ動かないほうが……」
「大丈夫だ。ミラの魔法で傷は癒えている……地下二階に向かうぞ」
グレイは剣を杖代わりにして立ち上がり、肩で息を整える。
「エリス、先導を頼む…」
「あぁ、任せとけ」
エリスはスッと立ち上がると、三人の前に出た。
「いいか、よく聞くニャ。まずは安全第一、慎重に進むニャ」
エリスはボス気取りだ。
「エリス、相手がネズミだからって、調子に乗ってない?」
「ま、まさか!」
「そんなこと考えてると痛い目を見るわよ」
「ニャニャ!」
アーヤは懐から小さな光を浮かべ、暗闇を照らす。
「この先はいったいどうなっているのかしら?……せめて地図でもあればいいんだけど……」
「あぁ、そうだな……地底都市の構造だけでもわかれば……エリスの目だけが頼りだ」
四人は未知の世界に放り込まれた感覚で、地下へ繋がる通路を進む。
「エリス、ヅカッタの攻撃、何かつかんだことはあるか?」
グレイは、先の戦闘を振り返って今後の策を考えている。
「オレたちは勝てる。まずは一歩ずつだ」
グレイの声には、戦いの疲労の中にも決意が込められている。
「大丈夫だニャ」
エリスは耳をぴんと立て、周囲を警戒しながら言った。
「だいたいの動きはわかったニャ。しかし弱点らしいものは見つけられなかったニャ」
「そうか……あれだけの巨体をよくコントロールできている……やはり只者ではないな」
「うーん……わからないけど、所詮はネズミニャ。きっと集団戦は得意だニャ」
エリスは尾をゆらしながら答える。
「気を抜くと囲まれるから、注意するニャ」
(……!?)
「ネズミ!……そうかヤツはネズミか!」
グレイは何かを閃いたように驚いた。
「エリス、もしかしたら……ヅカッタの弱点がわかるかもしれんぞ!」
「マジかニャ!」
グレイは自分が思いついた考えを、エリスに耳打ちした。
「なるほど!それはありえるニャ!」
もしこの先、ヤツとまたやり合うことがあったら、その時は注意してみてくれ。
「わかったニャ。任せとくニャ」
四人は暗い通路を足を壁際の微かな光とアーヤの照らす明かりだけで進んでいく。
息遣いと足音だけが、静かに木魂する。
グレイは剣の先端を床に突きながら、ゆっくりと前進する。
「全員、距離を保って行く。突発的な攻撃に備えろ」
「ふぅ……やっぱり緊張するわね」
ミラが小さく息を吐く。
「でも、こういう時って、不思議と冷静になれるのよね……」
「その冷静さを失わないでくれよな」
グレイが小さく笑い、皆を見渡す。
「オレたちはまだ、ここから先に何があるか知らない」
「でも、挑むしかないんだよね」
アーヤが前を見据えながら言う。
「絶望が待ってても、進むしかない」
四人の不安をかき消すように、通路の先に小さな光が見えた。
「あの光!…出口じゃないかな?」
ミラが嬉しそうに声を張る。
四人の足取りも軽くなる。
「よし、ここからが本番だ」
グレイは剣に再び力を込め、杖代わりにしながら一歩を踏み出す。
「全員、気を抜くな。出口を出ても奴らがどこに潜んでるかわからない……」
小さな光は少しずつ大きくなり、その向こうにある石造りの建物らしきものが見えてくる。
そして、その建物のそばで何かが動いた気配がした。
まだ姿は見えない……だが、確実に何かが待ち構えている。
「なるほど……この先にあるもの……オレたちにとってはラッキーかもニャ」
エリスの左目がキラリと光り、少し先の未来を予感する。
四人は高鳴る鼓動を抑えながら着実に次の舞台へと進んでいく。
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Z.P.ILY




