第25話:残響
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
地面に散らばった砂と石の埃が、薄暗い光の中でゆっくりと舞い上がった。
グレイとネズミのボスは互いに見合ったまま、わずかに息を整えている。
「……なかなかやる」
巨大ネズミの声は低く、しかしどこか誇りを帯びていた。
黒い鎧の肩がわずかに震え、呼吸の跡が胸元に影を作る。
「ここまでとはな……」
グレイは剣を握ったまま、姿勢をひくくする。
戦闘の最中、互いに力を試し合った感覚が残っている。
互いの強さを確かめ合った……二人の間にはそんな静かな認識が心に残った。
「……お前の名は?」
「グレイ……グレイ・リヴァントだ……」
「グレイ……その名覚えておくぞ……オレはヅカッタ…魔王軍総司令だ」
「ヅカッタ……」
ヅカッタは笑みを浮かべる。
それは脅しではなく、互いの力量を認める笑みだった。
「だが、忘れるな。ユルジーク様の脅威は、お前らの想像をはるかに超えている」
その言葉に、三人の顔が自然に引き締まる。
「大地の魔王……ユルジーク……」
ミラが小さく名前を呟く。
実際に戦場でその脅威をほのめかされると、背筋がぞくりとした。
「ここはテラノクス。ユルジーク様の鉄壁な防御は誰にも破れん。ここから先、下層階に行けば行くほど、お前たちは絶望を味わうだろう……覚悟しておけ」
ヅカッタは、グレイに敬意を払うような仕草で踵を返す。
「グレイよ、いずれ決着をつけようぞ……」
ヅカッタはそう言い残し、闇の中へと姿を消した。
低く響く声が、まだ空気に残っていた。
……しん、と静まり返る。
遠くで水滴が落ちる音が、やけに鮮明に響いた。
血と鉄の匂いが鼻をつき、現実感が一気に押し寄せる。
グレイが剣をゆっくりと下ろし、地面に突き刺した。
その音が沈黙を切り裂いた。
その柄に手をかけ、しばし体重を預ける。
荒い息をつきながら、ようやく立っていられる……そんな姿だった。
その音と動作が、沈黙を切り裂き、現実へと皆を引き戻した。
「……ふぅ……」
アーヤとミラが同時に深い息を吐き、肩の力を抜いた。
ミラの額には冷や汗が光っている。
「息が詰まったわ……」
「まだ何か他にも潜んでるかもニャ」
エリスが耳を立て、警戒するように周囲を見渡した。
「いや、あの感じはしばらく来ないだろう……」
グレイは短く答え、岩壁に背を預ける。
「副長。あのまま全力で戦ってたら勝てたのでは?……」
「いや、どうなってたかわからん……あいつは強い…オレたちも十分に準備しておく必要がある」
グレイは苦々しい表情を浮かべ、右手でこめかみを押さえた。
「今のオレじゃ、まだ足りん……もっと備えておく必要がある」
幸い大きな損傷はなかったが、腕や肩に鈍い痛みが走る。
「すまないな……オレの我儘で……」
アーヤとミラは素早く反応し、薬草や包帯を取り出す。
「戦闘中は気づかなかったけど、結構打たれましたね……」
ミラは右の手のひらに青い光を浮かび上がらせながら、笑うように言う。
しかし、その目はグレイのつらい気持ちを察しているかのようにわずかに潤んでいた。
「いつも無理ばかり……」
ミラはグレイに聞かれるのが恥ずかしいのか、小声で呟く。
「大丈夫だ。まずは回復して次に備えよう……エリス、ヅカッタの動き、その目でちゃんと捉えたか?」
「もちろんだニャ!グレイの傷が無駄になるからニャ!」
「よし、次の決戦までに打開策を考えよう」
グレイが短く言うと、アーヤも頷きながら包帯を巻き始めた。
小さな闘志と大きな緊張感が入り混じる中、四人の間に静かな連帯感が生まれる。
「あのネズミが言ってた絶望って……いったい何が待っているんだろう……」
アーヤが小声でつぶやく。
「とにかく進まないとユルジークにはたどり着けないということだニャ」
「その答えを確かめるのは、オレたち自身だ。何が出てこようと、オレたちは負けん」
グレイは視線を前方に向け、まだ見ぬ階層の闇を見据えた。
闇の向こうに口を開けた通路が、じっとこちらを待ち構えているように見えた。
静かに、しかし確実に、地下都市テラノクスの奥深くへ向かう足音が響く。
その背後には、戦いの余韻と、まだ見ぬ脅威……ユルジークの影が、ひっそりと潜んでいた。
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
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Z.P.ILY




