第22話:侵入!テラノクス
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
五人は、イアンが手に持った灯りを頼りに、洞窟の闇のなかを息を整えながら進んでいた。
足元にある微かな光が、時折ぽたりと落ちる水滴に反射する。
「……ここまで来ると心臓が高鳴るわ」
アーヤが手を胸に置き、低くつぶやいた。
「怖いけど……進むしかない。みんなと一緒なら、きっと大丈夫……」
ミラは小さく何度もうなずきながら、呼吸を整えている。
エリスは少し顔をしかめつつも、背筋をピンと伸ばした。
「オレもだニャ。みんなとなら、どこまでも行けそうな気がする」
グレイは常に剣柄に手を添え、静かに周囲を見渡している。
「ここはすでに魔王の領域。何が起こってもおかしくない場所だ」
「それにしても……あの塔の導きがなかったらこんなとこ絶対にわからないよ」
ミラが少し笑みをこぼすと、アーヤも微笑み返した。
「……そうね。イアンも随分と頼りになるわ」
「イアン……一緒に行かないのかニャ?」
エリスが残念そうに呟く。
「彼はここまでの案内役。それに危険なことに巻き込むわけにはいかないわ。これから先は私たち自身の力で進まなきゃ」
アーヤがエリスを諭すように言う。
「おい、アレをみろ!」
グレイが指さした先には、巨大な鉄格子の門が立ちはだかっていた。
「な、なんだこれ!」
エリスが俊敏な動きで門のとこまで移動する。
「こんな大きな門、いったい誰が通るんだよ!」
巨大な鉄の門を見上げると、そこには古代語で何やら文字が刻まれている。
「アーヤ、あの文字読めるか?」
「あっ、えぇ……テ…ラ……ノ…ク…ス……テラノクスって書いてあるわ!」
「ここが……入り口……?」
グレイが短くつぶやき、剣の先で地面を軽く突いた。
「そうみたいね。入り口っていうより……何かの扉って感じ」
「おっしゃる通り、この門はテラノクスの入り口です。アーヤさん、その下の文字も読めますか?」
イアンが指さした先には、古代語で小さく記された文字が並んでいる。
「ちょ、ちょっと待って……」
アーヤは文字の部分にある汚れを手で払い落とした。
「…ネムレル…トシ…ヨ……オウノシシャ……ニミチヲ……ヒラケ……眠れる都市よ、王の使者に道を開け、ですね」
「そこの紋章に触れながら、もう一度その言葉を詠唱してみてください…」
アーヤは手を伸ばし紋章に触れ、古代語の文字をもう一度読む。
「…眠れる都市よ、王の使者に道を開け!」
アーヤの声が静かに響いた。
「…………何も、起こらないわ…」
少し間をおいて、アーヤがもう一度詠唱しようとしたその時、大地の揺れとともに巨大な鉄の門は、大きな金属音を立てて開き始めた。
「う、動いた!」
背後に立っていたイアンは、微笑みながら深くうなずいた。
「……イアン、ありがとう。ここまで案内してくれて」
「アーヤさんも、皆さん道中お気をつけて。地底都市には……危険がたくさんあふれています。でも、皆さんなら必ず乗り越えられると信じていますよ」
イアンはスッと振り返ると、手をゆっくりと振りながら洞窟の奥へと消えていった。
四人は息を合わせて深呼吸した。
「よしっ……さあ、行こう!」
アーヤの声に皆がうなずき、開きかけた門の前に立つ。
「……門が開いていく」
グレイが不安混じりに言う。亀裂が広がり、門が左右にゆっくりと開いていく。
その先には、大きな螺旋状の階段が深く、地底へと続いていた。階段の両端にある淡い光が足元を照らし、階段の壁には古代文明のシンボルが浮かび上がる。
「……すごい……なんだか、別の世界に来たみたい」
ミラが小声で呟く。
「この階段、どこまで続くのかしら」
アーヤは杖を片手に、ゆっくりと階段を降りる。グレイ、ミラ、エリスも続く。
階段を下りるほど、空気はひんやりと重くなり、地の奥から微かに振動が伝わってくる。壁に連なるシンボルが淡く脈打ち、古代文明の意志が眠っているかのようだ。
「……いやな雰囲気だニャ…」
エリスが後ろを振り返りながら言う。
「魔王の息がかかってるとこに、わざわざ入ってくるなんて、オレたちどうかしてるニャ」
「でも……誰かがやらないと、地上が大変なことになっちゃうかも……」
ミラとエリスは暗闇の不安を紛らわせるように会話を続ける。
「そういえば、この前港町でカイを見かけたニャ」
「へぇーー!カイ元気だった?」
「あぁ、あの時から比べると随分と大人っぽくなった気がするニャ」
「そっかぁ、またラースカにも行きたいなぁ」
「ツバキも元気かしら……」
「おいっ!……気を抜くなよ!何が出てくるか分からんぞ!」
アーヤが会話に加わったところで、グレイの低い声が薄暗い空間に木魂する。
「相変わらず、真面目なヤツだニャア…」
螺旋階段を降り切った先、五人は岩盤に囲まれた広い部屋に到着した。
中央には円形の浮き床があり、足音を立てると微かに反響する。
天井からは色鮮やかな鍾乳石が広がり、部屋の一部には鍾乳石から流れ出た美しい水が、小さな池を作っていた。
「……ここが、テラノクス…か」
アーヤが息を呑む。
「壮麗だけど……やっぱり、少し不気味ね」
「あの扉、奥につながる通路かもしれん」
三人の視線が一斉にグレイが指さす方に向く。
「あっちに進んでみるニャ」
エリスが先頭を切って動き出したそのとき、部屋の奥から重い足音が響き、扉が開いた。
「……タダでは通れんか…」
暗闇から現れたのは、ネズミの獣族だった。
黒い鎧に身を包み、アーヤたちを待ち構えていたかのようだった。
先頭にいるその巨体は、ネズミとはかけ離れた様相で威圧感がある。
「お前たち、ここまで来るとはな」
先頭のボスらしきネズミが口を開く。
グレイが聖剣を腰から抜くと、その鋭い刃がキラリと光る。
「…ふん、ネズミのオバケか……」
「偉そうだニャ」
エリスが小声でつぶやく。
「ふふ……少し遊ばせてもらうか」
巨大なネズミ獣族の声がホールに響き、部下が戦闘態勢を整える。
「……来るぞ、みんな!デカいのはオレがやる!あとの小さいのは任せた!」
グレイが仲間に声をかける。
アーヤ、ミラ、エリスも身構える。
「負けない……私たちは絶対、前に進む!」
アーヤの言葉に、仲間たちの意志が一つになる。
闇に浮かぶ敵の小ネズミたちが、浮き床の向こうでボスの号令を待っている。
深淵の都市、テラノクス。
地上の運命をかけた戦いが、いま始まろうとしていた。
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Z.P.ILY




