第21話:岩壁の再会
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
塔を後にした三人は、イアンの案内で地底都市につながる入り口へむかう。
「塔の声……まだ頭の中で響いてる気がする」
ミラが小声でそう呟くと、背中に手を回し、肩をぎゅっと抱きしめるようにして歩いた。
イアンは静かに歩き、柔らかい声で言った。
「ここから先は、いよいよ地底都市の入り口です。慎重に、でも恐れることはありません」
「……イアン、あなたはずっと私たちの行く先を見ていたのね」
アーヤがふと振り返ると、淡い光を宿したイアンの瞳が、どこか微笑んでいるように見えた。
「はい。皆さんがここまで来られたのは、私の希望でもあり、楽しみでもあります」
グレイは軽く眉をひそめる。
「楽しみ……って……俺たちの試練を見てニヤニヤしてたわけか?趣味が悪いな…」
イアンは笑みを崩さず、グレイをジッと見つめた。
「ここが入り口です」
三人の目の前には、アルディナの紋章が刻まれた巨大な岩壁がそびえ立っていた。
岩肌は幾千年の時を経たかのようにひび割れ、苔や蔦が絡みついている。
それでも中央に彫られた紋章だけは、まるでつい先ほど刻まれたかのように鮮明で、淡く銀の光を放っていた。
獅子と太陽をかたどったその意匠は、王国の威厳と誇りを象徴するかのように、三人を見下ろしている。
その静謐な輝きに、アーヤは思わず息を呑み、ミラは言葉を失い、グレイは険しい眼差しでその紋章を凝視した。
まるで岩壁そのものが、彼らの覚悟を試しているかのようだった。
イアンは一歩前へ出ると、静かに掌を岩壁へと差し伸べた。
「太陽と獅子の命において、門を開け」
低く響いた声とともに、紋章の光が強く脈打つ。
次の瞬間、岩壁全体に複雑な紋様が走り、古代文字が浮かび上がった。
地の底から響くような重い音とともに、岩がゆっくりと左右に割れ、闇の口が開いていく。
冷たい風が吹き抜け、どこか遠くで水滴が落ちる音が聞こえた。
それは、長く閉ざされていた洞窟が彼らを迎え入れた合図のようだった。
「……本当に、ここから地下都市に入るの?」
ミラの声が少し震える。
「はい。だが、その前に、あなたがたにご紹介しておきたい人がいます」
イアンが指を軽くかざすと、後ろから誰が近づいてくる音がする。
三人が一斉に振り返るとそこには、真っ白な毛に赤茶の耳、左右の両目が違う色に輝くネコ……いや、獣族が立っていた。
「エリス!!!」
アーヤは大きく叫んだ。
記憶の中のあの笑顔、あの小さな声、あの温もり。
遠く離れていた時間を一瞬で呼び戻す。
エリスは足を止め、瞳を大きく見開いた。
「アーヤ、グレイ、ミラ!」
四人の間の空気が、光よりも鮮明に震えた。
三人は思わず走り寄り、エリスも同じように駆け寄る。 互いに抱き合う瞬間、言葉は要らなかった。
ただ、胸の鼓動が響き合うだけだった。
「エリス、元気そうだね」
アーヤの笑顔がはちきれる。
「みんなも、元気だったかニャ」
エリスも力強く聞いた。
「ずっと、会いたかったわ!」
「私も……ずっと……!」
グレイは少し離れた位置から、互いに微笑み合う。
「……なるほど。これが再会の力か」
グレイが低く呟く。
剣の柄を握る手が、少しだけ力を抜いていた。
イアンは静かに前に出て、穏やかな声で言った。
「皆さん、これから地底都市で試されるのは、力だけではありません。信頼、連携、そして絆です」
エリスはアーヤの手を握り、微かに笑った。
「オレも一緒に行くよ、アーヤ」
アーヤも強く握り返す。
「いいの?……また危険な目に合うかもよ……」
「何言ってるんだ!オレだけ置いてく気か?」
「死に損なったくせに……」
「おいおい、それはなしニャ……」
四人はエリスを囲んで再会のひとときを楽しむ。
「エリスがいると、私たちも心強いわ」
「そうですね!皆で力を合わせれば、どんな困難も越えられる」
ミラは小さく息を吐き、エリスに微笑みかける。
「では、皆さん準備はいいですか?」
イアンは大きく開いた入り口の先を指した。
「はい!」
「準備はいいわ!」
「よし、行こう!」
四人の声が、静かな通路に響き渡る。
光の橋を抜けた時とは違い、心の奥に確かな決意が宿っていた。
視線の先には、まるで大地そのものに抱かれているような暗闇が広がり、洞窟の天井からは鍾乳石から延び、そこから滴る水が静かなリズムを刻む。
「……思ったより、息が詰まるな」
グレイが肩をすくめる。
手は剣の柄にかけたまま、周囲を警戒している。
「でも……なんだろう、この懐かしい匂い……」
アーヤが小さく息を吸い込む。
湿った土と金属、そして微かに草木の香り。
それは地上では味わえない、洞窟独特の匂いだった。
「これがオレたちの進む道……」
グレイは鋭い視線を洞窟の奥に向ける。
「何が待っているかわからないけど……進むしかないですね」
ミラも深く息を吸い、前を見据えた。
「さあ、行きまょう!」
イアンは少し微笑み、彼らを静かに見守る。
「地底都市の扉は開かれました。あとは、皆さん自身の力で歩みを進めるだけです」
「…私たちの試練は、ここからが本番だわ」
アーヤが低くつぶやき、先頭を歩き出す。
アーヤ、グレイ、ミラ、エリス、そして静かに寄り添うイアン。
五人は互いの存在を確かめながら、地下都市テラノクスへと足を踏み入れた。
大地の深淵に向かうその道は、試練と絆、そして運命が交錯する、新たな章の幕開けだった。
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Z.P.ILY




