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アルディナの魔力  作者: Z.P.ILY
第一章 紅月の封印

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第5話:封印の綻び(後編)

 「アーヤ様、こちらへ……グレイ副長がお待ちです」


 「わかったわ」


 ミラはちょっと焦り気味にアーヤを促した。


ーー  ミラ・フィローネ  ーー

アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。

ーーーーーーーーーーーーーーー


 神殿の執務室へと案内されたアーヤは、乾いた木製の扉をくぐると、そこにはたくさんの書物が眠る大きな本棚があった。


 その奥に横たわる、大きな机に向かうグレイと再会した。


ーー グレイ・リヴァント ーー

 神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。

 筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。

 戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。

ーーーーーーーーーーーーーーー


 グレイは手に持っていた羽根のついた万年筆を置いてアーヤを見た。


 「アーヤ……来てくれてありがとう。ミラから話は聞いたよ」


 「すみません、勝手に奥の間に入って」


 「いいんだ……それより……」


 「はい。ステージ中央にあった石の状態を見ました」


 「何か感じたか?」

 

 「はい、何か紅いものが、ひび割れた石の中でうごめいていたようでした……それと……」


 「それと…?」


 「石と関係あるかどうか……最近よく夢をみるんです……」


 「……ほう、それはどんな夢だ?」


 アーヤは、さきほど封印の間で見た、封印石のひび割れと最近よく見る夢のことを包み隠さずに伝えた。


 「鎖に繋がれた碧い瞳の男が、紅い月の下で私に語りかけてきます。契約が果たされる……と。」


 冷静な神殿副長は、知性と厳しさが混じる瞳でアーヤを見つめていた。


 「あの石は一世紀前にあるものを封印した」


 彼の声には、いつもの落ち着きよりも、わずかな焦りがにじんでいる。


 「……あるもの?」

 

 「あぁ……」


 グレイは窓の外を見ながら少し間を置いて応えた。


 「……魔王だ」


 「……ま、魔王!」


 「もしかして、その魔王というのは……」


 「あぁ。アルディナに伝わる……紅月の魔王…カザズレイキ……」

 

 「昔話でしかきいたことないです」


 その昔話とは、紅月の夜に“魔王”が現れ、人と契りを交わし、ある代償と引き換えに混乱を鎮めたという。


 「その昔話は私も知っているが、この本に書かれていることが気になる。」


 グレイは机の上に広げられた古文書の束から一冊を取り出し、慎重にページを繰った。


 こげ茶色の分厚い本には「アルディナ記」と、書かれている。


 「“紅月の封印”については、“災厄の魔神を封じし聖地”としか公式の記録としては書かれていないが、きっと真実はもっと深い……。アーヤ、お前には知っておいてほしい。」


 「はい。わかりました。その封印が解かれようとしてる……」


 「あぁ。そうかもしれない。封印はその後になされた。“契りを破ると、再び紅月が咲く”とも伝えられている」


 「契り……?」


 夢の中で聞いた言葉と一致する――“契約は果たされる”。


 アーヤの細い指先が小さく震えた。


 「それが……わたしに関係あると?」


 「まだ断定はできぬ。だが、夢の中で“彼”の声を聞いたなら、おそらくお前は“鍵”の一端を担っているのだろう。もしくは……すでに選ばれてしまったのかもしれない」


 アーヤは戸惑いながら静かに下を向いた。

 胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じる。


 「それともうひとつ、他にも予兆のようなものがある。」


 「何か起こってるのでしょうか?」


 アーヤはもう一度顔を上げた。


 「最近、周囲の精霊反応が不安定になっていた。だが、それが封印にまで及んでいるかもしれない……」


 不安そうなアーヤの瞳は、グレイを突き抜けるように強くじっと見つめた。


 「わたしに何かできるんですか? それに、“契り”って、一体わたし……」


 グレイは黙ったまま目を閉じ、少しためらったように重々しく答えた。


 「契りとは、“心”と“魂”を結び、異なる存在をひとつにすること。それは神聖であると同時に、抗えぬ運命でもある。……アーヤ。お前はすでに、運命の扉の前に立っているのかもしれない」


 青白い静けさの中、時を告げる鐘の音だけが、晴れ渡った神殿の上空に響き渡っていた。

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