第7話:旅立ちの朝
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
ーー翌朝。
王都アルディナの空は薄青く澄み、朝日が城壁と尖塔を金色に染めていた。
石畳の道には露が光り、屋台の準備をする人々の声が広場にこだまする。
アーヤは胸の奥に残る昨夜の微かな震えを思い返しながらも、集合の場所へと歩を進めていた。
「またレオンたちを残してきてしまった……」
アーヤは度々家族を残して旅に出るのに罪悪感を感じている。
「一番乗りか……」
アーヤが神殿に到着してからほどなくして、グレイとミラが現れる。
互いに言葉少なに視線を交わすだけで、心の中にある決意は伝わった。
学術都市ガネリーホ……知識の都と呼ばれるその場所に、今回の調査の手がかりが眠っているかもしれない。
「……しばらく、帰って来られないかもしれませんね」
アーヤが振り返り、神殿の尖塔を見上げる。
白亜の塔は陽光にきらめき、王都の象徴としてそびえ立っていた。
「心配するな。必ず戻る」
グレイの言葉は短いが、揺るぎない。
それにミラも釣られて大きく息を吸い込み、笑顔を作った。
「そうですよ!だって私たち、封印も突破したじゃないですか!契約だって、きっと……!」
その声にアーヤが苦笑する。
「そうね……“きっと”を信じましょう」
三人は立ち並ぶ王都の街並みに視線を投げかけると、馬に荷を積み、ゆっくりと街門を抜けた。
アルディナの高い石壁が遠ざかっていく。
旅立ちを告げる朝の光が、背中を押していた。
やがて街道の先に、青い空と緑の丘陵が広がった。
風が頬を撫で、街の喧騒は背後へと遠ざかっていく。
「……ふぅ。なんだか緊張してたけど、外に出たらちょっとスッキリしました」
ミラは背伸びをしながら馬を進める。
「街道はここからしばらく続く」
グレイが前方を見据えたまま言う。
「特に最近は微振動の影響か、小さな異変が各地で起きている。油断しないほうがいい…」
「異変って……まさか魔物が増えてるとかじゃないですよね!?」
「……その可能性も否定はできん」
「ひぃぃ……!」
ミラの悲鳴に、アーヤが小さく笑って肩をすくめる。
「大丈夫よ。副長がいれば、そうそう危険にはならないわ」
「副長頼みですか……うぅ、やっぱり怖い」
「おいおい、失礼だな。倒せないみたいじゃないか」
ミラは馬のたてがみをぎゅっと掴み、少し背を丸めながら笑った。
「でも、あなたが怖いって言ってくれることで、私たちも気を引き締められるわ。だから、怖がることも大切なのよ」
「……そういうもんですか?」
「そういうものよ」
アーヤの微笑みに、ミラは元気を取り戻す。
「ルディアスの意見は“イアン”という人物に頼れ……ということだったが……」
グレイが低く呟く。
「ええ。隊長のお言葉なら、信頼できるかと思います」
アーヤはグレイの少し後ろを進みながら答えた。
「少なくとも、王都の記録ではこれ以上の情報は望めない。ならば、学識者の助けを借りるしかないでしょう」
「イアンさん……ですか」
ミラは不安を殺すように、少し浮かれた感じでついてくる。
「ミラ、何かガネリーホに楽しいことでもあるのか?」
「い、いや……な、なんでも……」
「ん……ちょっと、楽しそうだぞ?」
「そうね、ミラ、なんだか楽しそう…」
「そ、そんなことないですよぉ…」
ミラは不安を忘れるために想像していたことを、二人に見透かされているようで少し焦った。
「遠足じゃないんだからな」
「は、はい……わかってます……」
(あ、あぶなかった……ガネリーホの美味しいドーナツのこと考えてたのがバレるかと思った……)
ミラは心の奥で考えてたことが顔に出てしまっていた。
「でも、私……イアンさんって聞いたことないです。どんな人なんです?」
「少なくとも“変わり者”という評判はあるな」
グレイが答える。
「だが、知識にかけては王国随一とも。王城警護隊長が名を挙げたくらいだ……無駄足にはならないだろう」
「変わり者……かぁ。やっぱりなんだか不安です」
ミラは唇を尖らせ、視線を落とす。
「あの光る石だけでも怖いのに、次は変わり者さん……。副長、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫かどうかは、会って確かめるしかないな」
グレイは淡々と答える。
その冷静さに、ミラは思わず息をついた。
「……ミラ」
アーヤが優しく声をかける。
「怖いのは当然よ。でも、あなたが一緒に来てくれることで、わたしたちが助かる場面もある。だから……頼りにしているわ」
「わ、わたしが……?」
ミラはきょとんと目を瞬かせ、次の瞬間、頬を赤らめた。
「そ、そんな、私なんて、まだまだですけど……」
「それでも、役目はある。お前が感じる些細な違和感や勘は、俺やアーヤにはない強みになる」
グレイの低い声が重なり、ミラは胸の奥に小さな自信が芽生えるのを感じた。
「……うう、分かりました!行きますよ、ガネリーホ! 変わり者でも何でも来いです!」
ミラは自分がドーナツのことを考えていたことを、ぜったいに言えなくなってしまった。
拳を握りしめるミラに、アーヤとグレイが小さく笑みを浮かべる。
街道の旅は順調に進んだ。
広がる草原、木陰の涼しさ、野鳥のさえずり。だがその合間に、時折不穏な現象が混じる。
道端の地面が一瞬かすかに揺れたり、泉の水面に波紋が広がったり……。
「また揺れましたよ!今度は泉まで!」
ミラが目を丸くする。
「やはり、王都の周囲だけではないな」
グレイが土を掴み、じっと感触を確かめる。
「この揺れは……地の底から響いている」
「やっぱり契約の影響でしょうか……」
アーヤが眉を寄せる。
「テラノクスにたどり着かなければ、この揺れはますます広がるかもしれない」
三人は言葉を失い、しばし馬を進める音だけが響いた。
その沈黙を破ったのは、やはりミラだった。
「……副長、こういうのって……ぜったい“嫌な予兆”じゃないですか?」
「予兆だな」
「ですよね!?ほら、だから嫌なんですってばぁ!」
大げさに嘆くミラに、思わずアーヤが吹き出した。
「ふふ……でも、そうやって騒いでくれると少し安心するわ」
「え、な、なんでですか!」
「静かすぎると、不安が増すものよ」
「な、なるほど……? って、からかわれてますよね私!」
笑い声が草原に響き、緊張に包まれた空気が少し和らいだ。
こうして三人は、次なる目的地――学術都市ガネリーホを目指して、街道を進んでいった。
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
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Z.P.ILY




