第1話:大地の揺らぎ
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
ーー地底都市 テラノクス
「ふははははは……愚かなる世界め、今日もその愚行を重ねておるな!」
地底城の広間で、低く冷たい笑い声が大きく響く。
「ユルジークさま……先日のご命令……地上の都市に微細な裂け目が……」
従者が小さく震えながら、手に持った巻物を差し出す。
「こ、これにございます……」
魔王の威圧に声も震える。
王座に座るその巨躯は、漆黒のマントに包まれ、赤く燃える瞳が闇を裂く。
岩壁に反響する笑いは、まるで大地そのものを嘲るかのようで、空気さえ凍りつく。
「ふん……それだけか?まだまだ世界は退屈だな」
ユルジークは指先を軽く弾くと巻物は宙を舞い、床に叩きつけられ、文字が燃え上がる。
「お前らの無能ぶり、世界に笑われるに足るな!!!」
「ヒィィィーーー!」
従者はあまりの圧力に後退りする。
魔王の怒りはすぐに牙をむき、地底の空気が震える。
「だが……その小さな裂け目、使いどころはありそうだな……」
ユルジークの笑みは、人の形を借りた理そのものだった。
冷たく、深淵のように静かで、計算された悪意がそこに宿る。
あらゆる命を「素材」として見下ろすその眼差しに、地底城の闇さえも、彼の思考の延長として脈打っているかのようだった。
「動け!動かぬ者よ!」
従者たちは震えながら肩をすくめ、足を合わせて整列する。
ユルジークは地面に手を置き、微かに振動させる。
その力は地下を通じ、遠く地上の都市にまで微細な変化をもたらす。
大地の魔王の力が目覚める前触れだった。
「ふははははは……見ておれ、人間ども!」
ーー《大地の魔王 ユルジーク》ーー
魔王領エージェラにおいて、大地の魔王として君臨したその巨体が、地上への進出を始めようとしていた。
*****
ーー王都アルディナ
朝の光は、王都アルディナの石畳に柔らかく差し込んでいた。
行き交う人の話し声と荷馬車の車輪が石畳にリズムを刻み、街の朝の喧騒を柔らかく包み込んでいた。
城壁の影を抜け、街角に並ぶ市場の屋台からは、焼きたてのパンや香辛料の匂いが漂う。
アーヤ・アーデンは深く息を吸い込み、今日もこうして平穏な朝を迎えられたことに、小さく安堵の笑みを浮かべた。
ユリオとフィリアは広場で駆け回り、子供たちの笑い声が市場の喧騒に溶け込んでいる。
アーヤは通り沿いの屋台の前で立ち止まり、ふと顔をほころばせる。
「今日は何を食べようかしら……」
香ばしいパンの匂いに、思わず鼻がくすぐられる。隣の果物屋では、金色のリンゴが朝日に輝き、子供たちの声がにぎやかに響く。
「おはよう、アーヤ様!」
「おはよう!今日も元気ね」
小さな少女の元気な声に、アーヤは軽く頭を下げ、微笑んだ。
(こういう何気ない一瞬が、守るべきもの……なのね)
通りの向こうでは、少年たちが木剣を交え、師匠の声が厳しくも温かく響く。
「腰をもっと落として!重心を意識して!」
「はい!」
アーヤは思わず歩みを止め、少年たちの真剣な表情を見つめた。
戦いの日々を経験した彼女には、その純粋な努力の輝きが胸に響いた。
「お姉さん、今日はどのパンにする?」
「アンパンにしなさい、チョコは後でね」
子供たちの笑い声が耳に届き、アーヤは微笑みを抑えられなかった。
日常の温もり、それが何よりも尊い。
そんな中、ふと彼女の視線は遠くの空へと向いた。
空気にわずかなざわめきがを混じる。
(気のせいかしら……)
アーヤの胸には微かな不安がよぎる。
「…ん……地震?」
広場の噴水の水音が、柔らかな朝日に反射してきらめくなか、アーヤはわずかな地面の振動を感じたように思えた。
市場の人々は笑顔を絶やさず、挨拶を交わしながら日常を紡いでいた。
王都の日常は、何事もないかのように流れていたが、その静けさの奥には、目に見えない異変の気配が潜んでいた。
石畳の下、地面の奥深くで微かな振動が走る。
人々の目には映らず、耳にも聞こえない、それでも確かに存在する動き。
その振動は、長く眠っていた力が目覚める前触れに過ぎなかった。
アーヤはそのことを知らず、ただ家族との穏やかな時間に浸る。
「お母さん、ここにしようよ」
フィリアが広場から走って駆け寄ってきた。
「いいんじゃないか、ここで……」
「お父さん、ジュース飲んでもいい?」
ユリオが目を輝かせて手を合わせている。
「はっはっはっ、いいよ。好きなのを頼みなさい」
アーデン家は、朝食のため広場の一角にある小さなカフェに足を運ぶと、オープンエアのパラソルのあるテーブルに四人で座った。
レオンが静かに隣に座り、アーヤに微笑む。
「どれも美味しそうだな。君のおすすめは?」
アーヤは少し考え、焼きたてのクロワッサンを指さす。
「これにするわ。外はサクサク、中はふわふわなの」
彼女の笑顔は、戦いの記憶さえも柔らかく包み込むかのようだった。
そのとき、小さな悲鳴と共にユリオが足元で転んだ。
「わぁぁ!」
「ユリオ!大丈夫?」
アーヤは思わず手を差し伸べ、レオンと一緒にユリオを慰める。
子供たちの騒ぎに、周囲の人々も微笑みながら見守った。
こうした日常の一コマ……
それが何よりも確かな幸せだった。
*****
ーー学術都市 ガネリーホ
市街を見下ろす高台で、黒衣の男が立っていた。
イアン・セリウス――情報屋であり、魔王の兆候を敏感に察知する者。
彼の鋭い眼差しは、王国の喧騒の裏に隠れた危険を見逃さない。
「これは……ただの地盤の緩みじゃない」
イアンは地面の微細な振動と、地下から伝わる微かな気配を結びつける。
予感……いや、確信に近い感覚が、胸を締め付ける。
地下の深淵では、魔王の城がひっそりと目を覚まそうとしている。
誰も気づかない未来の序章が、静かに、しかし確実に始まろうとしていた。
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Z.P.ILY




