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アルディナの魔力  作者: Z.P.ILY
第一章 紅月の封印

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第46話:絶望の戦場

 聖地の空は、異様な紅に染まっていた。


 紅黒く光る満月がゆっくりと昇り、その光は廃墟と化した神殿の石壁に鋭く影を落としている。

 かつて神聖であった大理石の柱は粉々に砕け散り、瓦礫の山となって広場を覆っていた。


 重く濁った瘴気が空気を満たし、息をするだけで肺の奥が痛む。


 風が吹くたびに、微細な石片や埃が舞い上がり、目に痛みをもたらす。


 その中心に立つのは

   ――月の魔王カザズレイキーー


 完全体となったその姿は、言葉を失うほどの圧倒的存在感を放っていた。 

 

 黒い瘴気が体を覆い、碧い瞳が闇の奥底から光を放つ。

 角の先端は月光を受けて鈍く光り、翼は黒い炎のように揺らめいている。


 漆黒の鎧は、まるで生きているかのように光を吸い込み、周囲の景色を歪ませていた。


 瘴気の渦が巻き上がるたび、地面は震え、瓦礫が崩れ落ちる。


 まさに世界の中心で、闇そのものが姿を現したかのようだった。


 「クソッ!どうにもならん!攻撃がことごとく跳ね返される!」

 

 「まったく歯が立たないわ!」


 グレイとツバキの攻撃は魔王に傷ひとつつけることができない。


 「二人とも、下がって!」


 アーヤの攻撃魔法も、その全てを吸収されてしまう。


 「剣も魔法も効かないなんて……」


 「正真正銘の化け物……」


 低く冷たい声が、破壊された神殿の石壁に反響し、三人の胸を締め付ける。


 「……フハハ……退屈しのぎにもならんな……」


 ツバキは息を詰め、剣を握る手が微かに震える。


 「こんな存在が……いったいどうやって戦えばいいんだ……」


 グレイは剣の柄を力いっぱい握り直し、汗で滑る感触を確かめる。


 「何か……何か方法が……」


 アーヤは震える指で首元のペンダントを触った。

 森と月の精霊が宿る小さな石から、薄緑色の光が微かに脈打つ。


 (目の前にいるのは、ただの敵ではないわ。一世紀封印された、世界を滅ぼす力を秘めた存在……)


 アーヤの心臓の鼓動が耳元で響く。

 冷たい恐怖と、決して逃げられない絶望感が胸を押し潰す。


 ツバキは冷静を装いつつも、呼吸を整えることさえ困難なほどの瘴気に胸を押される。

 左腕の怪我もあってか、内心では、仲間の命を守れるかどうか、焦燥と不安が渦巻いていた。


 カザズレイキはゆっくりと翼を広げ、瘴気を振り払うように身を揺らす。


 「余興だ……力を試すにちょうどよい」


 カザズレイキは宙に舞った。


 広げた翼を大きく一度羽ばたかせると、漆黒の瘴気が波となって三人を押し流す。


 「う、う、うぁぁぁぁぁーーーーっ!」


 三人は必死に踏ん張ったが、その圧に耐えきれず後方へ吹き飛ばされた。


 「だ、大丈夫か!」


 「はい」


 「えぇ、なんとか……」


 カザズレイキの咆哮で地面が裂け、飛び散る瓦礫が直撃するかのように飛んでくる。


 三人は防御と攻撃を繰り返すも、どの攻撃も魔王の体には届かず、まるで遊びのようにかわされる。


 戦場は絶望そのものだった。


 瓦礫の山に跳ね返る瘴気の波、紅い月光に照らされた漆黒の魔王。


 三人の力をもってしても、押し返すことができない。


 心の底から恐怖が湧き上がり、思わず後ずさる。


 しかし……守るべきものの存在が、アーヤたちを奮い立たせる。


 退くことなど到底できない。


 「わたしがやらなきゃ……」


 アーヤは必死に立ち上がり、カザズレイキに攻撃を仕掛けようとしたその時、紅月の光の中で、まるで希望の道筋のように声が響く。


 「アーヤ!」


 「アーヤ様!」


 アーヤは、声の方に目をやると、そこにはカイに支えられたエリスの姿があった。

 翼を広げてアズリも飛んでくる。


 アーヤの声が震える。


 「エリス!ミラ!アズリ!」


 「遅くなってすまない……アレが魔王か……」 


 絶望の中に、確かな光が差し込む瞬間だった。


 カザズレイキはゆらりと着地し、碧い瞳でエリスを捉える。


 「死に損ないだな……」


 三人の心臓が再び鼓動し、力が漲る。

 絶望と希望が入り混じるこの戦場で、戦いは、ここから本格的に始まろうとしていた。


「アルディナの魔力 第一章 紅月の封印」お読みいただきありがとうございます。

 今後の展開や、執筆における参考とさせていただきますので、是非、評価をお願いいたします。

 誤字や脱字がありましたら、遠慮なくフォームよりご報告ください。

 また、本作品へのご意見やご要望につきましては、メッセージ等で随時受け付けております。皆様からの忌憚のないご意見等をお待ちしております。

                   Z.P.ILY

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