第36話:ツバキの探し物
暖炉の炎が静かに揺れる中、ツバキはふっと視線を遠くにやった。
(……今回は無事に助けられてよかった……でも、またいつ襲ってくるかわからない……)
彼女の胸には、戦士としての使命感と、村人や仲間への想いが渦巻いていた。
アーヤやグレイたちの姿から、改めて戦いの重みを感じる。
「ツバキさん……あなたは、いつも迷わず行動できるのね」
アーヤがそっと呟く。
ツバキは小さく微笑み、視線をアーヤに戻した。
「迷わず……と言えるかはわからないわ。でも、見失いたくないものがあるの。大事なものを守るためなら、何度でも立ち上がらなくちゃ」
その言葉には、村を守る戦士としての覚悟と、探している「何か」への静かな焦燥が含まれていた。
「強いわね、あなたは……」
「アーヤはどうして戦ってるの?」
「大切なものを守るため……もあるけど、それだけじゃない何かがわたしを呼んでる気がするの……」
アーヤはツバキにこれまでのことをゆっくり話し始めた。
紅い月のこと、封印のこと、ルーナ・グローブや貨物船でのこと……
「……あなたも、とっても強いわ」
「…これがわたしたちの運命なのかしらね」
アーヤはツバキの顔を覗き込んで、小さく笑った。
ツバキは、アーヤの話の中でひとつ気になっているものがあった。
ーールーナ・グローブで出会った精霊"リューネ"ーー
ツバキはリューネのペンダントが、もしかしたら自分たちが探し続けてるものではないかと考えた。
「アーヤ、精霊から受け取ったペンダントって……見せてもらえるかしら?」
ツバキが探し求めているのは、単なる物や情報ではない。
村を守るために必要な鍵となるものだった。
「この村にも、おそらくその封印の綻びが少しずつ影響を及ぼしている……」
ツバキは暖炉の炎に手をかざしながら呟いた。
「黒い鎧が現れたのも、封印の力の影響かもしれない。私たちはまだ、完全には把握できていないの……」
「……ツバキ、これよ。」
アーヤが首からぶら下げていたペンダントを引っ張り出して、ツバキに見せた。
リューネからもらった銀のペンダントは、ほんのり緑色の光をまとっていた。
「こ、これは!!!」
ツバキは驚きを隠せない表情で、言葉を失った。
「アーヤ……あなた……もしかして……太陽の紋章を……」
「肩にあるアザのことかな?副長もそんなこと言ってたけど……」
「カイ!見つけたかもしれないわ!」
ツバキは抑えきれない高揚を隠せずに叫んだ。
「ツバキさん、見つけたって何をですか?」
「アレよ!アレ!わたしたちが探してるもの!」
「ホ、ホントですか!」
カイも興奮気味に自然と声が大きくなる。
ツバキとカイの反応を目の当たりにしたグレイが問いかける。
「ツバキ、教えてくれないか。いったい何を探してるんだ?」
「……」
ツバキは少しためらったが、口を開いた。
「グレイ、私たちは聖地に仕えてたものの末裔なの」
「な、なんだと!?」
「聞いたことあるニャ!聖地を守る獣族!」
「聖地のことを、何か知っているのか?」
「えぇ、私たちは聖地の管理人。しかし、ここ数日、聖地の様子がおかしいの。何か巨大の力を感じるわ」
四人はお互いに顔を見合わせた。
「ツバキ、わたしたちは聖地に向かってるの」
「えぇ、うすうす感じてたわ。そしていずれここで会えることも……」
エリスの左目が光る。
「オレも…見つけた…ニャ」
「わたしの勘は間違ってなかった。わたしたち、ここで出会うのが運命なのよ」
村の外にはまだ夜の静けさが残り、遠くの森からはかすかに風の音が響く。
いま、ここにいる誰もが気づきはじめていた。
すべてが運命でつながっていることを……
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Z.P.ILY




