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アルディナの魔力  作者: Z.P.ILY
第一章 紅月の封印

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第31話:ラースカへ

 「馬車と荷物はどうする?」


 「応援を頼もうと思います」


 「そうか…どこまで行くんだ?」


 「ラースカ村です」


 グレイとアーヤが顔を見合わせる。


 「オレたちもラースカに向かってるんだ。ここからラースカはどのくらいかかる?」


 「急げば太陽が真上のときにはたどり着けます」


 「あくまでキツネの足での話か」


 「わたしたちはこの山道にキツネだけが通れる"抜け道"を張り巡らせてます。そこを通ればもっと早く行ける」


 「もしかしてオレもその通路に入れるかニャ?」


 「あなたは……」  


 「オレも獣族ニャ。エリスって呼んでくれ」


 「エリス、あなたなら通れるかもしれません。しかし、わたしたち以外は通すなと……我々のリーダーがそう言ってます」


 「仲間だけの秘密ってことか……獣族らしいニャ」


 「わかった、カイ。それじゃあまたラースカで会えるかもな」

  

 「はい」


 カイは丁寧にお礼を伝えると、後ろ向きに一回宙返りをした。すると、人間の姿をしたカイがキツネに変わった。


 「それでは、本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」


 カイは四人にお礼を伝えると、あっと言うに山林の中に走って消えていった。


 「よし、オレたちも急ごう!」


 険しい山道は、いよいよ折り返し地点にかかろうとしていた。


 「とりあえずあそこまで行こう」

 

 グレイが指さした先は、山頂に近い、見晴らしの良さそうな開けた場所だった。


 眼下に広がる山あいの景色は、これまでの疲れを吹き飛ばすものだった。


 谷間を流れる透明度の高い川、その両側はこのあたりでしか見られない緑豊かな植物が覆い尽くす。 

 

 「すてきだわ……」


 「あぁ……この達成感は……なんなんだろうな」


 「フーッ、まだここで半分かニャ……」


 「結構きましたね」 


 四人の感覚はそれぞれでも、ここまで来られたという一体感は崩れなかった。


 「おそらく、あそこに見える集落がラースカだな」


 「あの曲がりくねった道の向こうね」

 

 ーーゴクッ、ゴクッ、ゴクッーー


 「プハァァー!まだまだ先はありそうだニャ」


 エリスは水をガブ飲みした口を拭いながら嘆いた。


 「おいおい、そんなにガブ飲みしたらこの先に使う水がなくなってしまうぞ」


 「そんなこと言ったって、喉がカラッカラだニャ」


 「とりあえず、ここまで無事にこれてよかったわ」


 アーヤは荷物の入ったリュックの紐を調整しながら、安堵のため息をつく。


 「ここから先は、急なくだり坂が続く。気を抜くなよ」


 グレイは地図を確認しつつ、足元を慎重に見つめる。

 ミラも小さく頷き、もってきたサンドイッチを口に詰め込んだ。


 「まだラースカは遠いのかしら……」


 アーヤの問いに、グレイが答える。


 「急げば日没前に余裕でたどり着ける。だがこの山道は下り次第だ」


 しばしの休息のあと、四人は再び山道を進みだす。


 「よし、出発だ!」


 「よい…しょ……っと、少し荷物が軽くなったわ」


 「行く…か……ニャ」

 

 「ま、待ってください!ま、まだ、準備が……」

 

 グレイは、ミラの支度を待ちながら、アーヤとエリスを先に行かせた。


 「ミラ、大丈夫か?…少しオレが荷物を持とう」


 「あ、ありがとうございます」


 山道の下りは傾斜が増し、足元の岩や木根が複雑に絡み合う凸凹道になっている。


 「滑るから足元に気をつけろ。あと、下りは膝を痛めるぞ。体重がかからないようになるべく杖を使うんだ」


 ところどころに小さな滝やせせらぎが現れ、森の緑が光と影のコントラストを描く。

 

 「ほっ、ほい……っと…」


 「いいわね、エリスは。身軽で……」


 「獣族の特権ニャ!」


 エリスは周囲の木々に目を配り、時折道を外れて枝から枝へ軽やかに渡っていく。


 「あの抜け道が使えたらなぁ」


 エリスはカイの言ってた抜け道のことを考えていた。


 「…もっと早く行けたのに……」


 長くて急な下りの山道は、予想通り体力を削っていく。

 エリスは元気だ。


 「この道、あとどのくらいかしら、そろそろ抜けてほしいわ」


 「アーヤ様、わたしが先導しましょうか?」


 「ありがとう、ミラ。でも大丈夫。まだイケるわ。」


 アーヤが笑みを浮かべる。


 険しい道は、最後の折り返しを曲がったところで、ようやく視界が開けた。


 前方に小さな谷を挟んで村の家屋と思われる屋根が見え始める。


 「見えた!……ラースカ村!」


 ミラが声を上げると、四人の足取りが自然と軽くなった。


 「あと少しだな」


 グレイが言うと、全員が最後の力を振り絞り、山道を進む。


 「ふぅーー。やっと着きそう」


 「カイのやつ、どうしたかな」


 足元は、ゴツゴツの山道から比較的平坦な道に変わっている。風に乗って村の匂いや人々の声が届いてきた。


 「村に着いたら、少し休めるわね」


 アーヤは微笑みながら、これから待つ平穏なひとときを思い描いた。


 「フィッシュバーガーあるかニャ?」


 「おそらく、それはないな。山だし……」


 アーヤは、グレイとエリスの会話が少し弾んでるように聞こえた。


 「……あれ?」


 エリスは村の方を見て目を細める。


 「あそこ……あそこの灯り……なんか揺れてないか?」


 よく見ると、屋根の向こうに淡い煙のようなものが立ちのぼっている。


 遠くで聞こえていた人々の声も、よく耳を澄ませばざわめきに変わりつつあった。


 四人は、村に着く安心感に加えて、何かわからない不安を感じつつ、村へ向かって進んでいった。

「アルディナの魔力 第一章 紅月の封印」お読みいただきありがとうございます。

 今後の展開や、執筆における参考とさせていただきますので、是非、評価をお願いいたします。

 誤字や脱字がありましたら、遠慮なくフォームよりご報告ください。

 また、本作品へのご意見やご要望につきましては、メッセージ等で随時受け付けております。皆様からの忌憚のないご意見等をお待ちしております。

                   Z.P.ILY

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