第30話:成長の峠道
朝の光は、街を出たばかりの山道を柔らかく照らしていた。
石畳が途切れ、細い土の道が森の奥へと続いている。
「ここから山に入るわ」
「足元に注意しろよ」
グレイの先導で、四人は峠道へと足を踏み入れる。
「エリス、待ってよぉー」
「しっかり着いてくるニャ!」
「体力の配分に気をつけないとバテるぞ!」
グレイはこのパーティー全体が力を合わせれば、何倍にも強くなれることを確信していた。
「木陰と風が気持ちいいわ」
「あぁ、しかしこれから山を登るにつれて気温は下がってくるぞ」
木々の間から差し込む光は、葉の隙間で揺らめき、地面に斑模様の影を落としていた。
「ラースカ村までは一本道だ。地図をみてくれ、この先の岩場で一旦休憩を取るぞ」
グレイが地図を手に指を置きながら告げる。
他の三人は軽く頷きながら、足元をみて慎重に進む。
緩やかな上り坂がしばらく続く。
四人の列は、ほぼ等間隔で距離を保ち、グレイの後を三人がその足跡をなぞるように進んだ。
「よし、着いたぞ。休憩しよう」
グレイは地図で示した岩場の木陰に、四人が休めそうな場所を確保した。
「ふぅー、なかなかの険しさニャ」
「ミラ、大丈夫?」
「はい!なんとかついていけてます!」
ミラは肩で息をしながら、アーヤの心配を振り払うように言った。
「なんだか、ミラは強くなったわね」
「…そうですかぁ?なんにも変わってないですけど……」
ルーナ・グローブや貨物船の戦闘を得て、ミラは確実にたくましくなっている。
「ミラって、何か魔法を使えるの?」
「はい。ちょっとだけ……ずっと練習してたんです」
「そうなんだ」
「ヨートナシで休養してる時もコソ練しちゃって……」
「へぇー気になるわね」
「たいしたことないですよぉ。何か役に立てないかなぁ…って」
「わたしはディフェンス魔法が多いけど、ミラはどうなの?」
「はい、今はヒーリング系を中心に練習してます……まだあんまりうまくいかないんですけど……」
「いいわね。とても役立ちそう。魔法って使う人の想いが乗るから、きっとミラの魔法は優しい魔法ね」
「そうですかねぇ。最近コツをつかめそうで、少し気合い入っちゃってます」
「いいことじゃない。わたしももっと勉強しないと…もっと攻撃にも強くなりたいわ」
「アーヤ様はなんでもできるから…すぐに習得しちゃいますよぉ」
アーヤはミラの成長に驚きを隠せなかった。実戦での経験が彼女を強くしていた。
グレイは、この先のルートを再確認する。
「この先の林道は、登りがキツくなってる。ペースに気をつけて進むんだ」
「今日の山場かニャ」
「林道を抜ければ、ラースカが見えてくるはずだ」
「林道か……思ってた通り本格的ね」
アーヤは荷物を背負い直し、肩の負担を確かめる。
ミラも小さく息をつきながら、山の匂いと冷気を吸い込んだ。
「水分補給は大丈夫?」
「あぁ、そろそろ出発しよう!」
「行きましょう!」
グレイとアーヤの掛け声で、四人はまた進み出す。足取りはまだ軽く、道の先に待つ未知の景色を楽しむ余裕もある。
「そういえば、あのフードの人…」
アーヤがぽつりと口を開く。
「またどこかで会えるかしら」
「ふむ……旅路で出会う人物は、意外と再び姿を現すことがあるからな。きっとどこかで会えるだろう」
グレイの視線は前方にありながらも、どこか警戒心を湛えている。
山道の傾斜は少しずつ増し、足元のゴツゴツした岩や太い木根が四人の進行を緩める。
四人は互いに声を掛け合い、笑顔や冗談も交えながら、一歩、また一歩と林道を進んでいく。
鳥のさえずりや葉擦れの音、遠くの小川のせせらぎが絶えず耳に届く。
自然の中を進む旅は、心地よい緊張感とわずかな解放感を同時に感じさせる。
林道をしばらく進むと、前方から白い土煙が立ちのぼっているのが見えた。
「何……アレ……」
「……何かあったみたいだな」
グレイが足を止め、手を挙げて仲間に警戒を促す。
「煙か?」
「そんなに遠くないニャ」
「行ってみましょう!」
四人が急ぎめで煙に近づくと、崖沿いの道が一部崩れ落ち、荷馬車ごと道を塞いでいた。
「だ、誰かーっ!助けてーー!」
崩れた岩の下敷きになりかけた旅人が、岩の間から出られず、必死に声を上げていた。
荷馬車は車輪が傾き、木箱や荷が散乱している。
「大丈夫か!すぐ助けてやるからな!」
「ミラ、手伝って!」
アーヤとミラはすぐに駆け寄り、岩をどかし始める。
「アーヤ、無理するな!オレがやる!」
グレイが力強く岩を押しのけ、重い石がごろりと転がった。
エリスは左目に意識を集中し、周囲の林を鋭く見渡している。
「大丈夫か!」
瓦礫の下から這い出してきた青年は、荒い息をつきながらも、必死に立ち上がろうとした。
「うぅ……あ、ありがとう。あと少しで押し潰されるところだった……」
「怪我はないか?」
グレイが低く声をかけると、青年は足を押さえ、苦しげに答える。
「足を少し……でも、命を救われた」
よく見ると、その人物は人とは異なる特徴を持っていた。
ーー尖った耳、ふさふさした尻尾ーー、
「お前!尻尾が!」
「あ……あぁ、僕は……実はキツネなんです……」
「キ、キツネ!あの宿屋での話…ホントだったんだ!」
アーヤは昨日の宿屋での話しを思い出した。
「聞いたことがあるニャ。人に姿を変えられる獣族」
エリスはなんとなく親近感が湧き、胸が高鳴っている。
「足から血が!」
「早く手当をしないと……」
「だ、大丈夫です……うっ!」
「ちょっと、試してみていいですか?」
ミラは誰の許可も得ることなく、右の掌を青年の足にかざした。
「癒しの光よ、ここに…」
ミラが小さな声で呪文を唱える。
掌から放出される青白い光が傷口を包み、みるみるうちに傷がふさがっていく。
「す、すごい……」
青年の傷口はあっという間にふさがった。
「なんともない!さっきのケガがウソのようだ!……ありがとうございます!」
青年は驚きと感謝を込めてミラを見つめ、それから四人全員に深く頭を下げた。
「僕は……カイ。ある方に仕えるキツネです。あなたたちのこのご恩は忘れません」
その目は、ただの旅人とは思えない強さと誇りを秘めていた。
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Z.P.ILY




