第26話:曇天の誘い
買い物を終えた四人は、それぞれの荷物を肩に掛け、賑やかな市場に別れを告げて、ゆっくりと歩き出した。
「ちょっと買いすぎたかニャ」
「でも、あれだけ見せられると手が出ちゃいますよ」
「まだ先もあるしね。買えるとこで買っとかないと……」
空は厚い鉛色の雲に覆われ、潮風が運ぶ塩の匂いとともに、遠くから雷鳴が時折響く。
「……にぎやかな港だったな」
グレイが声を潜めて言った。
「もっとここにいたかったけど……仕方ないかな……」
ミラは名残惜しそうに通りの屋台を振り返る。
エリスは鋭い目で周囲を警戒しつつ、買った薬草をそっと鞄にしまった。
「さあ、次の目的地へ。聖地に向かう道は長いし気を抜けない。またいつあのような襲撃に合うかわからないからな」
「そうね、気をつけましょ。」
グレイは市場でのひとときを、完全にかき消す勢いで、気合をいれた。
アーヤは足元の石畳を見つめながら、胸の中のざわつきを抑えた。紅い月の男、リューネ、イアン、それぞれの言葉がまだ耳に残っている。
(みんな……運命……って……)
そして港で見かけたフードの人物。
「あのフードの人……気になるわ」
アーヤは決意を固めるとともに、深まる謎を整理しつつ歩き続けた。
「ここママベントには、やはり何か特別なものを感じるわ。私たちの知らない何か……ただの思い過ごしじゃない気がする」
グレイは黙って頷き、少し離れた路地をちらりと見やった。
「何かが動いているのは確かだ。だが、私たちの進む道はこれからだ。」
四人は港の外れにある街道へと足を向ける。やがて古びた街の喧騒が遠ざかり、北から吹き付ける冷たい風が強まる。
「雲行きが怪しくなってきたわね」
「とりあえず宿につくまで持ってくれればいいが……」
「急ぎましょ。次の宿までまだ少しあるわ」
「さあ、行こう。まだ見ぬ未来へ」
エリスが意気揚々と前を歩き出すと、ミラもその後ろを軽やかに追いかける。
(待っててね……フィリア、ユリオ)
道中、アーヤは家族のことを思い浮かべる。
レオンに託してきた子供たち二人。
遠く離れていても守りたい者たちの存在が、彼女に静かな力を与えていた。
グレイは周囲の警戒を怠らず、意識は常に剣の柄に置き、アーヤの隣で静かに歩を進めた。
蒸気船の煙と港の喧騒が遠ざかる中、彼らの旅は新たな一歩を刻み始めていた。
その先に待つのは、過酷な試練と、希望の光が交錯する聖地。
風が彼らの行く手を押しもどし、曇天の広がる方へと突き進んでいく。
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Z.P.ILY




