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アルディナの魔力  作者: Z.P.ILY
第一章 紅月の封印

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第22話:避けられない運命

 船上での戦いを終えた四人は、休息と傷の手当てのため、船室へと移動していた。


 「やっかいなヤツだったな」


 「あんなのがこれからも襲ってくると思うと、ちょっと不安だわ」


 「いったい何が起こってるんだ?」


 「エリス、お前の瞳でも見えないのか?」


 「残念ながらいまのところは……ニャニャ」


 戦や闘で受けた手当てはできているが、心の整理がまだつかない。


 「皆さん、これを飲んで元気出してください」


 「おぉ、すまんな」


 ミラが全員分のお茶を運んできた。


 蒸気船の内部は、機械音と水の揺らぎが混ざり合い、どこか傲慢で孤独な調べを奏でている。 


 アーヤは薄暗い部屋の角に座り、ゆっくりと呼吸を整えていた。


 (この先に待つものは、いったい何なのだろうか……)


 誰にも聞かれぬまま小さく呟いた言葉は、冷たい金属の壁に吸い込まれていく。

 心の中に渦巻く思考の波は、静かにだが確実に彼女を揺さぶっている。


 「わたし、ちょっと風を浴びてくるわ」


 「あぁ、気をつけろよ」


 アーヤは、ミラが持ってきたお茶を一杯飲み干すと、ゆっくりと部屋を出ていった。


 「ルーナ・グローブあたりからいろんなことが起こりすぎて、アーヤにもかなり疲労が溜まってる」


 「ルーナ・グローブ?あそこの森で何かあったのか?」


 「そうか、エリスは知らなかったな」


 グレイは、ルーナ・グローブのことを掻い摘んでエリスに説明した。


 「そうだったのか、そんなことが……大変だったな……しかしミラが無事でよかったニャ……」


 「ありがとうございます、でも、アーヤ様にはホントにご心配をおかけしました」


 アーヤが甲板に向かって船内の薄暗い通路を歩いていると、背後から背筋をなでるような足音が近づいてきた。


 ーーコツ、コツ、コツ、コツーー


 ゆっくりと振り返ると、そこには薄紫色の長髪を揺らし、紳士風に身なりが整った一人の男が立っていた。


 淡いグレーの瞳が、静かに彼女を見つめている。


 「迷っていますね、アーヤ・アーデン」

 

 その声は静かで落ち着いていたが、どこか遠くを見通すような深みを帯びていた。


 驚きと警戒が胸をよぎるも、アーヤはすぐに冷静さを取り戻し、問いかける。


 「あなたは……?……どこかでお会いしましたか?」


 男はゆっくりと歩み寄り、微かな笑みを浮かべた。


 「あぁ。どこかで会ってるかもしれませんね」


 その言葉は謎めいているが、確かな重みを持っていた。


 (この人……誰なんだろう……なぜ私のことを知ってるの……)


 アーヤは過去の記憶を呼び起こすが、やはり面識はない。


 「私はイアン。旅路の途中でこの船に乗りました。あなた方の行く先を少しだけ知っています」


 「あの……なぜ私の名前を知ってるの?よくこの船に乗れましたね」


 アーヤは恐る恐る尋ねてみる。

 

 船の小さな揺れが床を伝い、ランプの灯がわずかに揺らいだ。


 「それは……顔に書いてありますよ。そして私はこの船の船長と馴染みでしてね」


 曖昧な回答が、アーヤのイライラを増幅させる。


 しかし、イアンの瞳には、まるで過去と未来の狭間を見つめるような色彩が宿っていた。


 「この船は、あなた方にとってただの移動手段ではない。運命を揺るがす場所でもあります」


 「何を言ってるの。もしかしてあなた……」


 「フフッ。わたしは何もしてませんよ……濡れ衣ですね……」


 イアンの声は低く、しかしなぜかその一言一言がアーヤの心に深く染み渡った。


 「さっきの戦いももしかしてどこかで見てたの?」

 

 「えぇ……拝見させていただきました」


 「見てるだけなんて、趣味が悪いわ……」


 「すみません、貴方がたのほうが有利だとみましたので……」


 アーヤはゆっくりと息を吸い込み、大きなため息をついた。そして答える。

 

 「覚悟はできています。どんな試練が来ようとも、進み続けます。いや、進むしかないんです」


 二人の間に言葉は多く交わされなかったが、重なり合う視線の中に、確かな繋がりが生まれた。


 「フフッ……そのようですね……」


 蒸気船の機械音が静かに響き渡り、船内のランプの灯が小さく揺れる。


 イアンとアーヤは、しばし言葉を交わさぬまま、その場で立ち尽くす。


 蒸気船の揺れに伴って、船内の空気が揺れた瞬間、アーヤが口を開いた。


 「……あなたは、これから起こることが何か知っているの?」


 問いかけながらも、アーヤの声にはためらいが混じっていた。


 「知っているとも言えるし、知らないとも言える。だが、避けられない道筋ですね」


 (……また曖昧な回答)


 アーヤの苛立ちがまた少し増す。


 イアンはわずかに目を細め、その瞳の奥に遠い光を宿す。


 「今はまだお答えできません……しかし、これだけはお伝えしておきましょう。あくまで通過点だと……」


 金属の軋みと油の匂いが、密閉された通路の空気に重く溶け込み、二人の間に張り詰めた膜を作っている。


 「何でもいいので、何か知ってるなら、教えてもらえませんか?」


 アーヤは強い口調でイアンに迫る。


 「あなたの進む道はあなた自身のものです。わたしがとやかく言えるものではありません……フフッ」


 彼の声音には、妙に落ち着いた深みがあった。


 「なんかズルいわ。ようするに自分を信じるしかないってことね」


 「信じる、或いは受け入れる、それだけです」

 

 アーヤは会話の中で彼の視線の奥を探ろうとするが、そこはまるで底知れぬ深海のようで、掴もうとするほど距離を感じさせる。


 淡々と放たれた言葉は、まるで海霧のようにアーヤの心に入り込み、輪郭を曖昧にしていくのだった。


「アルディナの魔力 第一章 紅月の封印」お読みいただきありがとうございます。

 今後の展開や、執筆における参考とさせていただきますので、是非、評価をお願いいたします。

 誤字や脱字がありましたら、遠慮なくフォームよりご報告ください。

 また、本作品へのご意見やご要望につきましては、メッセージ等で随時受け付けております。皆様からの忌憚のないご意見等をお待ちしております。

                   Z.P.ILY

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