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アルディナの魔力  作者: Z.P.ILY
第一章 紅月の封印

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第1話:神殿の朝

 柔らかい光の中、アーヤは神殿の大広間に一人立っていた。

 冷たい石床の感触が足裏に伝わり、深呼吸と共に祈りの詠唱を口にする。


 「星よ、古の契りを今一度、我が身に宿せ…」


 幾度となく繰り返してきた呪文は、彼女にとって日課であると同時に、重い責務の象徴でもあった。


ーー アーヤ・アーデン ーー

 彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。

 以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。

 夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。

ーーーーーーーーーーーーーー


 見守るように掲げられた神殿の紋章が、薄く光を放つ。


 修行の合間に、アーヤは過去に聞いた伝説や封印の意味を思い返す。

 そして、胸の中にひそむ不安が静かに膨らんでいくのを感じた。


 神殿の静寂を破るように、遠くから乾いた鈴の音が響いてきた。

 見習いの修行僧たちが朝の祈りの準備に動き始めている。


 アーヤはゆっくりと瞳を閉じ、深呼吸を一つ。


 「今日も、無事に過ごせますように」


 小さな声で祈りながら、彼女は祭壇の前に進んだ。


 だが、その瞬間――や


 祭壇の奥に据えられた封印石が、かすかに音もなく震えた。


 見間違いかと思うほどの小さな揺れだが、それでもアーヤの目は逃さなかった。


 「気のせいかしら……」


 空気がひやりと変わる。


 「あの石、いま動いたような……」


 まるで見えない何かが神殿の奥から這い出してくるような、不快な圧がじわじわと肌を這った。


 (……トクン……)


 心臓がひとつ、跳ねる。


 血の巡りが耳鳴りとなって押し寄せ、喉の奥で声が凍りついた。


 「……何かが……おかしいわ……」


 口にした言葉は、誰にも聞かれぬほどの小さなささやきだった。

 それでもその言葉は、確かな実感となって彼女の中に沈む。


 そのとき――


 神殿の重い扉が音を立てて開いた。


 石造りの床に、重く確かな足音が響き始める。

 低く、ゆっくりと、神殿の静寂を切り裂くように。


 アーヤの背筋はかすかに強張った。


 昨晩みた夢の不吉な感覚が、まだ胸の奥に残っていた。

 

 だが、振り返ってみると、そこに現れたのは、普段から見慣れた顔だった。


 「……グレイ副長」


 整えられた黒髪に年季の入った法衣をまとった男が、静かに近づいてくる。

 その瞳には冷静な知性が宿り、ただの巡回でないことがすぐにわかる。


 「いつも朝早くからご苦労さま」


 グレイの声は低く、穏やかだが、どこか探るようでもあった。


 「はい。でも、今日は少しだけ早く目が覚めてしまって…」


 アーヤは慌てて姿勢を正し、微笑みを浮かべて応じた。

 だが、その頬の緊張を彼が見逃すはずもなかった。


 グレイは祭壇の奥へ目をやり、わずかに眉をひそめる。


 「……封印石、何か気づいたか?」


 いきなり確信をつかれ、アーヤの呼吸が止まりかけた。


 「あ、はい……あの石が少し動いたような気がして……」


 グレイは続ける。


 「本殿だけじゃない。南の小神殿でも、昨夜、同じような微細な反応があったそうだ……封印の効力が弱まってるのかもしれん」


 その言葉に、アーヤの胸の奥で昨夜の夢がざわめいた。


 ーー 紅い月、碧い瞳 そしてあの声 (ここから出してくれ…)ーー


 彼女は何も言わず、ただ静かに首をゆっくり左右に振った。


 「……いや、気のせいだったかもしれません」


 グレイは、彼女の気持ちを察したのか、それ以上の詮索はせず、ただ一言だけ残して踵を返した。


 「……用心するんだ、アーヤ」


 扉が閉まる音だけが響き渡り、再び神殿の大広間には静寂が戻る。

 だが、その静けさは、もう以前と同じではなかった。




「アルディナの魔力 第一章 紅月の封印」お読みいただきありがとうございます。

 今後の展開や、執筆における参考とさせていただきますので、是非、評価をお願いいたします。

 誤字や脱字がありましたら、遠慮なくフォームよりご報告ください。

 また、本作品へのご意見やご要望につきましては、メッセージ等で随時受け付けております。皆様からの忌憚のないご意見等をお待ちしております。

                   Z.P.ILY

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さらなる展開が楽しみです!続きが気になります!
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