第18話:乗船!
船上は、潮の香りと湿った木の匂いが入り混じり、機械音と合わさってどこか不穏な気配が漂っている。
「世話になるニャ」
「お前の頼みなら仕方がない。ちょっと危ない橋だけど、なんとかなるだろうよ」
「無理言ってすまないニャ」
「こいつらは誰なんだ?」
「あぁ、なんだか聖地に行きたいんだと」
「聖地かぁ。あそこはもう何もないぞ」
「オレも詳しくはしらないけど、封印がどうとかって言ってたニャ」
「封印?」
「とりあえず迷惑はかけないニャ」
エリスは船長と会話したあと、三人の待つ甲板へ向かった。
アーヤたち三人は、蒸気船からじわじわと離れる桟橋を見ながら、封印の綻びによる不安を隠せずにいた。
「この先に……あの夢の答えが待っている……」
アーヤは時折、あの夢の……碧い目の男を思い浮かべる。
港から半刻ほど離れたあたりで、四人はゆっくりと動く船の甲板から船室に向かった。
貨物船の中に、申し訳ない程度に作られた船室は、やはり狭かった。
「狭いわね」
「仕方ないさ。ママベントまでだ、我慢しよう」
「とりあえず、荷物を置いて……っと」
「オレはどこでも寝れるニャ。なんなら甲板でもいいニャ」
「やっぱりネコだわ。木の上でも寝そう……」
「なんか言ったか?……ニャ?」
ミラは小声でエリスのネコぶりを囁いて、狭い部屋の隅に荷物を置いた。
潮の香りと混じった油の匂いが鼻を突く。鋼鉄の床が揺れ、足元が不安定だった。
「おっとっと。ちょっと揺れがひどいニャ」
「天候が回復するまでは揺れるだろうな」
「ちょっと気持ち悪くなりそう」
「直になれるわよ」
雨が降る航海は、バランスには自信があるエリスでさえ、揺れを強く感じるほど波が高く、船に乗り慣れない三人には堪えるものがあった。
「ここが船内の拠点になるかニャ?」
エリスが鋭い目で辺りを見回す。
「ここなら人の目も届きにくいが、行動範囲が限られるな」
グレイがエリスの意見に同調するように答える。
アーヤは布袋を慎重に下ろし、周囲を警戒しながら荷解きを始めた。
「見張りはどうする?」
グレイが提案する。
「私が見張る。雨の音に紛れて動けるわ」
ミラが即答した。
「ダメだ!お前はまだ寝てろ!体調を整えるんだ。」
グレイは親が子を思うような強い口調でミラを遮った。
「私だって、いつまでもお荷物じゃいられない。何か役に立ちたいんです……」
ミラは涙ながらにグレイにお言葉を押し付けた。
「聞かないか……わかった。……そのかわり、ムリはするな。何かあったらすぐに知らせるんだ」
「はい!ありがとうございます」
グレイはミラの気持ちに応えることにした。
アーヤは二人を見ながら、小さく笑みを投げかけた。
エリスはニャアと短く呟き、尾をゆっくりと揺らした。
「それじゃ、オレは索敵に動くニャ。情報も集めてくるニャ。何かあればすぐ知らせるニャ」
四人はそれぞれの役割を確認し、緊張感を保ちながら拠点を固めた。
だが、不穏な気配がじわりと迫りつつああることに、四人はまだ気づいていないのだった。
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Z.P.ILY




