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アルディナの魔力  作者: Z.P.ILY
第二章 岩窟の契約

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第56話:癒しの結晶石

●主人公:アーヤ・アーデン

 彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。

 夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。

 太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。


●グレイ・リヴァント

 神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。

 筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。

 戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。

 アルディナの伝説の剣士の末裔。


●ミラ・フィローネ

 アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。

 風の一族との関係がありそう。


●エリス

 王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。

 明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。



 イタッシャの最後の咆哮が、礼拝堂を震わせた。

 その声は耳をつんざき、やがて濁り、空気の奥へと吸い込まれるように消えていった。

 残されたのは焦げついた石の匂いと、立ち上る黒煙。

 ゾンビネズミたちは動きを止め、崩れ落ちた骸が静寂の中に転がっていた。


 「…終わった、のか?」


 荒い呼吸を繰り返しながら、エリスが呟く。

 その声にはまだ実感が伴っていなかった。

 アーヤはふらつきながらも深く息を吐く


 「…もう力がでないわ…」


 ミラは地面に膝をつき、震える手で額の汗を拭った。


 「はぁ…こわかった……でも、生きてる……」

 

 戦場を覆っていた咆哮と悲鳴は消え去り、ただ彼らの呼吸だけが広い礼拝堂に残響していた。


 「…だいぶやられた…」


 モルグが血に濡れた腕で顔をぬぐい、周囲を見回す。


 「完全に終わったわけじゃない…でも…一つは乗り越えた」


 グレイは剣を支えにしながら、なおも警戒の目を光らせる。


 「はぁ……もう、心臓が壊れちゃいそう……」


 ミラはその場にぺたりと座り込み、チラッとグレイの顔を覗き込む。


 アーヤも膝に手をつき、荒い息を整える。


 「……まさか水龍をあんなふうに使うとは……気づけてなかったら、今ごろ……」


 誰もが言葉を飲み込み、互いの無事を確かめ合うように視線を交わした。

 ただ一人、エリスだけがふらふらと前へ歩み出ていった。


 黒く焦げた床に、一本の剣が落ちていた。

 イタッシャの剣……禍々しい光を放つ。

 今はただ静かに、焼け跡に転がっている。

 エリスはそれを両手で掴み、柄に埋まった金色の石を見ながら、決意する。


 「…これは、貰って行くニャ」


 「エリス…大丈夫なの…?」


 アーヤが目を丸くする。


 「危険かもしれない。だが、あの力…ただの剣ではないということは確かだニャ」


 グレイの声には警戒が滲んでいた。

 だが、エリスは迷いなく首を振った。


 「もし、こいつが暴走したら、オレが体を張ってなんとかするニャ」


 「……好きにしろ。ただし、飲み込まれるんじゃないぞ」


 エリスは小さく笑みを浮かべ、背に長剣を背負った。

 テラノクスにきてから、エリスの心は確実に成長している。

 同じ獣族の仲間が、それを後押ししているかのように。

 チョロス、モルグ…二人への想いが、エリスをさらなる高みへと導く。

 その瞳には確かな決意が宿っていた。


 そして彼らは、戦場の奥に残された礼拝堂へと足を踏み入れる。

 中は驚くほど静かで、外の焼け跡とは無縁のように、白い石壁は清らかな輝きを保っていた。

 天井の高い石造りの空間。

 崩れかけた柱の間に、古びた祭壇が残されている。

 壁には色褪せた壁画や古代語の碑文が刻まれ、時の流れを拒むように鮮明なままだった。


 「これは……?」


 アーヤが壁に近づき、指先で埃を払う。

 浮かび上がったのは、絡み合う根と、地底を流れる川を象った紋章だった。


 「根っこと…川…?」


 ミラが首をかしげる。

 アーヤは碑文に目を落とし、低く読み上げた。


 「『大地の胎に眠る川を渡れ。根の交わる地にて、深き門は開かれる』……」


 「……つまり、地下五階へ行くには、地中の流れを探し、その下にある“根の交わる場所”を見つけろってことか」


 「なぞなぞが多いところだわ」


 仲間たちが思案する中、ミラが祭壇の裏側で何かを見つけて声を上げた。


 「こ、これ……!」


 彼女が抱えてきたのは、淡く青白い光を放つ結晶石だった。

 まるで礼拝堂に隠されていた宝物のように、ひっそりと輝いている。


 「マナストーン……!」


 グレイが珍しく目を見開いた。


 「神殿でも滅多にお目にかかれない、祈りの遺物だ」


 「すごい……!」


 ミラが石を胸に抱きしめると、柔らかな光が彼女の身体を包んだ。

 疲労で重かった足取りが、少しずつ軽くなる。


 「……温かい」


 アーヤが触れると、光が彼女の手のひらに広がり、体の奥に染み渡っていく。


 「魔力が…戻ってくるわ…!」


 「オレにも触らせてくれ…」


 グレイが手を伸ばすと、彼の手の甲にも淡い光が宿った。


 「これは…ありがたい…」


 「助かった……」


 エリスも目を閉じてその光を受け入れる。荒れていた呼吸が静かに整い、両眼の輝きが増す。


 マナストーンの輝きは少しずつ弱まり、やがて表面に細かなひびが入った。

 一度きりの奇跡。太陽が遮られた世界で見つけた、ほんのわずかな光。

 それは、冷たく濁った空気の中で、かすかな希望のしるしだった。


 「……まだ先はある。これでまた進めるな」

 

 グレイが剣を握り直す。


 「ええ。負けないわ」


 アーヤが強く頷いた。


 「ミラ、お手柄ね」


 「みんな回復できてよかったです!」


 「おれ、回復してない……」

 

 「あーっ、モルグが触る前に壊れちゃったしなぁ」


 「モルグ、すまんな。しかし、お前のそのパワー、まだまだイケそうだぞ」


 グレイがモルグにそういうと、五人は笑いに包まれた。

 礼拝堂に漂う静けさの中、五人はようやく腰を下ろした。

 アーヤとミラはモルグに簡単な回復魔法を施し、傷を癒す。


 モルグは石壁に背を預け、静かに息を整える。

 エリスは背負っていた剣をおろし、そっと手を当てて感触を確かめる。


 「俺が見張っておく。少しでも休め」


 グレイは短く告げると、礼拝堂の入り口に向かった。


 「副長も、無理しないでくださいね……はいコレ…」


 ミラはグレイに小さな袋を渡した。中にはガネリーホから持ってきた焼き菓子が入っている。


 「あぁ、すまんな…」


 戦いの余韻を抱えながらも、五人はは短い休息をとった。

 この先に待ち受ける地下五階の試練を思いながら。


「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。

 今後の展開や、執筆における参考とさせていただきますので、是非、評価をお願いいたします。

 誤字や脱字がありましたら、遠慮なくフォームよりご報告ください。

 また、本作品へのご意見やご要望につきましては、メッセージ等で随時受け付けてます。皆様からの忌憚のないご意見等をお待ちしてます!

                   Z.P.ILY

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