第55話:勝利への導線
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
結界は軋んでいた。
アーヤとミラが必死に張り巡らせている光の防御壁は、ワームの牙とゾンビネズミの爪で何度も何度も叩きつけられ、もう限界に近かった。
「……はぁ、はぁ…アーヤ様、もう…!」
「分かってる…でも、まだ倒れるわけには…!」
ミラの声は震え、アーヤの額には玉のような汗が流れていた。
二人の手から紡がれる光の糸がひび割れのように揺らぎ、そこから黒い爪が食い込んでくる。
グレイは歯を食いしばり、聖剣を握り直した。
「……これ以上は持たない!」
彼の青い瞳が戦場を走査する。
その刹那、何かを決断したように剣を地面に突き立てた。
「アーヤ!タイミングを見て雷鳴を呼び出せ!」
アーヤは振り返り、グレイを見た。
(…何をするつもり…!?)
「わかったわ!」
アーヤは、グレイが何をやろうとしているのか理解できなかった。
しかし、これまでの戦闘で培った経験が、信じろと言っている。
グレイは静かに目を瞑り、呪文を唱え始める。
「静かなる流れよ……ひとつに結び、我が剣を満たせ…」
グレイの聖剣が青白く輝き、水の衣を纏っていく。
「アーヤ!結界を解け!」
「はい!」
アーヤの返事とともに結界が消える。
と、同時にグレイの声が響く。
「行け!水龍よ!」
グレイの聖剣の刃から轟音とともに巨大な龍の形をした水が噴き出した。
圧倒的な威力で水が戦場を覆い、瓦礫もゾンビもワームも巻き込んでいく。
「は、外れた!?骨ネズミには当たってない!」
エリスが驚愕の声をあげる。
しかしグレイは冷静に合図を送る。
「アーヤ!ここだ!」
アーヤは意図を理解した。
「…なるほど。そういうこと…!」
アーヤは両手を掲げ、詠唱した。
「聖なる光よ。正しきものに力を貸し給え!」
アーヤの呪文とともに、戦場を大きな黒い雲が覆う。
戦場を浸した水。
それはただの水ではない、導線だった。
「ミラ!オレたちを守れ!」
「は、はい!…」
ミラは力を振り絞って呪文を唱える。
「大気の精よ、風障壁となり、我が盾となれ!」
五人の頭上に風が渦巻く。
「いくわよ!」
アーヤの叫びとともに、黒い雲から激しい雷が轟く。
ーーーバリバリバリバリッーーー
瞬間、戦場を閃光が満たす。
轟音とともに降り注いだ稲妻は、グレイの水流を媒介として一気に広がる。
ワームの巨体が痙攣し、ゾンビの群れが黒焦げになって次々と崩れ落ちた。
凄まじい光景に、エリスも思わず叫ぶ。
「す、スゴイ…!一網打尽だ……!」
だが、ただ一人、まだ立っている存在があった。
イタッシャの赤く光る目は、炎に包まれた黒いマントをものともせず、グレイたちを捉えている。
「キキキキキィーー……!ヌルイワ……!コノテイドデ……!」
身体を震わせながらも、邪悪な声を上げて嘲笑う。
ミラが必死に両手を組み、震える声で呟いた。
「……なら、私が……止めるしかない!」
「ミラ、無茶よ!」
アーヤの静止を振り切って、ミラは一歩踏み出した。
「大丈夫…二秒だけ!その間に!…時間よ、束の間の静寂に…!」
青白い光がミラの瞳に宿る。
空気が歪み、音が消えた。
イタッシャの時が止まる。
嘲笑が途中で途切れ、歪んだ姿勢のまま硬直する。
ミラの呪文を待っていたかのように、エリスは一陣の風のように駆け出していた。
瓦礫を蹴り、ワームの残骸を飛び越え、止まった時間の中でただ一人、疾風と化す。
短剣が閃き、金色の背骨を正確にとらえる。
「これで、終わりだぁーっ!」
ザクッ!……イタッシャの後ろで鈍い音が響いた。
次の瞬間、時間が動き出し、イタッシャの絶叫が戦場に響き渡った。
「ギャアアアアア――――ッ!…オノレェーー……オノレェェェェーーー!…」
その身体がのけぞり、金色の背骨から光が迸る。
ゾンビネズミもワームも一斉に崩れ落ち、イタッシャとともに黒い霧となって消滅していく。
焦げた臭いとともに、破壊された無数の墓標が、イタッシャの剣を守るように残されていた。
ーーー戦場にようやく静寂が戻った。
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
今後の展開や、執筆における参考とさせていただきますので、是非、評価をお願いいたします。
誤字や脱字がありましたら、遠慮なくフォームよりご報告ください。
また、本作品へのご意見やご要望につきましては、メッセージ等で随時受け付けてます。皆様からの忌憚のないご意見等をお待ちしてます!
Z.P.ILY




