第49話:黒い壁
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
静かに石碑を後にした四人は、地下三階の北側へと足を進めていた。
空気はひんやりと湿り気を帯び、遠くから水の滴る音が響いている。
胸に残る痛みは消えないまま、それでも歩みを止めることはできなかった。
「……この先に、黒い壁があるはずだニャ」
口を開いたのはエリスだった。
彼の声はまだかすかに震えていたが、瞳には強い光が宿っていた。
「チョロスが言ってた、地下四階へ続く黒い壁の回廊……そこしか道はないニャ……」
ミラが隣で肩をすくめる。
「壁って……ただの石壁じゃないんでしょ?名前からして怖そうなんだけど」
「当然…そうだろうな。封印か罠か、何かしらの仕掛けがありそうだ」
グレイが低く言う。
「おれ…入れるかな…」
モルグも頷き、重々しく口を開いた。
しんと静まり返った空気に、不安が溶け込んでいく。
だが、誰一人として足を止めることはなかった。
やがて、一行は広めの空間に出た。
岩肌が弧を描くようにせり上がり、ちょうど洞窟の中に小さな広場ができている。
中央には澄んだ水をたたえた窪地があり、壁の裂け目から冷たい風が吹き込んでいた。
「ちょうどいい。少し休んでいこう」
グレイが剣を下ろし、警戒を解きながら腰を下ろす。
「はぁ~……助かる~!」
ミラがすぐに地面に座り込み、手を伸ばして水を掬った。
「冷たっ……でも美味しい!」
エリスも膝を抱えて座り、ふと水面を覗き込む。
そこに映るのは疲れた自分の顔と、背後に寄り添う仲間の姿。
彼は小さく息を吐いた。
「チョロス…いいやつだった……短い時間だったけど、いろんな話をした」
「黒い壁のことも?」
「あぁ…」
「黒い壁の回廊は、光を拒む道……通ろうとした者は、帰ってこなかったって」
アーヤは少し考え込み、額に皺を寄せた。
「オレが聞いたのは、あくまでも古い言い伝えだ。"黒き壁は、闇を糧とし、光を試す" ……そんな言葉が残されていたらしい。意味は分からないが、きっと通る者を試す仕掛けがあるんだろう」
「光を…試す?」アーヤが呟く。
「封印の類だな」
グレイが即答した。
「闇に抗う力を示さねば、先には進めない……そういう類のものだろう」
ミラは肩を抱いて小さく震える。
「うぅ……なんだか嫌な予感しかしないんだけど」
「嫌でも行くしかない」
グレイは静かに断じた。
「俺たちには、もう退路はない。チョロスやイマネのためにも」
その言葉に、エリスも強く頷いた。
仲間の墓標を背に、ここで立ち止まるわけにはいかない。
さらに進んだ先で、彼らはそれを目にした。
闇を飲み込むような漆黒の壁が、回廊を完全に塞いでいた。
まるで光そのものを拒絶するかのように、魔燈の光でさえ近づくと弱々しく揺れ、黒に呑まれていく。
壁一面には、複雑な紋様が幾重にも刻まれていた。
「こ、これが…黒い壁」ミラが息を呑む。
「ただの石じゃない。…魔力を吸収してやがる」
グレイが剣先でそっと突くが、刃先から放たれた光がすぐに消える。
エリスは壁に近づき、指先で紋様をなぞった。
触れた瞬間、模様が淡く浮かび上がる。
「……古代文字だニャ」
「アーヤ、読めるか?」
グレイが目を細める。
「断片的に、だけど……『四つの力……道は開かれる』」
その言葉に、四人の視線が交錯した。
「四つ……って、もしかして私たち?」ミラが首をかしげる。
「まさかな。オレたちが来るのかわかってたってことか?」
グレイは壁全体を見渡しながら言った。
「紋様は四つの円を形作っている。各々が力を注ぎ込む必要があるんだろう。……この壁、訪れるものによって試練を変えてるのかもしれんな…」
「でも、どうやって?」
アーヤは目を閉じ、必死に文字の残りを読み解く。
「……心を示す者、技を示す者、知を示す者、そして……誓いを示す者」
四人は顔を見合わせる。
「心、技、知、誓い……それぞれに役割があるってことか」
グレイが低く呟いた。
「うわー、なんかテストみたい」
ミラが苦笑する。
「笑ってる場合か」
エリスが肩をすくめる。
「誰がどれをやるか?」
「……心は、オレがやるニャ」
エリスが真っ先に口を開いた。
「チョロスたちの想いを、絶対に無駄にしない。その気持ちだけは誰にも負けないから」
「なら、技は俺だな」
グレイが剣を抜き、静かに構える。
「剣で培った技を示してやる」
「知は……わたしにやらせて」
アーヤが顎に手を当てる。
「読解や仕掛けの知識なら多少は役に立つ」
「じゃあ残りは私かぁ。誓いって……ちょっと荷が重いけど」
ミラは苦笑しつつ胸に手を当てた。
「でも、ここまで来たんだもの。みんなと一緒に行くって誓い、ちゃんと示してみせる」
四人はそれぞれの円に立ち、壁に手をかざした。
瞬間、紋様が強い光を放ち、洞窟全体に振動が走った。
「うっ……!」
黒い壁が軋むような音を立て、ゆっくりと割れていく。
その奥から現れたのは、螺旋状に下へと続く石の階段……地下四階へと通じる、黒い壁の回廊だった。
「ひ、開いた!」
エリスが息を呑む。
「さて、次はどなたがお出ましかな」
グレイが剣を握り直す。
「もう引き返せないわ。でも意外とあっさりと開いたわね」
アーヤが表情が引き締まる。
「あぁ、少し引っかかるな……」
グレイは少し納得がいかない様子で回廊を見渡す。
そして四人は視線を交わし合い、闇の階段へと足を踏み入れた。
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
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Z.P.ILY




