〜プロローグ
薄紅色の朝日が、アーデン家の小さな庭を優しく照らしている。
子供たちの笑い声が風に乗り、家の中からはユリオとフィリアの騒がしい声が響く。
「コラ!ユリオ!私のポテト食べたな!」
「知らないよ!」
「ウソだ!無くなってるじゃないか!」
「残しとくほうが悪いんだろ!」
「あーーっ、最後の楽しみに残しといたのにぃぃ!」
「ほらほら、喧嘩しないの。フィリアも。お姉さんなんだから、我慢しなさい」
「おいおい、お姉さんだから我慢するのは違うだろ」
フィリアをおさめようとするアーヤにレオンが言った。
アーヤは朝の支度をしながら、日常の幸せを感じるのが、毎日の日課だった。
夫と二人の子供たち、何気ないけれど確かな絆に包まれていた。
だが……その胸の奥には、昨日見た夢の残像がざわめいていた。
*****
――紅く染まる満月の下、碧の瞳が静かに見つめ返す。
(……ここから出してくれ……)
*****
その言葉だけが、暗闇の中で繰り返される。
アーヤはそっと目を閉じ、深く息をついた。
日常はもうすぐ、静かに壊れ始めるのだとも知らずに。




