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67. 恋する男の共同戦線

それからというもの、セリーヌは講義のときには――いや、それ以上に、常にリヴィアと行動を共にしていた。まだ始まって一週間。リヴィアが取っていない講義にも、「最初だけついてきてほしい」というセリーヌの懇願に断りきれず、結局リヴィアは付き添って出席している。

そして、その余波は確実に僕にも及んでいた。


「……リヴィアが足りない……」


昼休み、食堂にて。レオンとユリオと三人で昼食を囲みながら、つい嘆きが口をついて出る。


「なんか、結局一年前と同じようなこと言ってないか?」

「成長してないってことかなー」

「……うるさい」


皮肉も優しさだとわかっているが、傷に塩を塗られるような気分だ。

三人とも講義の時間は別々でも、こうして昼休みはできるだけ顔を合わせて食べるようにしていた。それにしても、恋というものは人を変えるらしい。

――たとえば、目の前のユリオのように。


「ユリオ、お前……ヴァロット嬢に何かアプローチしてるのか?」


興味本位でレオンが尋ねると、ユリオは自信満々に胸を張った。


「もちろん! 講義の時にはできる限り近くの席に座るようにしてる!」

「へ、へぇ……」

「隣に座れるのもいいんだけどさ……後ろの席からだと、セリーヌってすごくいい香りがするんだよね。なんか、花みたいな……それで、ちょっと鼻に残る感じがして……」

「…………」


あまりに生々しい感想に、思わずレオンと顔を見合わせる。二人とも似たような引き気味の表情だった。


「で、仲良くはなってるのか?」


レオンが一応確認するように聞く。


「今はリヴィアがいつも一緒にいるから、そこまで話せてないけど……来週以降はリヴィアがもう来ないってノエルから聞いたし、そっからが俺の出番だと思ってる!」

「……頼んだぞ」


心からの言葉だった。

ユリオがセリーヌにとって“信頼できる男子”のポジションを獲得できれば、彼女がいつまでもリヴィアにべったりくっついている理由も自然と薄れるはずだ。

つまり、僕の平穏はユリオの奮闘にかかっている。

リヴィアをめぐる想いこそ違えど、僕たちは今、共通の目的を持つ“恋する男の共同戦線”というわけだった。



「そういえば、ノエル。お前、正式にラヴェルナ嬢との婚約発表したわけだけど……その後、なんともなかったのか?」


食後の気だるい雰囲気のなか、レオンがふと思い出したように話を振ってくる。


「なんともないって……どういう意味だよ」


ノエルが少し身を乗り出して尋ねると、レオンは意味ありげに肩をすくめた。


「いやなに、そこそこ人気あっただろ? 女学生の間では。中にはショックを受けた子もいたんじゃないかって話だよ」

「いやいや、俺なんて……それほどでもなかったと思うけど」


そう言いながらも、どこか目を逸らし気味なのが否めない。


「それを言うなら、ファンクラブが存在していたやつが言う台詞じゃないと思うけどなー」


横からユリオが口を挟み、わざとらしくため息をつく。


「しかも、ラヴェルナ嬢一筋って噂が流れてから、がっかりして泣いてた子までいたって、俺は聞いたぞ? 誰とは言わないけどな」

「……いや、それは誇張だろ。というか、誰から聞いたんだよそれ」

「後輩女子」

「お前、やたら女子との情報網広いよな……」


呆れたようにノエルが眉をひそめるが、ユリオはどこ吹く風といった様子で笑っている。



「でもまあ、ラヴェルナ嬢と婚約したなら、そりゃ多少は波風立つってもんだよな。お前、ちゃんとリヴィア嬢の盾になれてるのか?」


今度はレオンが真剣な顔で問いかけてきた。


「……わからん」


ノエルは言葉を選びながらも、少しだけ自嘲気味に微笑んだ。


「そこは頼むよ、騎士殿。ラヴェルナ嬢が信じてるぶん、俺たちも信じたいんだから」


レオンがそう言ってから少しして、ユリオが口元に手を当てながら囁く。


「でもさ……ノエルが婚約していなかったら、今ごろセリーヌ嬢も本気でリヴィアを狙ってたんじゃないかって、俺はちょっと思ってるんだけど?」

「……あの子の場合は、国に連れて変える気満々だもんな」

「それはそれで怖いよね」


三人の間に、苦笑が広がった。


「レオンは……アメリアとは変わらないか」


一応確認するように問う。


「まあ、いつも通りだな」

「僕も早くそちら側の安定した方に行きたい……」


ノエルの本音混じりの溜め息に、ユリオがすかさず肩を叩く。


「大丈夫だって、ノエルはもう十分いい位置にいるよ! リヴィア嬢も以前よりずっと距離が近いしさ」

「まあ、舞踏会のあとから急接近したって話だしな。親公認で婚約発表済み、同じ研究室……これ以上なにが必要なんだか」


レオンが冷静に言葉を重ねる。だが、ノエルはどこか複雑な表情を浮かべた。


「……好きになってもらうこと、かな」


ほんの少しだけ俯いて呟いたその言葉に、ふたりとも一瞬黙り込んだ。


「……ああ、そっか。そうだよな」

「意外と、惚れた側ってのは苦労するもんだよなー」


そう、しみじみとしてしまったところで、昼休みの終わりを知らせる鐘の音が鳴り響いた。

今日はこれから、もらった研究室の中を確認することになっている。


久しぶりの、リヴィアとの時間だった。


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