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24. 魔石解析

そんな緊張と羞恥の渦の中、部屋がノックされた。


「どうぞ」


入ってきたのは、青白い顔の白衣を着た男と、燕尾服の老紳士だった。


「ご紹介します。こちらが魔石加工部門長のヘルミン・クロード。そして、我が家の執事——バルザックです」

「ご無沙汰しております、ノエル様。奥様方がご不在なので代わりにご挨拶をと。

……あの時(五年前)より、ずいぶん“見た目は”大人びておられますね。中身も成長なさっていれば何よりです」

「ちょっと、バルザック……!」

「ええ、その節は、僕が至らずご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。リヴィア嬢も帰国されましたし、少しずつですがこれからはリヴィア嬢とご一緒させていただければと思います。どうかよろしくお願いします」


ノエルは、どこまでも柔らかく返した。

その姿に、バルザックが一瞬だけ言葉を詰まらせたのを、リヴィアは見逃さなかった。


「どうも、魔石加工部門長のクロードです……今回は、とんでもない魔石だとか。早く拝見したいですね」

「では、挨拶も済んだことですし、解析室へ案内いたします。ノエル様方、どうぞこちらへ」

「本日はよろしくお願いします」


ノエルは静かに、けれど真っ直ぐに頭を下げ、リヴィアとアメリアと別れた。


その後、ノエルたちは、敷地の奥へと続く石畳の回廊を進んだ。


石造りの庭壁、ガラス張りの温室、整えられた芝地の向こうに建つのは、ラヴェルナ家の研究棟——まるで貴族邸宅の一角とは思えないほどの、本格的な設備だった。


「思ったよりも……ずいぶん本格的な造りですね」

「聞いたことあるぞ。ラヴェルナ家の研究部門は、王都の魔導技術局にも協力してるって」


ユリオが小声で囁く。


先導するのは執事バルザック。そして、その隣を、やや猫背気味のクロード部門長が静かに歩いていた。バルザックの視線が、時折ノエルにだけ少し厳しいのは気のせいではない。


案内されたのは、研究棟の二階にある実験室兼応接室のような空間だった。大理石の作業台、壁面に並ぶ魔力測定装置、整然と分類された魔石サンプルの棚。そのどれもが、一流の設備を物語っていた。


「うわぁ……これ、なかなか見られないやつじゃない?」

ユリオが目を輝かせて辺りを見渡している。



「領地の方にも膨大な敷地面積を誇る大規模な研究所があると伺っております。なぜこの敷地内にも研究所があるのですか?」

ノエルはふと疑問に思ったことを聞いた。


「ラヴェルナ家は、一般的な魔石加工製造や魔導具製造の他に、国から機密の解析や魔導具開発依頼を受けることがございます。その都度領地で対応しているようでは、対応速度が落ちるほか、情報漏洩も懸念されますから、王都の邸宅敷地内にも研究所を置いているのです。領地のものに大きさや機械の量は負けますが、設備は最新鋭のものを取り揃えております。」

バルサックが淡々と説明する。


「国から依頼されたものの多くは機密事項のため、基本的には当主様とここにおりますクロードの他、領地の研究所の中でも時に優秀だった数名で対応しております。

国からの機密依頼は、基本的に当主様とクロード部門長の他、領地の研究所の中でも時に優秀だった数名で対応なさいます。……まあ、ノエル様にはお関わりのない世界かと存じますが、リヴィアお嬢様は、留学から帰ってきた後も日々学習しておいでなんですよ。」


さらりと僕には関係ないと挟んでくるあたり、この執事の思いの根は深いらしい。


「そうなんですね。僕も、リヴィア嬢を支えていけるよう、努力していかなくては。」


リヴィアが魔石解析や魔導具開発のために学習しているのは初耳だった。しかし、魔導課題の際の知識量を見る限り、相当学習を重ねているのだろう。


(……置いていかれるわけにはいかない。)


より一層、ノエルは気を引き締めた。

クロードはそんな様子にも頓着せず、まっすぐにノエルへと目を向けた。


「……それで。件の魔石は?」


ノエルは無言で頷くと、懐から保護用の小箱を取り出した。中には、魔力封じの薄布で丁寧に包まれた石が収められている。


「こちらになります。アーデン領内の鉱山で偶然採掘されたものです。過去にも同様のものは出ていましたが、正式な解析は今回が初めてです」


ゆっくりと蓋を開け、封じ布を解く。

現れたのは、透き通るような深い青の魔石——まるで凍てついた湖の底を閉じ込めたかのような色だった。

クロードが身を乗り出す。目の奥の光が、わずかに強くなる。


「……なるほど。確かに、一般流通の品とは“別物”だ」


手袋をした指先で石をつまみ上げ、重さ、手触り、表面の揺らぎ、光の反射を丹念に観察していく。


「この色味。光の屈折。内部の偏光層も不自然に整っている……加工歴は?」

「一般的な魔石に使われる加工処理を施しています」

「ふむ……加工後でこれか。なるほど、これは面白い」


クロードは魔石を手のひらに乗せたまま、じっと沈黙した。

まるで石の奥に何かが潜んでいるかのように、ゆっくり、静かに観察し続けている。

ノエルは、その横顔を盗み見るようにしながら、心の中で小さな確信が芽生えるのを感じていた。


(この石の中には、何かがある。僕は、それを知りたい)


解析はまだ始まっていない。けれど、この静けさの中に、確かに何かが始まろうとしていた。

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