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17. 婚約者の友人(リヴィア視点)

それから数日。


ノエル様との課題は変わらず進んでいた。

言葉も、やりとりも、形の上では何も変わらない。

けれど心の奥では、あの日交わされた「謝罪」の余韻が、今も小さな波紋となって残っていた。


(……私は、何を望んでいるのだろう)


ノエルの言葉を否定したくて、完璧な淑女を演じた。

でも、その演技は、自分の中のどこかを空虚にしていた。


──そんなある放課後。


いつものように図書室で課題に向かっていると、突然、にぎやかな声が響いた。


「よっ、ノエル。課題順調か?」


顔を上げると、陽気な青年がこちらに歩み寄ってくる。

そのすぐ後ろには、涼しげな瞳の青年もいた。


「いきなりなんだよ……順調だよ。二人揃ってどうしたんだ?」


ノエル様がやや気まずそうに立ち上がる。


「そろそろ俺たちにもリヴィア嬢をご紹介いただけないかなーと思ってさ!」


私は立ち上がり、自然な笑みを浮かべて言った。


(──あの方々が、ノエル様のご友人……)



「ノエル様のご友人、でしょうか?」


もちろん、入学前に調べて知ってはいた。

けれど、初対面の礼儀として、知らないふりをするのが筋だと考えた。


「ええ、ご紹介します。初等部からの友人の、ユリオ・ベルナールと、レオン・ヴァレンティアです。」


ノエルが紹介してくれた。


「初めまして、リヴィア嬢。ユリオ・ベルナールと申します。ノエルにはいつも世話になってます」


ユリオが丁寧に挨拶する。レオンも続いて深く頭を下げた。


「初めまして。リヴィア・ラヴェルナと申します」


少しだけ緊張を込めた礼をすると、ユリオ様がにこやかに返してきた。


「噂に違わず、お美しいですね!いやぁ、ノエルがうらやましい!」

「おい!」

「ユリオ、失礼だぞ。どうもリヴィア嬢。レオン・ヴァレンティアです。よろしくお願いします。留学先から帰ってきて早々、貴族院へ入学されたと伺っています。何か困ったことがあれば、相談に乗りますよ。」


レオンとユリオは、雰囲気から察するにかなりノエルとは仲が良さそうだ。

今後の付き合いを考慮すると、ここで私が遠慮して2人に壁を作ってしまうのもよくない。

そこで、少しだけ悩んでいたことを話すことにした。


「ありがとうございます。それでは一つ相談なんですが……留学していたおかげで、同世代の女性の知り合いがいなくって。これから社交演習や舞踏会が行事としてあると伺っていて、その際に女性の知り合いがいれば心強いんですが、どなたかご紹介いただけないでしょうか?」


私は、社交演習や舞踏会のことを話し、

同世代の女性の知り合いがほとんどいないことを正直に打ち明けた。


(……正直、ノエル様との関係に気を取られすぎて、それどころではなかったのだけれど)


「なるほど。それはお力になれると思います。ちょうど私の婚約者や知人も同学年におりますので、そちらでよければご紹介できますよ。」

「ありがとうございます!」


レオンの言葉に、思わず笑みがこぼれた。

その瞬間、ふと視線を感じ、横を見ると──ノエルがじっとこちらを見ていた。


ほんの一瞬だけだったけれど、その視線に込められたものが、何だったのかまでは分からなかった。


「私の婚約者も初等部から貴族院には通っているのですが、ノルゼアに興味があるらしく、リヴィア嬢とお話ししたいと申しておりました。せっかくですし、一度場を設けさせていただきますね。」


「楽しい話題がご提供できるといいのですが……」

「ノルゼアは刺激的で自由な国、と聞いておりますから、そのご心配は無用でしょう。」


レオンの婚約者について話していたところで、ノエルとユリオが実験の話をしているのが耳に入った。

関係する話なので、レオンとの話を切り上げ、そちらの会話に参加する。


「魔石を……自分たちで?」


私は驚いて尋ねる。


「初期実験で使う魔石を、自分たちで用意するのですか?」

「ああ。なんでも、学院の在庫が底をついてたらしい。今から発注しても間に合わないってさ」

「魔石がないと魔導具も起動できないし、実験どころじゃないからな」

「そういうこと。忘れたら単位なし! 先生、容赦ないよなー」


ユリオが大げさに肩をすくめた。


「わかりました。ありがとうございます、レオン様、ユリオ様」


リヴィアは、伝達してくれたことに対し丁寧に淑女の礼をした。


「じゃあ、僕たちが実験する時の魔石は、僕が準備しますよ。実家から大量にもらっていて、余ってますから。」


ノエルがリヴィアにそう言ってきた。


「いいんですか?」

「ええ、こう言う時に使うために送られてきているものですから。それだけじゃなく、特性が不明だから貴族院で研究してこいって言われているものもありますしね。」

「流石、魔石の産地は羽振りがいいですね!俺らにも分けてほしいなー!」

「お前は自分で用意しろ。」


そのやりとりをユリオ様が茶化すように挟み、私の口元から、自然と微笑みが漏れた。


──気づけば、空気はずいぶんと柔らかくなっていた。

ぎこちなかった心の硬さが、少しずつほどけていくような──そんな時間だった。


(……こんなふうに、少しずつでいいから)


今はまだ、ノエルの謝罪をどう扱えばいいのか分からない。

けれど、こうして笑い合える時間があることが、確かに救いだった。

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