表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/106

11. 反省(リヴィア視点)

ノエルがいる保健室をでた後、リヴィアは教授の部屋の前にきていた。移動で乱れた髪を整え、扉をノックした。


「……どうぞ」


中から落ち着いた声が返ってくる。

ドアを開けて中に入ると、教授は机に腰かけ、青い魔石を手にじっと観察しているところだった。


「失礼します、ヴァレン・ミューディス教授。リヴィア・ラヴェルナです」


私の声に、教授が顔を上げた。

その視線は鋭く、それでいてどこか研究者らしい好奇心が宿っている。


「ああ、君か。さっきの魔導具の実験で、アーデン君のパートナーだった子だね。……彼の具合はどうだい?」

「先ほど目を覚まされました。本日一日は安静とのことですが、それ以外に異常はないそうです」

「そうか、それは何よりだ」


教授は軽く頷くと、手元の魔石をもう一度指先で転がす。


「あの、その魔石を返却いただきたく、伺いました」


私がそう言うと、教授は手を止め、少し名残惜しそうに魔石を布の上に置いた。


「ああ、これかね。実に珍しい魔石だったから、つい観察してしまってね。……どこで手に入れたんだい?」

「それは……」


言い淀んだ。軽々しく答えてよいものか迷い、結局、言葉が出なかった。

教授はそんな私の様子を見て、ふっと笑った。


「答えられないのかね。まあ、いいだろう」


そう言ってから、ふと真面目な調子で言葉を継いだ。


「それよりラヴェルナ君。君は、ずいぶんといい婚約者を持ったな」

「……え?」


不意に言われて、思わず聞き返してしまった。


「今回、君がアーデン君とペアになったのは、彼の希望だったんだよ。

留学から戻ったばかりで、環境に慣れるまで心配だからって、彼がわざわざ私に依頼してきた」

「……そうだったんですか」

「彼は初等部の頃から真面目で、文武両道の優秀な生徒として知られているよ。

もともとの魔力量は、いわゆる中級貴族相当のようだが、かなり努力をしたようだね。

君も、彼を大事にすることだな」

「……はい。ご助言、ありがとうございます」


丁寧に一礼し、教授から青い魔石を受け取る。

薄布の上からでも、魔石がわずかに発する熱のようなものを感じた。


部屋を出るとき、私はそっと扉を閉めた。

静かな廊下に戻ったとたん、胸の奥で何かが波打つのを感じた。


教授の言葉が、心の中で何度も反芻される。


(私が、ノエル様の希望で……)


リヴィアは、今回ノエルとペアになったことを、ただの偶然だと思っていた。だからこそ、どこかで対等でいられると思い込めていたし、そうあろうと努めていた。


けれど、それが“彼の気遣い”によるものだったと知った瞬間、足元が少しだけ揺らいだような気がした。


(……結局、まだまだ私は足りない)


暴発のときの光景が、鮮やかに思い出される。咄嗟に動けなかった自分。何もできないまま、逆にノエルに庇われてしまったこと。


(本来なら、私が……)


それが悔しかった。情けなかった。そして、自分でも気づかぬうちにまたノエルに“甘えていた”ことが、何よりも苦しかった。


(これじゃ、だめ……)


リヴィアは、あの日の誓いを思い出す。自分の意思で前を向こうと決めた、あの瞬間のことを。

ここからしばらくリヴィア視点が続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ