11. 反省(リヴィア視点)
ノエルがいる保健室をでた後、リヴィアは教授の部屋の前にきていた。移動で乱れた髪を整え、扉をノックした。
「……どうぞ」
中から落ち着いた声が返ってくる。
ドアを開けて中に入ると、教授は机に腰かけ、青い魔石を手にじっと観察しているところだった。
「失礼します、ヴァレン・ミューディス教授。リヴィア・ラヴェルナです」
私の声に、教授が顔を上げた。
その視線は鋭く、それでいてどこか研究者らしい好奇心が宿っている。
「ああ、君か。さっきの魔導具の実験で、アーデン君のパートナーだった子だね。……彼の具合はどうだい?」
「先ほど目を覚まされました。本日一日は安静とのことですが、それ以外に異常はないそうです」
「そうか、それは何よりだ」
教授は軽く頷くと、手元の魔石をもう一度指先で転がす。
「あの、その魔石を返却いただきたく、伺いました」
私がそう言うと、教授は手を止め、少し名残惜しそうに魔石を布の上に置いた。
「ああ、これかね。実に珍しい魔石だったから、つい観察してしまってね。……どこで手に入れたんだい?」
「それは……」
言い淀んだ。軽々しく答えてよいものか迷い、結局、言葉が出なかった。
教授はそんな私の様子を見て、ふっと笑った。
「答えられないのかね。まあ、いいだろう」
そう言ってから、ふと真面目な調子で言葉を継いだ。
「それよりラヴェルナ君。君は、ずいぶんといい婚約者を持ったな」
「……え?」
不意に言われて、思わず聞き返してしまった。
「今回、君がアーデン君とペアになったのは、彼の希望だったんだよ。
留学から戻ったばかりで、環境に慣れるまで心配だからって、彼がわざわざ私に依頼してきた」
「……そうだったんですか」
「彼は初等部の頃から真面目で、文武両道の優秀な生徒として知られているよ。
もともとの魔力量は、いわゆる中級貴族相当のようだが、かなり努力をしたようだね。
君も、彼を大事にすることだな」
「……はい。ご助言、ありがとうございます」
丁寧に一礼し、教授から青い魔石を受け取る。
薄布の上からでも、魔石がわずかに発する熱のようなものを感じた。
部屋を出るとき、私はそっと扉を閉めた。
静かな廊下に戻ったとたん、胸の奥で何かが波打つのを感じた。
教授の言葉が、心の中で何度も反芻される。
(私が、ノエル様の希望で……)
リヴィアは、今回ノエルとペアになったことを、ただの偶然だと思っていた。だからこそ、どこかで対等でいられると思い込めていたし、そうあろうと努めていた。
けれど、それが“彼の気遣い”によるものだったと知った瞬間、足元が少しだけ揺らいだような気がした。
(……結局、まだまだ私は足りない)
暴発のときの光景が、鮮やかに思い出される。咄嗟に動けなかった自分。何もできないまま、逆にノエルに庇われてしまったこと。
(本来なら、私が……)
それが悔しかった。情けなかった。そして、自分でも気づかぬうちにまたノエルに“甘えていた”ことが、何よりも苦しかった。
(これじゃ、だめ……)
リヴィアは、あの日の誓いを思い出す。自分の意思で前を向こうと決めた、あの瞬間のことを。
ここからしばらくリヴィア視点が続きます。




