深夜のダークエルフ
部屋に戻り電灯を点ける。
何度見ても変わらない懐かしき我が汚部屋。
男の時は特に気にしなかったがダークエルフ、それも女となった今では少々気になる。
特に匂い。
とりあえずイカ臭いゴミ箱の中身をビニール袋に移しておこう。
多少はマシになるはずだ。うへぇ…何かしっとりしてるぅ。
「あ、そうだ。どうせ自分の部屋なんだし、変身維持してなくてもいっか」
袋を縛り終えてハッと気が付く。
既に時計は午前様を回っており、当然家族は夢の中である。
少なくとも数時間はバレる心配は無いので、善は急げとばかりに変身を解除した。
「うぉう、胸がキッツい」
男物のTシャツが我が胸によりパッツパツに。
もう少し力んだら、どこぞの伝承者みたくビリビリに破けそうだ。
それとは正反対に腰回りはユルユルで、手で掴んでいないとずり落ちそう。
このままでは誰も得しないサービスシーンを披露しそうだ。
とりあえず間に合わせでアイテムボックスから異世界で着ていた普段着を出した。
そう何着もあるわけでは無いので、今度の休みにでもダークエルフ時の服を買いに行こう。
流行の最先端、世界のファッションが揃う老舗しま○らへ。
「んふふ、どれから読もうかなぁ」
着替え終わると僕は本棚の前に立つ。
目の前には僕が集めた蔵書の数々、並ぶのは往年の名作から新進気鋭の新作達。
世間の流行りに流されること無く、僕自身が心から面白いと思った作品を揃えたと自負している。
そして下段の引き出しには、これまた僕が厳選した夜の友も数多く秘匿してある。
「しかし昔の自分は、なんでコレが好きだったんだろうか?」
手にしたのは結構ハードめなエロ漫画。
身も蓋もない言い方をすれば陵辱モノである。
男時代には随分お世話になった筈だが、今はどうにも嫌悪感が強い。
少し読んでみるが、内容的に昔エロトラップダンジョンに入り込んだ時を思い出した。あの時は幸いにも純潔は死守したが、コレ読んでるとメス堕ちしたIFの自分を想像してしまい何か嫌だ。
やはり時代はイチャラブ百合モノ、世話になったがコイツらは古本屋に持っていこう。
エロ本を戻して、僕は本棚から幾つかチョイスする。
手にしたタイトルは「兄者はおしまい」「てんま1/2」の2作品。
どちらも人気作でアニメ化も果たしており、何と言っても主人公が女の子になっちゃうTSモノ。
フィクションとは言え今後の生活の参考になるはずだ。
適当に何冊か持って布団まで移動するとお腹が大きく鳴った。
「そういえば銀皇龍と戦ってから、何も食べてないな」
ぶっちゃけ結構な時間戦ってたと思う。
事実ボス部屋に入る前に、宿のおばちゃんに作って貰った弁当を平らげたし。
美味しかったな、おばちゃん特性ステーキサンド3人前。
ふかふかパンズに肉厚ジューシーなステーキを3枚も挟んだハイカロリーの化身。
アイテムボックスに入れてたから出来たてホヤホヤ、噛んだ瞬間熱々の肉汁と甘辛いソースが口内を蹂躙したっけ。
ギュルルルル…思い出したら余計にお腹が空いてきた。
鳴り止まない腹を黙らせる為、僕はアイテムボックスから干し肉を取り出す。
せっかく帰ってきたのでカップ麺でもと思ったが、台所で五月蠅くして家族を起すのは忍びない。
そして再び着替えて、また変身の作業が面倒くさい。
大人しく塩辛い干し肉を口に咥え、煎餅布団に寝転がって漫画を開いた。
日本語忘れてないかなと少し不安だったが、以外と人間覚えているモノである。
そうしてページを捲っていき物語に没入していった。
それからしばらくして…
読み終わっては本棚に続きを取りに行くを繰り返し、気が付けば枕元には数十冊の本が積み重なっていた。
今読んでいる所は弱体化した主人公が新たに会得した必殺技の段取りを組んでいる所。
あと一歩、相手を引きつければ逆転の一撃が放たれる。
そんなドキドキワクワクな展開を読み進めていると、突如としてスマホがけたたましい音を鳴らした。
「な、なんだ。襲撃か!?」
驚いてスマホを見てみると単なる目覚ましのアラーム。
窓を見ればカーテンの隙間から陽光が射し込んでおり、外からは近所の人達の活動する音が聞こえてきている。
そういえば28年前の自分は、この時間に起きていたなと思い出した。
「でも大概二度寝しちゃうから、業を煮やした母さんが起こしに来るんだよな」
気付かせる為に態とらしく大きく足音鳴らしてね。
――――ドスドスドス!!
そうそう、丁度今聞こえてきたみたいに…
「…やっべぇ」