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帰ってきたダークエルフ


ダンジョン最深部。

ちょっとしたビルほどの大きさの扉の先では轟音が鳴り響いていた。

発生源は本ダンジョンのラスボスであり、白銀の鱗と鋭利な一本角がチャームポイントな銀皇龍。

彼はダンジョンの損壊を気にすること無く、久方ぶりの侵入者に対して口から放つ大火球でO・MO・TE・NA・SHIをしていた。

放つ火球一発に尋常では無い量の魔力が込められ、その温度は軽く数千度にも達する。下手な鍛冶屋の盾や防具なぞ一瞬で蒸発し、一時凌ぎにすらならない苛烈極まる攻撃。

それらが機関銃の如く放たれる様は正に大盤振る舞いだ。


そんな彼の熱烈な歓迎を受けているのは革鎧に身を包んだ一人のダークエルフ。

彼女は常人では不可能な速度で広大な部屋を縦横無尽に駆け抜けていた。

時にジグザグに、時に壁や柱を蹴り、挙げ句の果てには空中まで駆け出す始末。

そして単に逃げ回っているだけでも無く、隙あらば銀皇龍に返礼を行っている。

手にした刀身も鍔も飾りも何かもが蒼い神造武装〝霊刀本鮪〟を振るって。

神が鍛えたとされる神代の武具は彼女の魔力を用い、銀皇龍の身体に大小の傷を幾重にも刻んでいた。


ゴングが鳴ってから早数時間。

戦況は互いに千日手、いや――僅かだが彼女が優勢の様相を見せている。

長年の戦いの経験則から此処が勝負所と判断した彼女は一枚の手札を切った。


「…はぁぁぁっ!」


刀身に手を添えて膨大な魔力を注ぎ込む。

高位魔法使い数人が生命の危機を感じるほどの量と言えば想像できるだろうか。

注ぎ込まれた分だけ刃がより深い蒼色に染まっていき、刀が喰い零した魔力が蒼電となって刀身を迸る。

満腹をを越えて後は吐き出すだけとなった愛刀を構え直して彼女は急制動を掛けた。

敷石が激しく捲り上がり、その頑健さに見合わない細身の足が銀皇龍へ向かって跳躍した。


突如として莫大な魔力を纏った彼女に対し銀皇龍は迎撃態勢を取る。

今まで乱射していた大火球を止め、その分の魔力を自慢の一本角へと纏わせた。

それは過去に彼の元を訪れてきた強者達を遍く串刺しにしてきた自慢の一撃。

ここまで自分を傷つけ、追い詰めた小さな強者に感謝と敬意を込めて、その上で勝つ為に。

彼女に負けるとも劣らない程の魔力を注がれた一本角は熱を帯び白銀に輝く。


迫る深蒼と迎る白銀の美しいコントラスト。

ずっと見ていたいが残念ながら決着の時は訪れる。


「――――鉄華〝神閃〟」


小さくも凛とした声で告られた必殺の名称。

冠された名に恥じない速度で振るわれた蒼い刀身が白銀の角へと衝突する。

互いに膨大な魔力を帯びた得物の衝突は空間を歪ませ猛烈な衝撃波と眩い閃光が放たれた。

地殻変動を意にも介さないダンジョンが大きく揺れて軋みを上げる。

焼き付くような光が消え、戦いの痕が多く刻まれた部屋には倒れ伏した銀皇龍の遺骸が横たわっていた。

頑強な角ごと龍の巨体が一刀両断にされたその光景は凄まじいの一言。

しかし其れを成した筈のダークエルフの姿は何処にも無かった。


☆★☆★



どれだけ気を失っていただろうか。


「…うっ……臭ぁ。アレ、ここ何処?」


ほんのり鼻腔を擽るイカ臭さで僕は目を覚ます。

ゴブリンの巣よりは数段マシではあるが、好き好んで嗅ぎたい匂いでも無い。

この程度なら昔は気にしてなかったが、今の姿になってからは結構気になるものだ。


それはさておき上体を起こしてみると辺りは真っ暗。

窓から薄ら光が入っていることから、何かしらの建物の中に居ることが推察される。

少なくともゴブリンの巣の中ではないようだ。

同時に先程まで銀皇龍と殺し合っていたダンジョンの中でも無い。

最後に覚えているのは互いの必殺の一撃をぶつけ合った所までで、何がどうなって自分が此処に居るのかは解らない。


「う~ん、考えても仕方が無いか。∀◇◎…発光」


とりあえず状況確認の為、魔法で手のひらに光源を出す。

暗闇に目が慣れるのを待っても良かったが、今は少しでも情報を得ることが先決だ。

もし変なヤツに見つかっても大抵は肉体言語で黙ってくれる。愛刀である霊刀本鮪も手元に有るので最悪首筋にチラつかせればいい。


光源を出したことで最初に僕の目に飛び込んできたのは本棚に収納された本の数々。

好事家や貴族等には劣るが結構な数の蔵書量だ。

そして恐ろしいほどに規格が統一されており、色彩豊かな表紙は革とは違うツルリとした謎の質感を持っている。

少し横に目を向ければ壁には大きな絵画が幾つも貼られていた。

額縁にこそ入っていないが、これまたツルリとした紙面に麗しい美少女達の姿が描かれている。

何れも少々扇情的な構図であり、描いた作家は中々良い趣味をしていると思う。僕とは気が合いそうだ。

さて次に窓際に移動してカーテンを開けると文明の光が幾つか見えた。

何れも松明や魔法とは違った安定した強い光量であり、やたら高い所に灯るモノや直線的に動き続けるモノなど様々だ。

時折遠くからブーンと音が聞こえるが、虫系のモンスターでもいるのだろうか。


外の確認を終えてカーテンを閉めた僕は天井から垂れ下がる糸を見つけた。

過去の経験則から引っ張ると作動するギミックのスイッチのようだ。

僕は躊躇うこと無く軽く糸を引いてギミックを作動させる。

カチンと音を立てると糸の付け根に備えられた輪っかが目映い光を放って部屋全体を照らし出した。

僕は魔法で出した光源を消し部屋の中を見渡す。


敷きっぱなしの煎餅布団と食いかけのお菓子、ゴミ箱を見れば異臭を放つ使用済みティッシュの山。

部屋の隅には積み上がった雑誌類と片付けてない洗濯物、引き出しに隠してある厳選された夜のオカズの数々。

徐に僕は枕元に置いてあった板状の…もういいや面倒くさい、スマホを手に取りスイッチを入れる。

昔懐かしい美少女キャラ(嫁)が画面に表示され、時計は藁人形を持って出かけるには最適な時間を指していた。

全てが始まった、あの日のあの時の時間だ。


「家に…帰ってきちゃったかぁ~」


色々な感情がごちゃ混ぜに成りながら、頭を抱え力なく僕はそう呟くしか無かった。


折れた心にガムテープ

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