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助けるダークエルフ


一言で姉を助けると言っても、やり方は色々ある。


最も簡単なのはチャラ男達全員を完膚なきまでに叩きのめすこと。

変身解除して元の姿に戻った今なら、連中を車ごとスクラップにすることは簡単だ。大した手間も掛からない、イキりちらしたバカな冒険者相手なら迷わずこの選択肢。


しかしながらその選択を取ると、十中八九ご近所の皆様によって警察を召喚される。その場から逃げることは簡単だと思うが、少なくともほとぼりが冷めるまで元の姿での外出は出来なくなるだろう。

当然そんなのは嫌なので、少々策を講じる必要がある。


「復唱、僕は留学生。伊吹姉と待ち合わせしている、ナウでヤングな外国人留学生」


作戦内容は至って簡単、友達のフリして強行突入して伊吹姉を持ち帰る、以上。

幸い今の僕はバリバリの外国人顔なので、何か言われても「ワタシ、ニポンゴ、ワカリマセーン」でゴリ押せる。

ゴリ押せたのなら、後は伊吹姉を抱えてトンズラ。時間が無いので少々強引な手だ。

ホントに時間さえあれば王国軍参謀長直伝の深謀遠慮を巡らせた老獪な策を用意できたのに残念だ…ホントに時間さえあればなぁ(悔)。

まあ即興で書いた脚本に贅沢を言っても仕方が無い、それを演技でカバーするのが名俳優というものだ。


「Hay、イブキ!お待たせしましたデース」


僕はアニメの外国人口調を参考にチャラ男達の群れに突入。連中をかき分けると伊吹姉は腕を掴まれていた。嫁入り前の伊吹姉に汚い手で触るとは、後で此奴らに不能になる呪いを掛けといてやろう。

突然乱入してきた高身長の外国人()にチャラ男達は疎か伊吹姉も目が点になっていた。

動きが止まったこの一瞬の好機、逃さずたたみかける。


「Oh。イブキ、モテモテですネ。でもデートの約束はワタシが先ですヨ!」


困惑の空気が霧散する前に、素早く伊吹姉の腕を掴んで自然に輪の中から離脱。

これにてMISSION COMPLETE…と思ったら突然腕をつかまれた。


「ちょい待ち、外人のおねーさん。デートなら俺たちも一緒にどう?大勢で居るほうが楽しいよ」


「そ…そうそう。俺たち、この辺のおいしい店、結構知ってるべ。みんなでデートだ」


…立ち直りの早いチャラ男は嫌いだよ。

しかも連鎖したのかお仲間たちも立ち直り始めている、やはり作戦内容に穴がありすぎたか。

不本意だがこれ以上は面倒なので、少しだけ実力を行使しよう。


「Sorry。レストランの予約してるから、また今度誘ってくだサーイ」


掴まれている腕を振りほどき、そのままチャラ男の顎先を掠めるように撫でてやる。動体視力…いや、下手なスピードカメラでも捉えきれない速度で幾重にも。

一応大事な事なので言っときますが、ちゃんと手加減はしています。()()()()しています。良いですね、理解したなら結構。


「あへしっ…」


程よく脳みそがシェイクされ、力なく崩れ落ちるチャラ男を受け止めた。もちろんお胸ダイブなんて贅沢を許すはずもなく、猫にするように雑に首後ろを摘み上げる。


「あらら、どうしたのカナ、貧血?お仲間さんたち、この人を病院に連れて行ってくだサーイ」


…と適当な理由をつけて、お仲間の元へキラーパス。

受け取ったお仲間たちは、白目をむいて気を失っているチャラ男の姿に大慌てだ。

そんなチャラ男たちをほっといて、僕は未だ状況に着いてこられない伊吹姉をお姫様抱っこした。

うん、我が姉は羽のように軽い。


「ごめん伊吹姉。少し本気で走るから、舌嚙まないようにね」


「えっ…ちょっと。うわ早っ……!!」


本気といっても、もちろん伊吹姉に負担にならない程度。

通行人を避けつつ適当な所を曲がり、人通りのない裏路地へと入った。

今のところチャラ男たちが追ってくる様子はないが、でも万が一というのも考えてもう一捻り加えよう。


「ちょっと跳ぶから、しっかり掴まっててね伊吹姉」


「…え?何言って……ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」


気持ち強めに伊吹姉を抱きしめて跳躍、ビルの側面や手すりを蹴り上げて屋上へ降り立った。下を覗いてみるとチャラ男たちの姿はなかったが、念には念を入れてビルを幾つか跨いだ先で別れよう。

幸いにも日はだいぶ落ちているので、多少派手に跳んでも見つかることはまず無い。

その旨の説明をしようと腕の中の伊吹姉を見てみると。


「あれ?おーい、伊吹姉」


何故か気を失っていた。

落ち着いて考えてみれば、人一人抱えてビルを跳躍で登っていくのは些か刺激が強すぎたか?要反省。

しかし困ったな。しばらく起きそうにもないし、かといってこのまま屋上に置いていくわけにもいかない。これが顔なじみの冒険者相手なら寒空の下に放置しても心が痛まないし、なんなら親切心で気付けに2~3発ほど顔に紅葉をくれてやってもいい。

だが嫁入り前の姉に其れをやるのは実に酷すぎるというものだ。


「仕方ない、家まで抱えていこう。帰れば母さん居るだろうし、同級生って言って適当に投げとけばいいか」


渡したら一旦家を離れて、変身してからしれっと帰ればアリバイは完璧だ。


「…………考えたら負けだ」


なんで自分の家に帰るのに、こんな面倒な小細工をしなければならないのだろうか。と疑問が湧きかけるも理性で無理やり抑え込む。

世の中、疑問に思っても追及しないでいたほうがいい事は儘にあるものだ。

例えば昨日まで借金漬けで首の回らなかった奴が、突然羽振りが良くなったときとか。分不相応な買い物したりして、気が付いたら何時の間にか消えているまでがワンセット。

誰も触れないし忘れるのが一番。さて今日の晩御飯は何かな?ヨシ、忘れた!

何とか気持ちの切り替えができたので、僕は姉を抱えてビルから跳び降りた。



繁華街を抜けて、大きな道路を幾つか渡り、自宅のある住宅街へと入った。

お姫様抱っこは些か目立つので途中でおんぶに切り替え、現在は僕の背中で伊吹姉は安らかな寝息を立てている。都合がいいので母さんには、疲れて寝ちゃった伊吹姉を大学の友人である僕が送り届けたという体で渡すつもりだ。

当然余計な事は喋らずに、さっさと家を離れるのが望ましい。


「だけど母さん、客人を異様に持て成したがるんだよなぁ」


幼稚園に通っていた時分に初めて友達を家に呼んだら特上寿司とうな重の出前を取るほどだったからね。

下手に引き留められれば過剰接待で、うっかり余計なことを喋ってしまいそうになる。

そうなる前に多少強引でも退散しよう。


「う~む。とは言え、なんて言い訳で退散しようかねぇ…」


「そこは学生らしく、明日も朝練があるとかにしとけば?」


「おお。それはナイスアイデアだ、伊吹ね…ぇ…」


思わず言葉が尻すぼみになる。

帰宅の歩みは止まり、背中から変な汁が分泌されるのが感じられる。

恐る恐る、異様に動きの鈍くなった首を回すと、目を覚ました伊吹姉と目が合った。

瞬間、思考が加速する。

定番の誤魔化しや逃走、その他様々な選択肢を思い浮かべる。

だが伊吹姉の目が下手な小細工は受け付けないと強く語っており、一呼吸置いて僕は観念した。


「えーと…釈明の場は頂けるので?」



やっとリアルが落ち着けた。

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