放課後のダークエルフ
最近内蔵の調子が悪い気がする。
「…疲れた」
帰りのHRも終わり、誰も居なくなった教室で僕は一人机に突っ伏していた。
体育の後もクラスの運動部員達がしつこく勧誘してきて、すごく面倒くさかったよ。
ダイエットになるだの内申点が良くなるだのと誘い文句が尽きることは無く、何か最終的には彼女が出来るよとか金持ちになれるよとか、テンプレ悪徳商法みたいなこと言い出す奴も居た。因みにそいつは所持金300円の彼女無しで説得力は皆無である。
おかげで昼休みに変身解除リフレッシュが出来なかったよ。
「まぁいいや、今日はもう終わり。さっさと帰ろう、今更だけど嫌な感じもするし」
疲れ切った身体を起こし、鞄を持って教室を後にする。
腹具合的に寄り道してハンバーガーでも食べて帰りたいが、今日はコンビニで適当にお菓子を買って済ませようと思う。
今朝のこともあるし、長年の勘がトラブルが引き寄せられていると囁いているのだ。
何というか背中がゾクッとする感覚、この妙な感覚がしたときは大なり小なりろくな目に遭わなかった。
こういう時は余計な事はせずに、さっさと帰って自室に籠もるのが一番。
以前、この感覚があるときに面倒事に巻き込まれたことがある。
気分を変えようと普段は行かないレストランに入った際、偶然店を訪れていた侯爵家嫡男が何をとち狂ったのか僕に一目惚れして結婚を申し込んできた事があった。
一緒に連れてきた婚約者の女性の目の前で。
そこからはもう約束されたドッロドロでグッチャグチャな泥展開。
求婚の翌日に侯爵家に連れてかれて花嫁教育を受ける羽目になるわ、元婚約者さんから泥棒猫と罵られるわ、引っ切り無しに暗殺者が来るわ、何故か投獄されるわ等々散々な目に遭った。
最終的に王家が介入して元凶の侯爵家嫡男は無用な騒動を起したとして廃嫡、元婚約者さんは侯爵家当主のお鉢が回ってきた次男君の所に改めて嫁入りして騒動は落着したよ。
因みに僕は侯爵家から謝罪は一切無く、僅かな口止め料だけ貰って何時の間にか終わった。
釈然としなかったが蒸し返せばロクな事にならないので黙って退く事にした。
平民って辛いね。
「よし、誰も見てないな」
念入りに周りを確認し、人気が少なくなった所で玄関を出る。
同じクラスの運動部連中に見つかったら、また勧誘合戦が始まって面倒極まりないからね。
念には念を入れて出来うる限り気配を殺しながら僕は校門を後にした。
☆★☆★
「う~ん、好物のコンソメにするべきか、初心に返ってうす塩でいくべきか。それだけが問題だ」
ポテチの陳列棚を見て僕は唸る。
何せ28年ぶりに食べるポテチ、喰らう瞬間は全米を泣かすほど感動的で無くてはならない。
複数種類買えば良いとも思われるが、そこは一般男子高校性の厳しい懐具合。
何せこの後まだジュースやアイス、ホットスナック類も吟味しなければならないのだ。
王国通貨が使えれば富豪買いが出来るのだが、当然ながら現代日本で使えるわけがない。
一応純金で出来ているので地金商にでも持っていけば換金できるのだろうが、持ってきたのが気の弱そうな男子高校性となると恐らく出所を探られる事になる。
当然異世界産なんて言えるわけなく、かといって嘘八百を並べても相手はベテラン。直ぐに見破られて、あらぬ嫌疑を掛けられた末に非常に面倒な事態に発展すると思う。
ならダークエルフ姿で持ってきゃイイじゃんとも思うが、こっちはこっちで身分を証明するモノが一切無いので拒否される可能性が高い。
なんなら変に勘ぐられて警察を特殊召喚されそう。
命懸けで稼いだ金が使えないガラクタに成り下がったのは、とてもとても悲しいモノだ。
お金の話は隅に置いといて熟考の末に、うす塩ポテチとコーラとフランクフルトとモナカアイスを購入。母さんのご飯は美味しいが、ジャンクフードの身体に悪い美味しさもまた癖になる。
晩ご飯の後に自室でこっそり食べる背徳感がまた良いスパイスになるんだよね。
ウキウキ気分でコンビニを退店すると前方に数人のチャラ男を発見した。
お手本のようなプリン頭に派手なだけの下品な服装。ジャラジャラと安っぽいアクセサリーをこれ見よがしに付けて、腕や足には後先考えずに入れたであろう派手な入れ墨が彫られている。
典型的な爽やかじゃ無いタイプのチャラ男だ、不良と言っても良い。
そして遠耳で薄ら聞く限り、どうやら数に頼んでナンパをしているようだ。
今も昔も異世界でもこの手の輩は面倒極まりないが、幸いにも注意は此方に向いていないので僕は悠々と後ろを通り過ぎることにした。
「だから、こっちは暇じゃ無いの。そこどいて!」
チャラ男の塊の中心部から聞き覚えのある怒声が響き、僕は思わず足を止めてしまう。
あはは、まさか、そんな、こんなドンピシャでトラブルに遭遇するなんて。
人違いであってくれと祈りつつ、チャラ男達の隙間から怒声を上げる人物をのぞき見た。
落ち着いた色合いのゆったりとした服を着こなし、大人の魅力溢れる僅かにウェーブの付いた茶色のロングヘア。そして同じ腹出身とは思えないスラリとしたスタイルと綺麗系のご尊顔。
うん、今朝パンを咥えて慌ただしく大学へ行った我が姉 伊吹さんですね。お帰りなさいませ。
嗚呼ァ…早速トラブルが寄ってきたか。
もしこれが見知らぬ女性だったら無視一択、通りすがりの勇者が早めに現われることを祈りながら僕はその場を立ち去っていただろう。
しかしながら囲まれているのは我が姉、見かけてしまった以上見捨てる選択肢は無いと言って良い。
とはいえ今の僕は気弱な男子高校性、突撃した所で軽くあしらわれて終わりだろう。
此処は無難に警察に連絡した方が良さそうだ。
僕はスマホを取りだして110番を入力。
後は発信を押すだけのタイミングでチャラ男の一人が手を振りだした。
手を振った先には黒塗りの大きなワゴン車が居り、運転席にはチャラ男達と同じ品の無い格好をした奴がハンドルを握っている。のんびりと警察を待っている時間は無さそうだ。
「はぁ…仕方が無い。…○△~×◎~解除」
裏路地に入って、周りに誰も居ない事を確認して変身を解除。
手早く着替えを済ませた僕は溜息一つ、正面から姉を救出するべくチャラ男達へ歩を進めた。
☆ダークエルフ時の響さん★
身長186㎝ 体重79.5㎏
スリーサイズはB91・W62・H86
夢見たってイイじゃん。




