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体育のダークエルフ


季節も春の終わりかけ。

人類の大敵『スギ花粉』も鳴りを潜め、ほんのり気温も上がり始めた今日この頃。

本日の授業は体力測定。

ハンドボール投げや立ち幅跳び等の種目を行い、最後にグラウンドを走ることになった。

端折っていると思われそうだが、前半種目は何れも平均より少し下くらいの記録なので割愛。


「ふっ、ふっ、ふっ」


「…ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ」


運動部員は日頃の成果で安定した走りを見せているが、文化部や帰宅部はヨロヨロと殆ど歩いてるような走り。嘗ては自分も後者だったと思うと、なんとなく懐かしく思える。

因みに僕は現在、運動部勢と文化・帰宅部勢の中間をマイペースに走っている。

変身して動きにくいとは言え、素の体力も落ちたわけでは無い。

冒険者はひたすら体力がモノを言う苛酷な職業だ。

調査・探索・捕獲・採集・戦闘・逃走etc.、何れも体力が無くては笑い話にもならない。結局最後の最後に頼れるのは己の体力、尽きたら死ぬだけ。

なので今の姿でも本気を出せば先頭集団以上のハイペースで半日は走っていられる。ただ昨日まで体力皆無の小デブが、いきなり運動部勢を越える体力量を見せたら、間違い無く悪目立ちして面倒事に巻き込まれるからしないけど。


(う~走り辛い、身体動かしにくい。変身を解けば(ダークエルフ姿)、もっと楽に走れるんだけどなー)


繰り返すが変身した今の身体はまぁまぁ動きにくい。

体格や身長を変えて、更に魔力でお腹周りを筆頭に邪魔な脂肪を再現しているので尚更だ。

変身前との可動域の差はHGガ○プラの最新モデルと最初期モデルの差と同程度と言える。

とりあえず今は我慢できているが、この状況が続けば何時かストレスで精神を病んでしまいそうだ。何か対策を考えなければいけない。

そうして走りながら頭をこねくり回してみると一つの案が浮んだ。

…そうだ、いっその事「ダイエット、始めました」宣言しよう。そうすれば自然に動かしやすい身体に変えていける。それに今の低い身長だって成長期の一言で十分ダークエルフ時と同等の身長に出来そうだ。

流石に変化は徐々に行わないといけないが我ながら十分に名案である。

やはり身体を動かすとポジティブな案が出るモノだ。


そうして今後の行動が決まった所で僕はゴールした。

グラウンド十周、以前の自分なら間違い無く完走できない距離である。

同族である文化・帰宅部勢はゴールした端から倒れ込み、流石の運動部員も息を整えて水分補給している。因みに僕は身体が温まってきた辺りなので内心不完全燃焼だが。

それでも走ったことには変わりないので、僕は近くの水道へと足を運んで喉を潤した。


「ああ…お水美味しい。このカルキ味たまんない」


こうして蛇口を捻れば何処でも安全な水が出るのは有難い。

魔法が有るとは言え文明水準が中世の域を出ていない異世界では一回煮沸しないと水が飲めないのだ。一応魔法で水を出す手もあるが、魔法で生成した水は安全に飲むことは出来るが味が非常に不味い。

個人差もあるが暴力的なエグみと苦みが一気に口内に広がり、嚥下した後も胃から常に名状しがたい異臭がこみ上げてくる謎に鬼畜仕様。興味本位で口にして三日ほどご飯が食べられず、軽い気持ちで飲んだことを今でも凄く後悔している。

そんな苦い思い出と青春のカルキ味を堪能していると、不意に多数の視線を感じた。

振り返ると怪訝な表情を浮かべている運動部員の皆様方。不思議に思っていると何時の間にか居た担任が口を開いた。


「なぁ桜田、単刀直入に聞くが陸上部に興味は無いか?良いダイエットにも成るし、種目次第だがレギュラーの座も夢じゃ無いぞ」


にちゃりとした笑みを浮かべながら担任は運動部への勧誘を口にする。

あれ、どうしてこうなった?ちゃんと運動部より遅れてゴールしたのに、何故に僕は今勧誘されてんの?

嫌だよ部活に入って土日も練習なんて、僕は土日はキッチリと惰眠を貪りたいんだ。

様々な思考が頭の中をグルグル回っていると、担任は苦笑しながら答えを言ってくれた。


曰く僕が完璧に運動部勢の後をついて行けてたのが問題だった。

離れた所から見れば一目瞭然だったみたい。そしてゴールした後も疲れた素振りを見せず、なんなら走り足りないオーラがブリブリに出ていたらしい。

隠していたつもりがバレバレだったたとは一生の不覚。


「…えーと。ぜ…ぜはー、ぜはー、ぜはー!!」


「今更息乱すの無理ないか?まぁ前向きに考えてみてくれよ、陸上以外にもその体力なら大半の部は歓迎してくれるからさ。内申点も俺のボーナスも上がるから良いことづくめだぞ」


最後のは担任にとっての良いことだと思うが。

言うだけ言って担任は集合の号令を掛けて1限目の授業は終わりを告げた。

解散後に更衣室までの道中、運動部の皆様からの熱烈な勧誘を受けたのは言うまでも無い。

揉みくちゃにされながら僕は思う、こんな調子で平穏な学園生活が送れるのかと。

 





その後、男子更衣室にて。


「ま…負けたorz」


「うおお…桜田の桜田さんハンパなくデケぇ!」


「股間に小っちゃいICBM装備してんのかーい!!」


パンツの上からでも解る我がマグナムに男子一同から畏怖の目を向けられた。


先月中旬から急激な仕事増に疲れる毎日です。

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