表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第5話 ふたりきりのティータイムと、小さな胸のざわめき


「クラリッサ様、今日もお時間いただけてうれしいです!」


放課後の中庭。クラリッサとミリアは、木漏れ日の差すテラス席でお茶会を楽しんでいた。

学院のカフェテリアで注文した紅茶に、クラリッサお手製の小さな焼き菓子が添えられている。


「そんなに緊張しないでいいのよ。(これは“監視”の一環なんだから)」


クラリッサは涼しい顔でティーカップを傾ける。

あくまで“転生悪役令嬢”としてのシナリオ進行上、ヒロインを攻略する必要がある。

だから、こうして仲良くしているのは――


(……“演技”のはず、なんだけど)


「クラリッサ様のクッキー、本当に美味しいです。えへへ…なんだか、こういうの憧れてたんです。女の子同士でお茶しながら、お菓子を食べて、楽しく話すなんて」


「……そんなに珍しいの?」


「はい、うちの村じゃ、みんな忙しくて。お茶会って貴族の人たちの世界って感じで…」


ミリアの水色の瞳がきらきらと輝いているのを、クラリッサは見つめた。

銀髪に柔らかい光が差して、どこか神秘的な美しさがある。


(この子、ほんとにヒロインって感じよね……天然で、可愛くて、守ってあげたくなるタイプ)


だけど――

(今、私が守られてるような気がするのは……なぜかしら)


ふと沈黙が落ちた。

お互いに視線を合わせたまま、なぜか言葉が出てこない。

心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。


「……クラリッサ様」


ミリアがそっと言った。


「私、もっともっとクラリッサ様のことを知りたいです。もっと一緒にいたいって思います。……だめ、ですか?」


クラリッサは一瞬、言葉に詰まった。


これは演技だ。

生き残るためのゲーム。恋愛フラグを折らないように攻略するだけ――


(……なのに、なんでこんなにドキドキしてるのよ)


「……だめじゃないわ。むしろ、光栄よ。私はあなたに期待してるから」


笑顔で返したつもりだったのに、自分の声がほんの少しだけ震えていたことに気づく。


そのとき、遠くから視線を感じた。


(……だれか見てる?)


視線の先、学院の石柱の陰に隠れるようにして――赤い髪が、風に揺れた。


(リゼット……!)


その瞳が、何を見つめていたのか。

なぜそのまま、何も言わずに去っていったのか。


クラリッサは少しだけ、胸がざわつくのを感じた。


(彼女、今……どんな顔してた?)


「クラリッサ様……?」


ミリアが心配そうに覗き込んでくる。


クラリッサは笑顔を取り繕って、そっと答えた。


「なにか……面倒なことが起きる前兆かもしれないわね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ