第3話 この気持ち、演技のはずだったのに
ーー放課後。学院の近くにある、貴族令嬢たちがこぞって通うというティーサロン「ル・パルフェ」には、優雅な時間が流れていた。
ガラス張りの大きな窓から差し込む光。繊細なレースのテーブルクロスに、花の形を模したティーカップ。
これぞ異世界貴族のティータイム。…っていうか、私、これ絶対場違いじゃない?
「クラリッサ様、すごく素敵なお店ですね。まるで絵本みたい…!」
向かいの席に座るミリアが、目をきらきらさせて辺りを見回している。
銀髪が陽光に透けて、まるで氷の妖精みたいだ。水色の瞳も、本当に澄んでいて…吸い込まれそう。
(やばい、ほんとにヒロイン感すごいなこの子)
「ここ、学院の生徒には人気なのよ。えっと…良かった? 気に入ってくれて」
「はいっ。私なんて、こんなおしゃれなところ初めてで…緊張しちゃいます!」
うわ、かわいい。そんな無垢な笑顔向けられて、私の罪悪感ゲージがカンストしそうなんだけど…
(だって、私、こっちは『仲良くなって生き残ろう作戦』で誘っただけなのに…)
そんな私の下心を知らずに、ミリアは無邪気に紅茶を口に運ぶ。
「わぁ…ほんのり甘くて、でも爽やかで…! お花の香りもしますね!」
「でしょ? ブレンドは、えっと…カメリアとローズだったかな?(ってメニューに書いてあった)」
「あの、クラリッサ様って、すごく優しいんですね」
「へっ!?」
紅茶吹くかと思った。
「いつも凛としてて、ちょっと近寄りがたいイメージだったけど…今日みたいに話してみると、ぜんぜんそんなことなくて」
(ゲームじゃめちゃくちゃ意地悪キャラだったけどな、私…!)
「そ、そうかな? 私って、そんなに怖く見えてた…?」
「ううん。でも、なんていうか…『誰にも負けない人』って感じがしてたんです」
ミリアの言葉は、嫌味じゃなくて本気っぽい。
まっすぐで素直で、だからこそ――こっちは心が痛む。
「……ミリアは優しいね」
「えっ? そ、そんなことないですよ!」
「あるよ。…だから、仲良くなりたかったんだ、私」
(……最初は生き残るため、だった。でも、少しずつ違う気持ちが混じってきてるのは、なんでだろう)
「…ふふ、うれしいです。私も、クラリッサ様ともっとお話したいです」
そう言って笑うミリアを見て、私は心の中で叫んでいた。
(…やばい、これ本当に好きになったらどうするの、私!?)
一方その頃、
サロンの奥、柱の陰でひっそりと紅茶を飲んでいたひとりの少女が、クラリッサたちをじっと見つめていた。
「ふ〜ん。あのクラリッサ様が、庶民の子とお茶…?」
彼女の名前は、リゼット・クロフォード。高位貴族の令嬢であり、クラリッサに強い対抗心を抱く存在。
「面白くなってきたわね。少し、探ってみましょうか…この“銀の髪の乙女”の正体を」
彼女の指先でくるくると回されるティースプーンが、淡く光を反射していた。