第1話 転生悪役令嬢、絶望の運命を知る
「え……えぇっ!? ちょ、ちょっと待って! なんでこんなことにっ!?」
目を開けると、広がっているのはまるで夢のような豪華な部屋だった。
天井には金色に輝くシャンデリア、壁には美しい絵画が飾られている。
「え、待って、私、何でこんなところに…?」
頭を抱えながら、あたりを見回す。どう考えても、普通の家の部屋じゃない。
「これ、私の部屋じゃないし…」
混乱しながらも、ベッドから起き上がり、部屋を歩き回ってみる。
「昨日まで私普通に現代の日本で暮らして…あれ? なんで、こんなところにいるの?」
だんだんと冷静になってきた私は、周りを見渡して、ようやく思い出した。
「これってもしかして、ゲーム『華麗なる王国の乙女』の世界じゃない!? 私、悪役令嬢のクラリッサ・ローゼンフェルト!」
クラリッサ・ローゼンフェルト――
どうやら私はゲームの世界華麗なる王国の乙女の「悪役令嬢」として転生してしまったらしい。
「まさか、転生するなんて思ってなかったけど…てゆうか元々私死んじゃったの!?ほんとになんなのこれ、どういうこと!?」
すぐに手元にある鏡を覗き込んでみると、見覚えのない金髪の少女が映っていた。
「これ、私の姿だよね…?」
そして私の運命は決まっている。昔ゲームをしたいた時の記憶を辿る。
クラリッサ・ローゼンフェルトは悪役令嬢として、ヒロインのミリアを妨害し、王子カイルを奪おうとする。そして最終的には、そんな彼女が処刑されるのだ。
「ちょっと待って! なんでこうなるの!? 絶対嫌だわ!」
絶望的な状況に陥った私。
目の前にある鏡に映った自分の姿を確認する。金髪で寝間着と言うには豪華すぎる服を着た見覚えのある顔。ああ、やっぱり私はクラリッサ・ローゼンフェルトになったらしい。しかもゲームの中でも最悪の悪役令嬢だ。
でも、待って、ちょっと待って。
「ゲームの中」と言っても、こっちの世界はあくまで架空のものに過ぎない。しかも私は何もかも知っている。
――ならば、どうすればいい?
生き残らなきゃいけない。
目標はただ一つ、ヒロインであるミリアをどうにかして私が処刑されないようにすることだ。
なんとかして彼女の心を掴めば、きっと未来を変えることができるはず。
(いや、変えなきゃヤバい!!)
「よし、決めた! これからはミリアを口説くんだ! 生き残るために!」
そう決意を固めたその時。
「お嬢様、また変な妄想をしているのですか?」
振り向くと、そこには私クラリッサの専属メイド、ヘルミーナが立っていた。
「あ、いや、別に妄想じゃないんだけど……」
ヘルミーナはあまりにも真顔で言った。
「お嬢様、もし生き残りたいのであれば、恋愛に走るのではなく、まずは自分の立場を守るためにしっかりと行動するべきです」
え? いや、確かにヘルミーナの言う通りだ。でも、私が思いつく最速の方法はこれだと思うんだ。
「恋愛っていうか、まぁ、口説くっていうか……まあ、いろんな意味で仲良くなるのが一番大事だと思うのよね!」
ヘルミーナは驚いた顔をした後、ため息をついて、目を細める。
「お嬢様、恋愛に関しては少しばかり手を出しすぎる傾向がありますからね……」
その言葉を無視して、私は決心した。
この運命を変えるためには、まず一歩を踏み出さなければならない。
「よし、まずはミリアに会いに行く!」
その瞬間、また一つ問題が浮かび上がった。
どうやってミリアに接近するのだろう?
――うん、考えている暇なんてない!
まずは一度アタックしてみるしかない!!
そうだ、最初のステップは何よりも勇気を出しての第一歩。
今からヒロインに会いに行って、少しでも心を開かせる。それが今、私にできる唯一の選択肢だ。
さあ、どうやって会話を始めるか――その前に、ちょっと練習しておこうか。
「ミリア、お茶でもどう?」
いや、ちょっと待て、それはダメだな。もっと上品に……
「ミリア、今日は天気が良いですね。お茶でもいかがですか?」
うーん、これもなんか違う。もっと自然な感じで。
悩んでいるうちに時間だけが過ぎて、気づけば部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
「あ、ヘルミーナ、何か用?」
その声に振り向くと、目の前にはヘルミーナの呆れ顔が。
「ゴホン、お嬢様今日は学校へ行かれないのですか?」
「学校…?」
その言葉で、私はようやく思い出した。そうだ、私クラリッサは貴族の令嬢として「ヴァルハウス学院」に通っているんだ。
「あぁ、そうだ! 学校に行かなきゃ…!」
私は急に焦り始め、急いで食事を終えると、ヘルミーナに手伝ってもらいながら服を整える。
「急いで行かないと! 今日は確か、新しい学期の初日だった!……よね」
「はい、お嬢様。ご準備が整い次第、馬車でお送りいたします」
「ありがとう、ヘルミーナ」
「仰せのままに」
私は急いで準備を整え、館の外に出て、馬車に乗り込む。
その間も頭の中では、転生したという現実を受け入れられず、ただただ混乱していた。
「でも、やるしかないんだよね。私、絶対に死にたくない!」
そして、馬車が動き出すと、見知らぬ街を通り過ぎていった。
「……ミリア、あのヒロインに出会わなきゃ…!」
彼女がこの学院で私を待っているのだ。私の運命を変えるためには、まず彼女と接触し、どうにかして味方にしなければならない。それが私の生き残る道だと、頭では分かっている。
「よし、頑張らなきゃ!」
私は心の中で誓いながら、馬車は町々を通り学院に到着する。
そして、学院の門をくぐり、最初に目にしたのは、あの優雅に歩くミリアの姿だった。