極度の憂鬱
しかし、この冷静さも長くは続かなかった。最近の美沙紀は1日の間でも、精神状態が大きく変化する事が多くなっていた。彼を失ったショックと悲しみで極度の躁鬱状態にあるのは間違いなかった。しかも、それを冷静に自覚出来るのは、時折思い出した様に訪れるごくわずかなリラックスした状態の時だけだった。
中途半端に自分の精神状態を自覚出来る事程辛い事はなかった。
チクショウ!
美沙紀は唐突にコーヒーカップをソーサーの上に戻すと、おしぼりの横にあった水の入ったグラス掴み、一気に飲み干した。
あいつのせいで、私の人生はメチャクチャになってしまった。
あの女、何とかして思い知らせてやりたい。
再び、憎しみがこみ上げる美沙紀。
怒り、悲しみ、復讐心・・
そして、激しい感情の高ぶりと落ち込みの間で、震えながら時折遠慮がちに顔を出す平常心・・
わずか十数分間の美沙紀の変貌ぶりを考えれば、平常心はかろうじて存在するというだけで、もはや彼女の心の中で脇役以下に成り下がっている事は明白だった。
だが、そんな美沙紀の哀れな平常心は、健気にもなけなしの勇気を振り絞り、辛うじて彼女をトイレに駆け込ませる事に成功した。
美沙紀は、トイレの床に座り込んで頭を抱え、歯ぎしりしながらうめき声を上げ続けた。