溢れ出す感情
美沙紀はギュッと唇を噛みしめた。
本当なら今頃、私だってあんな風に楽しい毎日が送れた筈だった。いや、実際についこの間までは、幸福の絶頂だったと言ってもよかった。
それが・・
なんであんな事に・・
美沙紀はこみ上げてくる何かに胸が苦しくなり思わず立ち止まった。
やがて、体内を這い上がってきたそれは、わずかに塩分を含んだ水に姿を変え、一気に彼女の両目から体外に放出された。
もう感情を抑えることは出来なかった。
美沙紀は嗚咽に肩を上下に揺らしながら、泣き始めた。周囲の目も気にならなかった。
あいつさえ、あの女さえいなければ、私の大切な人は死なずに済んだのだ。
美沙紀の心は憎しみに満たされていった。
そうだ。泣いてる場合なんかじゃない。
美沙紀は、涙でグシャグシャになった顔を拭きもせずに、再び歩きだした。
美沙紀、あなたは何をしにここに来たの?
人の幸せを羨む為じゃないのよ。
あいつに、あの憎い女に復習する為、思い知らせてやる為でしょう。
美沙紀は自分に言い聞かせるように何度も呟きながら、ショルダーバックの中に手を入れて、大切に持ってきた物を確認するかの様にしっかりと掴んだ。
美沙紀は、次第に歩くテンポを早めながら、ペットショップの角を曲がると、急な上り坂を住宅街の方に上っていった。
賑やかだった商店街とは対照的に、人影もまばらな道がまっすぐに伸びている。
この先に、美沙紀の目指す目的地はあった。噂が本当なら、それは6階建ての黒いマンションの筈だった。