日本食スーパーの店長
美沙紀がベイズウォーターで利用しているスーパーは主に3~4件あった。
それ以外にも、ポンドショップという日本でいえば100均にあたる店も利用していた。
1件で揃えばそれに越した事はないが、それぞれ品揃えが違う為、欲しい物によって使い分ける必要があった。
ホテルを出ると、再び駅前の通りに出て1件目のスーパーに向かう。ウエイトローズという、駅周辺では、1番大きなスーパーだった。駅前の繁華街の外れにあり、他のスーパーに比べ、高級志向なのが特徴だった。
ウエイトローズに到着すると入口を入り、エスカレーターで店舗フロアに上がった(1階は駐車場になっている)。
このスーパーで、毎回基本的なものは揃えていた。ミネラルウォーターや、コーラ類、パンやパスタ、フランクフルトなどをカートに入れていく。
ティッシュやトイレットペーパーはホテルにもあったが、量が少なくすぐに使い切ってしまうのと、ホテルに補充を頼むのが面倒なので、自前で買ってしまっていた。
美沙紀は会計を済ませ、一旦ホテルに戻って買ったものを置くと、再び町に戻った。
ポンドショップでボディーシャンプーやゴミ袋などを購入した後、日本食材のみを扱うスーパーに立ち寄った。
ここは美沙紀のお気に入りの店でもあった。レトルトのご飯、カレー、ラーメン、漬物、納豆、豆腐など、主だった日本食や食材はほぼ揃った。
自炊しているとはいえ、ホテル住まいで野菜の摂取が不足気味になる為、この店で売っている冷凍の枝豆をほぼ毎日食べる様にしていた。味も悪くなかった。
一通り物色し、欲しい物をカゴに入れてレジに向かった。
「いらっしゃいませ。美沙紀さん。」
副店長の山名遥香がレジで出迎えてくれた。
「こんにちは。遥香ちゃん、また2週間よろしくね。」
「こちらこそ。いつもご利用ありがとうございます。」
遥香がぺこりと頭を下げた。
遥香は気さくな性格で、美沙紀もウマが合った。
最近では、ロンドン滞在中一緒に食事をしたり、週末に2人で出かけたりする程の仲になっていて、ロンドンに行くのが待ち遠しくなる程、美沙紀にとって大切な友人となっていた。
「美沙紀さんの為に、また大量入荷しときましたよ。」
遥香がカゴの中の枝豆を取り出しながら、バーコードリーダーを持った手で指差した。
「助かるわ。ロンドンに来ても食べ物には不自由しないけど、野菜がなかなか採れないから。。」
支払いが終わり、遥香から荷物を受け取ると、美沙紀は遥香のパッチリとした瞳を見つめながら顔を近づけて囁いた。
「遥香ちゃん、店長の恭子さんの事はお気の毒だったわね。」
遥香の表情が一瞬にして曇った。
「はい。。。 とてもショックでした。
私、第一発見者でしたし。。」
前回、美沙紀がロンドンに滞在中に、このスーパーの店長である、芦名恭子が亡くなったのだ。
丁度、美沙紀が帰国した日の朝、出勤してきた遥香が、このスーパーのフロア内で恭子の変死体を発見したのだった。
店を出た美沙紀は、ロンドンの曇り空を見上げて溜め息をついた。
”遥香ちゃん、ごめんなさいね。
恭子さんは、私がを殺したの。。”