美沙紀
京浜東北線が石川町駅に到着する頃には、空はどんよりとした厚い雲に覆われ始めていた。
美沙紀は駅を出ると、今にも泣き出しそうな空を見上げて大きく溜息をついた。
そして、今度はがっくりと頭を下げ、まるで落とし物でも探すかの様にトボトボと歩き始めた。
天気が崩れてきているとはいえ、元町方面に向かう大きな人の流れが途絶える様子はない。雨が降り出す前に商店街までたどり着きたいと考えているのか、みんなペースの遅い美沙紀を両脇から足早に抜き去っていく。
それにしても人が多いな・・
いくら週末とはいえ、この混み具合は半端ではない。
だが、時折後ろから突き飛ばされそうになりながら歩く美沙紀は、元町入口の交差点に立っている看板を見て、ようやくその理由を知った。
みなとみらい花火大会
そっか・・
今夜は花火大会なんだ・・
少しだけ見て帰ろうかな、と考えた美沙紀は、すぐに頭を横に振ってその案を自ら没にした。
そんな事したら、ますます惨めになるだけじゃない・・
美沙紀は、歩行者天国の商店街を歩きながら、力なく周囲を見渡した。どこもかしこもカップルで溢れかえっている。
浴衣を可愛く着こなし、楽しそうに彼を見上げる女の子。
手をつなぎながら、仲良くジュエリーショップに入っていく年輩の夫婦。
みんな幸せそう・・