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【短編版】武器を量産できる鍛冶師アンナ〜国を救い、王様の命までも助けたのに追放ですか? 私を追放したら国が滅びますけどいいんですね?〜

作者: イヴ

私の小説を読んでいただきありがとうございます!

「はいはい、じゃあ本当にいいんですね? 国が滅んでも知りませんから。さようなら」

「ほざけ、愚か者め! おい、そこの兵士! この野蛮な異世界人を国の外まで連行しろ!」


♢ ♢ ♢


――その追放宣言を受ける約3週間前、私はこの世界に転移してきた。


新野アンナ、26歳。ブラック企業に勤める疲れきったOL。今日も仕事が終わったのは夜遅く。クタクタになりながら家に帰り着いたその瞬間、突然眩い光に包まれ、気づけば見知らぬ場所にいた。


「おおっ! 召喚成功だ!」


周囲を見渡すと、見知らぬ人々が歓喜の雄叫びを上げている。しばらくして、さまざまな事情を説明してもらったが、私はネット小説を読むのが好きだったので、なるほど、これが異世界転移というものなのね、とすぐに状況を理解した。前の世界では死んだかどうかわからないけれど、未練はなかったから、むしろこちらでの新しい生活に期待が高まり、少しワクワクしている。


祭壇の上に鎮座する女神像に祈りを捧げると、異世界人特有のスキルが授けられる――そう聞かされた私は、さっそく壇上に上がるよう促された。片膝を床につけ、両手を組み、それらしい祈りのポーズを取る。


「スキルは自分にしか分からぬ。女神像にもっと意識を集中させよ。そうすれば、頭の中に文字が浮かんでくるはずじゃ」


ローブを深く被ったご老人が静かに告げると、周囲に緊張が走る。私は女神像に視線を定め、心の内で祈りを捧げた。すると、不思議な感覚が頭の中に広がり、スキル名がゆっくりと浮かび上がってきた。


【スキル名:武器投影魔法(ぶきとうえいまほう) Lv.1】


ん? 武器投影魔法? 具体的なイメージが全然浮かばない。文字を見る限り、なんとなくは想像できるけど、微妙な気がする。私が思い描いていたのは、もっと強力で、すぐにわかるチート能力。例えば『剣聖』や『大魔導師』みたいなやつが良かったのに。


もしかして、これって早々に追放されるフラグなんじゃ……? やばい、どうしよう。


「さあ、何のスキルじゃった?」


たちまち、ご老人が私に尋ねてくる。正直に答えた方がいいのかな? それとも、少し誤魔化すべき? ここで嘘がバレたら、もっと大変なことになるかもしれないし。この国の法律がどれくらい厳しいのかもわからない。極刑なんて勘弁してほしい……。


「え、えーっと。魔法で武器を作れるスキル、かな?」


「な、なんじゃとー!!」


私の言葉に反応した教会の人々が騒ぎ始める。やってしまった。これ、ハズレスキルだよね。あぁ、死刑だけは勘弁してください。召喚されて早々に死にたくない……


「おお! 大当たりじゃ! でかしたアンナ!」


「え?」


話を聞くと、どうやらこの国は武器を作るための素材をほぼ全て、戦争中の敵国・キール王国から輸入していたらしい。しかし、その供給が途絶えたことで、武器が足りなくなり、多くの兵士が戦場に赴けずに国内に留まっているという。


鍛冶師たちは仕事を失い、国を出て行く始末。しかも、周辺の自国領は9割方が敵に占拠され、残るはここ王国と、近隣の集落や町だけらしい……。


「え? それって絶体絶命のピンチってやつじゃなくて?」

「そうじゃ、だからお主を召喚したのだ」

「・・・」


最悪だ。つまり、召喚されたばかりで国の命運を託されることになったわけだ。このまま何も聞かなかったことにして、立ち去りたい。


「ま、ま、ひとまず魔力量を測定してもよいか? ずっと立っているのもキツかろう、そこの椅子に腰掛けるとよい、何か後で飲み物を持ってこさせよう」


私の表情を見抜いたのか、急に優しい口調になるご老人。頑張って表情を隠しているつもりなのに、バレているのかしら……。


ご老人が壇上から降りると、入れ替わるように魔術師の服装をした美しい女性がやってきて、私に一礼した。彼女は杖を持ち上げ、私の頭上にかざすと、杖の先が白く光り始める。


――すると、突如驚きの声を発した。


「な、なんということです! こんなに膨大な魔力を感じたのは初めてです!」


「そんなにあるの? 私は何も感じないけど」


「それを今から、あなたにもわかるように数値化させますね!」


私を一目見ようと、教会に集まった多くの人々がその言葉を聞き、救世主だと騒ぎ立て始める。


これで逃げられなくなった。私の力で窮地に陥った国を救えるかはわからないけど……期待されてる以上、見捨てるのは可哀想な気がしてきた。


あとなんてったって、ここにいる大勢の人に顔を知られている。逃亡を計るのは無理だろう。


そんなことを考えながら出されたハーブティーを一気に飲み干す。


――その瞬間、教会の扉が勢いよく開き、伝令の兵士が慌ただしく駆け込んできた。


「で、伝令いたします! 我らが国王陛下が、敵地の偵察中にキール王国の兵士に捕らえられたとの報告がありました! さらに、自国の残りの領土もキール王国の手に落ちた模様です。そして、降伏して王国を明け渡せと、大軍が門前まで押し寄せています! い、いかがなさいますか?」


その知らせが伝えられると、ここにいる全員が呆然と立ち尽くしてしまった。


いかがなさいますか? じゃないわよ! 誰がここを明け渡すって言うの? 敵軍に捕まったら、もしかしたら一生牢獄暮らしになるかもしれない。そんなのは、絶対に嫌よ!


そもそも、なんでこんな重要な場に王様がいないのよ!? それどころか捕まるなんて……もう、信じられない! ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃないわね。一刻を争う事態なんだから。


「ねえ、みんな、確認なんだけど、この戦いの勝敗は、私が握ってるってことになるのよね?」

「そうじゃ、他に手立てはもう残っておらん。すまぬな、こんな絶望的な状況でお前さんを召喚してしまって。もう降伏するしか道は……」

「だめよ、降伏なんて絶対しないわ! このまま負ける気でいるなら、この私が今から指揮を取る! それでもいい?」


集まった者たちは互いに顔を見合わせて、頷く。


「反対意見がないようだから、賛成ってことでいいわね!」


その後、私の指揮のもと、敵の数や、この国に待機している兵士の数を調査するよう指示を出した。


その間、私はスキルの使い方を教えてもらっていた。


「なるほど、頭の中で念じるだけで、スキルが発動するのね。ちょっと試したいから、その剣貸してもらうね」


多分だけど、この剣に意識を集中して念じれば……。


「おっ! すごい、すごい! できた!」

なるほど、なるほど、じゃあ次はこれを……


――1時間後。


「よしっ! とりあえずはこんなもんかな! 希望が見えてきた!」

「な、なんと! 短時間でこれほど大量に作るとは……。いやはや、驚きじゃ」


まだ試していないことが山ほどあるが、現時点で確認できたスキル【武器投影魔法(ぶきとうえいまほう)】の能力は、作りたい武器を目視し、念じることで、魔力を消費して全く同じ性能の武器を、新たに作り出すことができた。


スキルのレベルが低いうちは、魔力をたくさん消費するものの、私の魔力量は50万もあるから、実際には微々たるものだった。上級の魔法使いでも5万前後らしいから、驚かれるのも無理はない。


ちなみに、どうせ作るならと、国一番の剣を持ってきてもらい、それを大量生産することにした。見た目は平凡な剣だが、実は聞くところによれば、世界にたった5本しかない名剣なのだ。


――3週間後。


ガリレア王国は、アンナの指揮の下、見事な勝利を収めた。国王も無事に保護され、国に戻ってこられたのだ。


勝因は、武器が兵士全員に行き渡ったことだと言えるが、実際にはこちらの兵士の数が上回っており、武器さえあれば勝算が見込める戦いだった。さらに、こちらの武器は全員が名剣を持っている。作った際に試し斬りをしたが、盾を真っ二つにできるほどの威力があるのだ。数と質の両方で優位に立てたことで、勝利を手にすることができた。


こうして勢いに乗ったまま、占拠されていた領地を次々と奪還していった。


私はその功績を讃えられ、王国専属の鍛冶師として働くことになった。こうして鍛冶場で一人黙々と、名剣を量産する日々が始まったのだった。


――そんなある日、突如として異変が起きる。


いつものようにせっせと名剣を作っていた私だったが、急にスキルが使えなくなった。原因を探っていくうちに、一つの事実に気がつく。


「えっ? 私の魔力量が0になってる……嘘でしょ?」


まさか……と、見当違いであってくれと祈りながら、作った剣に恐る恐る触れてみると、わずかだが魔力を感じる。試しに戻れと念じてみた。


すると、目の前にある剣が消えて無くなり。魔力数値が0から3に変わった。


他の剣でも同様に試してみる。幾度も繰り返し、その感覚から一つの結論に至る。


「えっ、魔力の消費で作っていたのではなく、魔力を貸した状態で複製していただけということなの!?」

武器庫には私一人なのに、思わず口にしてしまった。


「えー、そんなことあるー!? あっ、()()ってそういうこと!?」


はぁー、魔力は寝れば回復するものだと思ってた……。ちゃんと魔力量を確認しておけばよかった。でも……どうしよう、これ以上、武器作れなくなっちゃった……。


でも武器庫いっぱいになるぐらいに作ったし、十分だよね。


――2日後。


「アンナ、頼みがあるのだが聞いてくれるか?」

私は突然王の間に呼び出され、王様から何かをお願いされそうになっていた。


「は、はい! どうしましたか?」

「北の帝国が攻め込んできているとの報告があってな。ちっとばかり数が多いようで、万が一に備えて、余分に武器を作ってほしくてな。頼むぞ」

「いや〜あのー、そうしたいのは山々なんですけど、実は2日前に魔力が枯渇しちゃいまして……これ以上は作れなくなっちゃいました」

「な、なに? 作れなくなっただと!?」

私がそう言うと、王様は眉間にシワを寄せ、急に表情が険しくなった。


「は、はい。ですけど、作った剣を戻すことで……」

「追放だ」

「はい?」

「もう剣を作れないんだろ? なら、もう無能なお前に用はない」


「え? 追放って……えっ!? 急にそんな、あんまりじゃないですか! いくらなんでも酷すぎます! しかも私1人で兵士全員分の武器を作……」


「ええい、黙れ! ワシを誰だと思うとる、これだから異世界人は好かんのだ! 前に召喚した奴も……」


それから、王様は以前に召喚した異世界人の悪口を延々と語り始めた。私はスキルについて説明しようとしたが、王様は聞く耳を持たず、追放の二文字を突きつけるように言い放った。


私国救いましたけど? 何なら王様の命も助けましたが? この恩知らずのクソッタレジジイめ。そういえば、私が召喚された時もこのオヤジはいなかったっけ。過去に何があったかは知らないけど、話を聞く限りよほど異世界人が嫌いらしい。


「話の途中に悪いんですが、私がいなくなった後、誰が武器を作るんですか?」

「心配せずともお前の代わりはいくらでもおるわい! 今や我が国は大国となった。優秀な人材がそこら中から集まってくるであろう。キール王国も支配国になり、武器の材料にも困らん! 安心して国を去るがよい! ははは!」


あれ? このオジサンもしかして私が名剣を作ってること知らない? 名剣と言っても見た目は、そこら辺にある普通の剣と変わらないし、無能王には違いがわからないか。そこまで言われたら、もうこの国に力を貸してやる理由なんてないわね。むしろ、私がいなくなってからどうなるか、見物じゃない?


「はいはい、じゃあ本当にいいんですね? 国が滅んでも知りませんから。さようなら」

「ほざけ、愚か者め! おい、そこの兵士! この野蛮な異世界人を国の外まで連行しろ!」


――3日後。


王国のとある居室で、ローブを深く被ったご老人(テオロフ)と魔術師の女性(エマ)の声が聞こえる。


「な、なんじゃとー!? アンナが国外追放されたじゃと!?」

「はい、私も最初は耳を疑いましたが、確認したところ間違いありませんでした。理由はわかりませんが、国王の独断だと聞いております」

「国を救ってくれた恩人に、なんという処罰を」


テオロフは机を叩きつけ、突然立ち上がると、ローブを羽織りながら、彼は一直線に扉へと向かった。


「ちょ、ちょっと、そんな慌ててどこに行かれるんですか!?」

「アンナを探しに行くに決まっておろうが!」

「わ、私もついて行きます!」

「好きにしろ! ワシはもう行くぞ」


そう言うとテオロフは出口に向かって、一目散に進み始めた。

「ちょっと待ってくださ〜い、置いてかないでくださいよ〜!」


こうして、2人はアンナを追って旅に出ることとなった。


――その頃王宮では、鍛冶師の募集を見て、大勢の職人が集まっていた。しかし見本(名剣)を作れと無茶を言う国王に、誰もが呆れ返り、続々と王宮を後にしていた。


「ぐぐぐ……なぜ、この剣と同じのを作れる者がおらんのだっ! く、くそ……」


すると、王宮の扉が大きな音を立てて開き、伝令の兵士が慌てふためきながら国王の前に駆け寄ってきた。


「も、申し上げます! 北の帝国が予定よりだいぶ早くこちらに侵攻してきました!」

「ぐうぅ……、クソ、こんな時に……仕方ない、武器を取り襲撃に備えろと全軍に伝達しろ!」


一方その頃、アンナは隣の村へ向かう道中で、ゴブリンと遭遇していた。戦闘を避けようと必死に逃げ回るものの、次第に追い詰められてしまう。覚悟を決めて戦うしかないと悟り、ゴブリンの手に持つバットのような木の棍棒に狙いを定めた。しかし、その瞬間、魔力が完全に0になっていることに気づいてしまった。


「そ、そうだった! や、やばい死ぬ! やだよ……ゴブリンなんかに殺されたくないよー! ま、魔力ー!!!」


窮地に立たされ、気が動転していたアンナは、ヤケクソになって叫び、心の中で念じた。その瞬間、体に大量の魔力が戻ってくる感覚が押し寄せる。頭の中で魔力の数値を確認すると、50万という驚くべき数字が浮かび上がった。


「え、えっ……!? ……ま、いっか! そのうち、頃合いを見て全ての魔力を回収するつもりだったし、今頃あのオヤジ、大慌てしているだろうな。ざまあみろ、って感じね!」


その後、ガリレア王国は突如として王国中の武器が消失する事態に見舞われ、大混乱に陥り、北の帝国の侵略が始まると、王国はあっけなく壊滅してしまった。


後に知った話では、王様は側近や兵士たちからアンナを追放したことを厳しく非難されていたという。彼らから「アンナに謝罪して連れ戻すか、我々に殺されるか、どちらか選べ!」と迫られた王様は、王宮を飛び出し、アンナを探しに向かった。


しかし、その矢先に待ち受けていたのは、敵国の兵士たち。王様が最後の力を振り絞って叫んだのは、「アンナ……た、たのむ……戻ってきてくれー!」という言葉だった。


アンナは魔力が完全に回復したおかげで、無事に危機を乗り越え、テオロフとエマと合流することができた。こうして三人は共に世界を旅し、やがて「魔術の三英傑」として語り継がれる存在となっていく。それはまた別のお話である。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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認識違いなら申し訳ないのですが、 転生は、異世界で生まれたか、異世界住人の肉体の場合。 自身の肉体のまま異世界に召喚等されるのであれば転移だと思っていたのですが、どうなのでしょうか? この主人公の、…
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