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007:寝台車管理補助AI:バァク:Baak-B.M03.AE20680427



 ──魔力エネルギー残量:100%

 ──予備エネルギー充填開始



「はぁ?」


 あまりにもあんまりな状況に、寝台車管理補助AIであるオイラの処理は一瞬フリーズした。


「すっご……」


 え、だってこんなことある?

 規定車両分だけの編成でも万単位の乗客が入る想定の魔導列車だよ?

 そのくらいの人数で魔力確保して、節約しつつ走ってトントンくらいの魔力消費に設定されてるんだよ?


 それをたった二人で数分で満たしてまだ余裕あるとか。

 そんなことある?


「バァクー、そっちはどないやー?」

「どうもこうもないよぉ! あっという間に100%超えて予備充填入っちゃった! あの二人、本当にヒトなのぉ!?」


 のんきなサゥマンダーに叫んだオイラは悪くないと思う。



 * * *



『リワンダーアーク』として再出発したこの列車に、新しい乗客がやってきたのはついさっきの事。


 新しい管理人さんが絞り込んで見つけた世界は、大気中の魔力でさえやけに濃厚で。これなら乗客が来なくても魔力補給にはバッチリだねって思ってたんだ。


 世界へフェードインしたリワンダーアークは、なんだかやけに高い塔の天辺にホームを置いて停車した。


 そこには一人の、ボロボロの服を着た女の子。



『えーっと、初めまして。異世界とか興味ありません?』



 初手でそれはない、って管理人さんはサゥマンダーにツッコミ入れられてたけど。


『え、だって。あんな廃墟みたいな塔にあんな格好で一人でいたんだから、明らかに訳ありだろ。だったら俺が念じた『魔力が高くて異世界に行きたい人』はこの子だ、ってなるじゃん』


 なんてケロッとして言っていた。

 サゥマンダーは頭を抱えていた。

 なんだろう、管理人さんは魔法の無い世界から来たはずなんだけど、やけに勘がいい。


 そして女の子とこっち列車側とでお互いの事情を簡単に説明しあって。


 聖女さんと魔王さんののっぴきならない事情を聞いて。

 あ、それはもうさっさと一緒に異世界行った方がよさそうだね、ってお互いに結論付けたら、後はもう魔王さん拾ってさっさと夜逃げみたいにフェードアウトした。

 特に神様からの妨害も無かったし。


 ……そう、無かったんだよ。神様の引き留め。


「やっぱりおかしいよねぇ?」


 あんなに強い力の持ち主。神様は外へ出るのを嫌がりそうなものだけど。

 そんな疑問をバロメッツィに投げてみたら、のんびりした熟慮の後に予測がかえってきた。


「…………たぶんだけどぉ~、神がいないタイプの世界だったんじゃなぁ~い?」


 バロは言う。

 あれは、『神の死体から発生したタイプの世界』だったんじゃないかって。

 たまにあったねぇ、そういう世界。


「魔王さんと聖女さんはぁ~、聞いてるだけでもヒトにしては強すぎるからぁ~、神の欠片を持って生まれたんだと思うよぉ~」

「あー、そうだね。それなら納得かなぁ」

「でもその割にぃ~、世界のバランス調整がされてないからぁ~」


 神の関与した雰囲気はあるのに、神の管理や干渉が無いのはそういうこと、かもしれない。って話。あくまでも予想でしかないけど。


 でもそうだね。

 魔王さんが頑張って対応したからよかったけど、ほっといたら自壊してたってことだもんね、あの世界。


 なお、その頑張った魔王さんと聖女さんは、マンドラゴンにより強制健康診断に叩き込まれちゃったぁ。

 色々と規格外だからねぇ、しょうがないね。


「バイタルチェック、オールグリーン。魔力数値がヒトの平均値を遥かに上回る他は、特に特記事項はありません」

「あ、ヒトでいいんだぁ? 現人神じゃなくて?」

「……当該車両の医学データに現人神のデータや基準は存在しません」


 ふぅん。マンドラゴンがはっきり否定しないってことは、定義が無いから定義できないだけで、現人神って言ってもいいくらいには魔力量がヒトから逸脱してるってことだねぇ。


 ……だろうねぇ!



「……ま、いいやぁ」



 健康診断も終わって、お食事御用意できなくてごめんなさいってサゥマンダーの謝罪を済ませたら、ここからはオイラのお仕事。


「じゃ、お二人のお部屋にご案内しまぁーす」


 今後どうするかの詳しい話は、また明日。

 今日はとにかく、汚れた体をお風呂でさっぱり綺麗に流してもらって、ふかふかのお布団でゆっくり休んでもらわなくちゃ!


 サゥマンダーもマンドラゴンも、百年単位の飲まず食わず幽閉生活って聞いて白目向いてたからねぇ。

 いくら力が強すぎて不老不死だからって、メンタルにどんな影響出てるかわかんないから。予測しようにも、僕らの故郷にはそんな前例無いんだもん。

 だから、とにかくまずは暖かい部屋で休息を、だって。


 二人の前にホログラムを投影して、寝台車の部屋までご案内。


 寝台車は居住区でもあるし、乗客の玄関でもある。

 だからまず寝台車に入ると、そこはかなり広ーいエントラスホールになってるんだぁ。

 乗り降りがスムーズにできるように、ドアがいくつか壁にある。外から車体を見ると、ドアがいっぱい並んでるように見えるのが寝台車だよぉ。

 もちろん他の車両からも乗り降りはできるけど、一番頻度が高いのはオイラの所だからねぇ。


「外から見るよりずっと広いのだな」

「不思議ですわ」


 そうでしょそうでしょ、自慢のエントランスだよぉ。


 で、居住区へ移動するのは、外へのドアとは別の、エレベーターみたいな両開きの扉から。

 通常はここから決められたレイヤーに移動して、その先でさらに区画の何番にーみたいな移動をするとホテルの廊下みたいな場所に出るんだけど。


 このお二人は違うのだぁー!


 エントランスに唯一の黒い扉。

 ここを通ると、高級感がさらに増す第二のエントランス!

 そこから広めの廊下を通った先のお部屋へ直行!


「はーい、ここが二人のお部屋だよぉ」

「……待て、これは王侯貴族の部屋ではないのか?」

「VIPルームだから、間違ってはいないかなぁ」


 そう、この列車にはVIPルームがあるのだぁ!


 ふっかふかの絨毯にふっかふかの天蓋付きベッド!

 空調完備はどの部屋も当然なんだけど、なんとこの部屋には暖炉まであるよぉ!

 食堂車ほどじゃないけど、それなりに広くて機能的なキッチンも完備。もちろん大きな冷蔵・冷凍庫付き!

 お洗濯は専用ボックスに入れれば乾燥してウォークインクローゼットに収納するまで全部お任せコースだぁ!

 あとはもうホテルのスイートルームみたいなの想像してもらえれば大体あってるかなぁ。


 ちなみに、寝台車はホテルとか開拓遠征先での使用を計画してたから、家具どころかリネン類・各種衛生用品までほとんどそのままだったんだぁ。

 故郷のみんな、まるっと貰ってゴメンねぇ。でも農耕車の解体費高いから余裕でペイできるし許してねぇー


「……普通の部屋で良いのだぞ?」


 若干青ざめた顔の魔王さんと、カクカク壊れた玩具みたいに首を縦に振る聖女さん。

 うーん、これは二人とも自分たちのすごさを分かってないなぁ?


「なぁに言ってるのぉ? お二人とも、ちゃぁんとVIPの条件は満たしてるよぉ」


 きょとんとする二人の前で、オイラのホログラムはエヘンと胸を張った。


「VIPの条件はねぇ、『車両製造に多大なる出資・貢献をした事』、あるいは『列車運営に多大なる貢献をしている事』、あるいは『列車運営費用に多大なる寄付をしている事』」


 ようするに、協力的な権力者か、替えの利かない人材か、って感じだねぇ。


「お二人はこの内の二番目、『列車運営に多大なる貢献をしている事』に該当しまぁす」

「……何もしていないが?」

「魔力供給に同意してくれたでしょー? あのね、この列車は動かすのにものすごーく魔力を使うんだよ! それをたった二人で全部補えるのはものすごくものすごい事なんだからねぇ!」


 ほんとにねぇ!

 本来ありえないことだからねぇ!?


「それに、サゥマンダーも言ってたでしょお。ずっと二人で世界を守ってきたんだから御褒美やと思ってゆっくり休んでーって。御褒美なんだから、豪華だっていいじゃない」


 オイラがそう言うと、ふたりは顔を見合わせてから、そろりそろりと部屋に踏み込んできた。

 後ろでパタンとしまったドアに二人揃ってビックリして、また顔を見合わせて苦笑いしてからは、少し気持ちの切り替えができたみたい。


「先に体を洗わないと、汚してしまうわ」

「はーい、お風呂場はこっちだよぉ」


 お風呂っていう概念はあったみたい。

 二人とも、特に聖女さんの方は、使い方を説明すればすぐに理解したみたいだった。


「じゃあ一緒に入りましょうか」

「んんっ!?」


 朗らかな笑顔でお風呂に誘う聖女さん。

 ギョッとした顔で固まる魔王さん。


「い、いや……そこは、一人ずつの方が……よいのでは?」

「なぜ?」


 心底不思議そうに首を傾げる聖女さん。

 魔王さんは、顔を赤くして困ったようにオイラをちらちら見てくる。


 ははーん、これはアレだね?

 純真無垢な女性の裸をなし崩しみたいにして見るわけには~みたいな、そういうヤツだね!?


 お察ししたオイラは、にっこり笑って言ってやった。


「二人一緒の方がお互い補いあえて良いと思うなぁ。何かあっても安心だし」

「っっっ!!?!???」

「そうですわよねぇ」


 ハハハ、百年超えの年齢で何を思春期みたいなこと言ってるんだか。

 恋人同士なんでしょ?

 両者余裕で成人済みだろうから問題ないって。


 そもそもお風呂の概念があってちょっと説明しただけで理解できる女性が、男性と一緒にお風呂に入る危険を理解してないわけないよ。

 なし崩しでスキンシップ取りたいだけだよ。聖女さんの方が。


「ま、待て! わかった脱ぐ! 自分で脱ぐから!」

「タオルはここねぇ、上がったらこのガウン着てねぇ」

「ありがとうございまーす」


 さ、お邪魔虫は退散退散。

 部屋の他の説明は明日でもいいよねぇ。


 あ、お洗濯BOXに服入った。


 ……うーん。


 これは…うん、一番優しい手洗いモードでも糸くずになっちゃう気がする。端的に言ってボロキレだよぉ……どうやって着てたのぉ?

 これ着るくらいならバスローブの方がよっぽどマシだよぉ。


 イレギュラーな処理になるけど……ヤドゥカニーに予備のリネン届けて簡単なローブみたいなの仕立ててもらおっと……




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