003:三船 道行
(音声案内機能がオフになってる……ってことは、これをオンにすれば……)
「……あーあー、テステス。よし、声が出たな」
機関車に転生するなんてとんでもな事態に混乱して、そこからさらにスペックに物を言わせて世界の外に飛び出した俺は、どうにか落ち着いてこの機体の機能確認に努めていた。
どうやら巨大ロボで言うコックピットにいるような状態らしい俺。
今後どこへ行って何をするにしても、とにかく誰かと出会った時にその相手とコミュニケーションが取れないと話にならないと思って、声が出せそうな機能を探していたんだ。
「これでなんとか俺の境遇の説明もできるだろ……」
呟く独り言が、車内に反響している感覚。
音声案内とはようするに、『御乗車ありがとうございます、次は○○駅~』みたいなアナウンス機能のことなんだろう。
……なんでオフになってたんだ?
なってなければあの良い人そうな人達にちゃんと説明できたのに。
と、思ったが、たぶん説明したらしたで大事になって、実験体とかの望まない方向に話が進むことだってあったかもしれない。だから、あれはあれでよかったんだろう。そういう事にしておく。
なんだかんだあちこち触って、この仮想空間みたいな中だけでも俺の姿が出るように設定できた。
やっぱり考えるだけであちこち動くっていうのはちょっと心臓に悪い。画面に色々表示されてる感じになってるわけだし、手動で動かすような感じに整えた。
……じゃないと、自分が人間だったこと忘れそうだしな。
溜息をひとつ吐いて、俺はカメラアイの映像に意識を移した。
──タタンタタン……タタンタタン……
規則正しい枕木の音を聞きながら眺める景色は、今まで見た事も無い光景。
何色とも形容しがたい奇妙な闇と、そこに浮かぶ多種多様なモノ。
光の粒だったり、極彩色の泡だったり、半透明のキューブだったり。
同じ物は二つとないあれらが、なんとそれぞれ別個の世界らしいのだから驚きだ。
らしい、って言うのは、自分の直感以外に証明してくれるものが無いからなんだけど。
とはいえ今の俺は機関車と感覚ごと同化している状態みたいだから、間違ってはいないはずだ。
なんたって、この列車は『片道異世界特急』なんだから。
「……片道、なんだよなぁ」
そう、この列車は片道だ。
周辺の世界をランダムに渡り歩き、一度通った世界は二度と通らない。そういうシステムになっている。
世界を超えた国単位の移民なんて、想像もつかない規模の旅だ。
一度『見込み無し』にした世界をまたランダムで引いた、なんて非効率な事はやってられなかったのだろうし。
それに、『戻る意味も無い』くらいに、元居た世界がどうしようもなくなってしまったのかもしれない。
あるいは、片道にすることで『二度と戻らない』『新天地で生きて行く』っていう決意表明だったか。
……平和な世界、平和な時代に生きた身としては、そういう境遇の人達がどんな気持ちだったかなんて、推し量ることだって難しい。
でも、あの人たちはあんなに誇らしげな顔で、あんなに優しい笑顔で、俺を、この列車を送り出してくれたんだ。
だからきっと、後悔もしていないし、最高に上手くいったんだろう。
俺は、そのおこぼれをもらって、こうして第二の人生……列車生? を生きる事になったわけだ。
ありがたい事だよ、本当に。
そんな風に、景色を眺めながらしみじみとしていた時だった。
──連結車両管理補助AIより、臨時ミーティング要請
黄色くピカピカと自己主張するお知らせに、一瞬思考が止まる。
連結車両……って、後ろに引っ張ってる寝台車とか食堂車とかだよな?
管理補助AI……ってことは、それぞれの車両を管理してるAIがいるってことで……
……そのAIさん達が、打合せしに来てる、って事?
いやいや落ち着け、落ち着くんだ俺。
これは列車だぞ? しかも異世界を旅する寝台列車だ。
運行するのにミーティングは欠かせないよな? うん、わかるわかる。
……い、一応、今の機関車の頭脳は俺なわけだし? まさかいきなり『誰だお前は!』みたいに責められてポイッと魂だけ追い出されたりはしないだろ……たぶん。
……たっぷり深呼吸を二回してから、俺は承認ボタンを押した。
光の線で定義された個室の中に、小さな魔法陣が七つ、輝く。
それぞれの上に、デフォルメされた小さな生き物が七体。
バク
ペンギン
トカゲ
羊
大根
ヤドカリ
蜂
生き物たちはぱちりと目を開けて俺を見て、驚いたような顔をした。
そしてその内の一体。
炭火みたいな色のトカゲが、クワッと目を見開き、エリマキトカゲみたいに首周りに炎を吹き出しながら吠えた。
「誰やお前ぇ!?」
「すいませんすいません! わざとじゃないんです! 許してください!」
* * *
「はー……まとめると、トラック事故で死んだ思たら、機関車に異世界転生して、解体はゴメンや言うてまた異世界に飛び出した、と」
「はい、そうです」
「そーか……月並みな事しか言えんけど、事故は大変やったね。しんどかったやろ」
「あ、うん……」
「で、ついでやから車両も規定分持ってこ思て、なんでか許可が出たのをいいことにワイら連れ出した、と」
「はい、おっしゃる通りです」
「最後のはなんでかお許し出たとはいえ半分窃盗やね。もうやったらあかんよ?」
「はい、すみません」
ペラペラとよくしゃべるトカゲに向かって、俺はひたすら頭を下げていた。
ずっと会話をリードしているのは炭火色のトカゲだ。
他の六体はとりあえずトカゲに任せるスタンスらしく、興味深げに相槌打ちながら俺の話を聞いていた。
「ま、本人も反省しとるようやし。とりあえずええやろ。悪いニーサンやなさそうやしな」
「……ちなみに悪いニーサンだったら?」
「んなもん、あの手この手でお外にポイや、ポイ」
ひええ、と遠い目になる俺を余所に、七体はお互い目配せし合って何かを何かを確認し「うん」と頷いた。
「ま、何の因果か運命共同体になったんや。いっちょ自己紹介でもしとこか」
ほれ、と促されて動いたのは一番左端、ころんとした白黒のデフォルメバクだ。
「オイラは寝台車管理補助AIのバァク。寝台車両の維持管理の他には、乗客の個人情報・金銭データの管理。あとはインターネット回線とオンラインサーバーの管理と、就寝中に列車運営のための魔力回収するのもオイラの仕事。……他にも細々した仕事はあるけど、だいたいこんな感じかな」
「ああ、燃料って乗客から取るんだな」
「そうだよ」
「ネットって……そうか、この列車が世界みたいなもんだもんな。娯楽用?」
「通販もメールもチャットもゲームもあるよ」
よろしくねぇとバァクはのんびり片手を上げた。俺もつられて片手を上げ返すと、バァクはどこか嬉しそうに笑う。
バァクの挨拶がひと段落したと見て、スクッと立って胸を張ったのは隣のペンギン。デフォルメされているが、見た目はアデリーペンギンが一番近いだろうか。
「次は拙者でござるな。冷蔵冷凍車管理補助AIのペンギニーと申す。食料の在庫管理、それから車両全体における水の浄化循環管理が担当でござる」
「へぇ、貨物車とは別なのか」
「食料は大事ですからな。独立しているのでござる」
よろしくお頼み申す、とペンギニーは深々と頭を下げた。ついつい同じように頭を下げてしまうのは日本人の性。これはこれは、御丁寧に。
そしてどうやら自己紹介は、並んだ左から右へ順に巡っていくらしい。
三番目はさっきから散々喋っているトカゲの番だ。
ちょっと丸っこい愛嬌のある炭火色のトカゲ。火の襟巻はクワッとしていないときは小さくて大人しい。
「ワイは食堂車管理補助AIのサゥマンダーや。調理室と食堂の維持管理、それと口に入れる物への毒物チェックスキャン、あとは乗客の栄養管理と簡易カウンセリングがお仕事やな」
「カウンセリング?」
食堂車の管理で思いがけない単語が出てきて思わず訊き返すと、サゥマンダーは『その感想は至極ごもっとも』という顔で頷いた。
「ワイの仕事、食堂車周りだけやと割と処理に余裕あんねん。せやから食事のテーブルにお邪魔して、メニューおススメしたり世間話したり愚痴聞きしたりしとるん。で、こらアカンってなったら専門家に投げる役。カウンセリングっちゅうか日頃のガス抜きや」
「なるほど、だから簡易」
「そーいうことやね」
つまりサゥマンダーは、お喋りするのも仕事の内ってことか。だからこんなによく喋るんだな。
うんうんと納得する俺だった。……が、次のサゥマンダーの発言には首を傾げた。
「せやからワイ、この口調で爬虫類系やろ?」
「……? 何か関係あるのか?」
「エッ」
「えっ?」
サゥマンダーが、ものすごくビックリした顔で目を見開く。
「カウンセリング言うたら『爬虫類のつやつやボディ』を撫で撫でしながら『頼れる方言兄貴または方言姉御』とお話するのが鉄板やろ!?」
「ごめん、聞いたことない」
「何ぃいいい!? アニマルセラピーとか無かったんかいな!?」
「あったけど、犬とか猫が鉄板だった気がする」
「なんやてぇ!?」
補助AI達がざわざわしている。「これが異世界ギャップ……」「なるほど……」とか聞こえてくる。
当のサゥマンダーは驚きはしたみたいだけど、特にショックとかは無かったみたいで感嘆の溜息を吐いた。
「こら盲点やったわ……せやな、世界も文化も違えば好みも当然変わるわな。柔軟な対応が必要やね。ありがとなニーサン」
勉強になったわ、と何度も頷くサゥマンダーにいえいえと手を振る。
スパッと切り替えたサゥマンダーは、「時間かけてすまんね、ほい次」と、隣の羊を促した。
この羊……よく見たら巻角の部分が蔓草だし、頭に双葉がぴょこんと生えている。
「はぁ~い、バロは農耕車管理補助AIのバロメッツィだよぉ~。農耕空間の環境維持管理してるのぉ~」
………
「あ、終わり!?」
「うん、それだけぇ~」
あまりにも簡潔な自己紹介に、頭を抱えたサゥマンダーが見かねたように口を挟んだ。
「えっとな……まず農耕車両なんやけど。内包空間くっそ広いねん」
「あ、水耕栽培工場とかじゃないんだ?」
「ちゃうね。保養所も兼ねとるから、山もあるし平地もあるし川も流れて狭いけど海もある。低いけど空もあるし疑似太陽も浮いとる。島がひとつ丸ごと入っとると思ってもらえればええ」
「……え、すごいな!?」
「すごいんや。その環境がエエ感じに自然そのもので維持できるように、常に全体監視して常にバランス調整しとるのがバロメッツィや」
「常に」
「常にや。せやからくっそ重い処理をずぅーっと続けとんねん」
「ああ、だから他の仕事ができないんだな?」
「理解が早うて助かるわ」
当のバロメッツィはのほほんと座り込んでうつらうつら舟を漕ぎはじめている。スリープというよりは、そのバランス調整に集中しているっていう事なのかもしれないな。
「んじゃ、次」とサゥマンダーに促されて、手足とつぶらな目のある大根が、表情に乏しい感じでこっちを見た。
「医療車管理補助AI、マンドラゴン。乗客の診察・体調データ管理、就寝時健康スキャン、医薬品・医療器具関係全般、入院患者のバイタルデータ監視、医師の各種補助や看護等、他にも医療関係全般が業務となっています。また、人命最優先が至上命題のため、与えられた権限が他の補助AIと異なり少々複雑化しています。状況によっては命令に従わない場合がありますのでご了承ください。」
「……なんというか、これまでと比べると、ものすごくお堅いな」
「根菜は固い物でござる」
「食材の話ちゃうねん」
横で挟まった漫才をマンドラゴンは無視して頷いた。
「暴走や過度な反応によって業務に遅れが出る事を防ぐため、感情の起伏が他のAIよりも低く設定されています」
「誰がオーバーリアクションやねん。フレンドリーって言えや」
淡々とサゥマンダーを黙殺するマンドラゴンに俺は思わず噴き出した。
「あー、うん、なんかマンドラゴンじゃなくサゥマンダーがカウンセリングしてる理由がわかった気がする」
「たぶん大正解やで。こいつ御覧の通りに小粋なトークとか向いとらんねん」
「適材適所です」
すました顔で言い切ったマンドラゴンは、そのままスンと沈黙した。言いたいことは言い切ったらしい。
次に動いたのは、なんだか渋い雰囲気のヤドカリだ。
「ワシは工作車管理補助AIのヤドゥカニーじゃ。各車両からの要請に応じて工場エリアでの製造業務、及び工場の維持管理。それから乗客が利用する工房エリアの維持管理と安全指導を行なっとる。あとは各種資格試験の担当官もワシじゃ」
「つまり技術関係全般?」
「おう」
「列車に工場入ってるんだ……」
「服が擦り切れた時に替えが調達できんかったら裸族になるんじゃぞ?」
「いるわ、工場」
そうだよな。食べ物だって列車の中で農耕しようって環境なんだから、服だってなんだって自給自足しないと都合よく手に入るとは限らないもんな。
世界を捨てて旅をするってことは、よく考えなくても過酷なサバイバルなのか。
「前の旅の時はよく『工場長』なんて呼ばれとった。よろしくな、ボス」
「う、うっす」
声まで渋いヤドゥカニーは喋り終えるとドッシリ座りなおした。
なんだろう、見た目可愛いヤドカリなのに、この貫禄。
「ほい、ラスト」
最後は一番右端の蜂。
蜂って言っても、よく見るミツバチとかスズメバチとかじゃない。
ずんぐりむっくりした丸いフォルム。毛が多くてふかふかしてそうな体。蜂の中ではかなり愛嬌のある見た目だ。
俺の知識だとマルハナバチが一番近い気がする。
「ワタクシは貨物車管理補助AIのクィンビビーですワ。貨物車へ格納した荷物のリスト化と出し入れ及び管理、貨物空間の時間停止保存機能の稼働チェック、各車両に要請された物品の配送、そしてそれらを行う作業ドローン達の統括管理が担当業務となっておりマス。ああ、あと、就寝時間中に清掃ドローンを飛ばしたりもしますワネ」
「へぇー……ああ、もしかして、いっぱいいる空飛ぶドローンのリーダーだから蜂なの?」
「それもありますし、貨物を収納する棚がハニカム構造をしている事も理由の一つですワ」
「御覧になりマス?」と、クィンビビーが貨物車の監視カメラ映像を画面に出してくれた。
おお……これはすごい。
第一印象は『鋼鉄の蜂の巣』だ。
でもSFなようでいて、ところどころに魔法陣とか魔導文字とかが書いてあるあたりやっぱりファンタジーでもある。全体的に、魔法科学文明って感じなんだよな、この列車。
「……ありがとう。すごいカッコイイな」
「アラ、褒めいただき恐縮ですワ」
クィンビビーがぽやんと機嫌の良さそうな雰囲気になると、サゥマンダーがスススッと近づいてきて俺に耳打ちした。
「ビビーの姉御だけは怒らせたらあかんで。物流てようするに列車の血管やねん。機嫌損ねて止まってもうたら、どの車両も立ち行かなく……」
「聞こえてましてヨ、サゥマンダー。ワタクシが私的な感情で業務をボイコットなどすると思っテ?」
「すんませんでした姉御!!」
平謝りするサゥマンダーに薄っすらと上下関係が垣間見えて俺は苦笑いした。
そこで、ふと気になったことを聞いてみる。
「サゥマンダーが君らのリーダーってわけじゃないのか?」
「ワイら補助AIに序列は無いで。姉御に頭が上がらん気がするんは気分の問題やねん」
「マア、移民完了後も業務内容はそれほど変わりありませんものネ」
「関わり方も変わるわけがなかろう」
んん?
補助AIの言葉に、俺はひとつ気が付いた。
「君らって、移民して車両が格納された後はどうしてたの?」
「別の職場で開拓業務に就いとったで。場所が列車から開拓地に変わるだけで、ヒトが生活するんは変わらんからな」
話によると、バァクはインターネット環境管理、ペンギニーは各冷蔵冷凍庫及び空調管理、サゥマンダーは食堂や各家庭の調理機器管理と個別カウンセリング、バロメッツィは周辺環境観測と災害対策、マンドラゴンは医療機関、ヤドゥカニーは各種生産工場、クィンビビーは運送業と倉庫管理、とそれぞれ働いていたらしい。
俺はそれを聞いて血の気が引いた。
「待ってくれ……もしかして、俺が車両連結した事で皆こっちに引っ張られたのか? ものすごい迷惑をあの人たちにかけてしまったんじゃ……?」
「ああ~それはないそれはない、心配あらへんよ」
大丈夫大丈夫、とサゥマンダーがひらひら手を振る。
「ワイら、オンリーワンやあらへんねん。なんて言うたらええかな~……端末でゲームする時、ダウンロード版買うたらサーバーのメインデータからゲームデータダウンロードするやろ? でも別にサーバーのメインデータは無くならへんやろ? あんな感じやねん」
「車両連結と同時にマスターデータからシステム領域へ我々がダウンロードされます。動作チェックで異常が無く、担当車両の状況を確認した後は、完全にスタンドアロンでの業務遂行が可能です」
「この車両専用のワイらが御用意されとるわけやから安心しい」
サゥマンダーとマンドラゴンの説明に俺は安堵の溜息を吐いた。
でもそうだよな。そうじゃないとあんなに簡単に『仕方ねーな』みたいなノリで車両連結を許可してくれないよな。
「……むしろ、あっち的には農耕車解体の手間が一台分減ってラッキーやったんとちゃうん?」
「農耕車って島が丸ごと入ってる車両だっけ……そんなに解体大変なのか? いや、島を丸ごと解体するなら大変だろうけど……」
「農耕車は他の車両と違うて自然環境構築しとるから、使っとる魔法の複雑さも段違やねん」
補助AI達曰く、空間魔法で列車の車両に広大な空間をこれでもかこれでもかと押し込んでいる風船状態で、そこに自然環境を構築するための魔法を奇跡のようなバランスで配置しているから簡単に壊すわけにはいかないらしい。
普通の家みたいに重機でバキバキーっとやったら辺り一帯吹っ飛ぶとかなんとか。
なのでその道を極めた専門家のトップが、ちまちま魔法を剥がす所から始めないといけないらしい。
「……そこまで行くと解体する方がもったいない感じするけど?」
「解体コストより維持コストの方がかかるんや」
「ああ……そういうやつかぁ」
未開拓の山野が周りにいっぱいあるのに、そんなコストかけて疑似山野を取っておいてもしょうがないもんな。
「うんうん、心配事がひとつ片付いた……っちゅうことで、次はニーサン、自己紹介」
「えっ、俺も!?」
「ワイらニーサンの身の上話聞いただけで、まだ名前も知らへんねん」
そういえばそうだった。
俺は慌てて居住まいを正した。
「三船道行、トラック事故で死んだ元日本人です。列車はちょっと乗って旅するのが好きなくらいで、専門的な事は全然詳しくないですけど、よろしくお願いします!」
「はい拍手ー!」
わーっ! と歓声を上げて補助AI達から拍手が贈られた。なかなか照れくさいな、新入社員みたいだ。列車の新人って意味では間違ってないけど。