028:三船 道行 -Sシリーズ-
「……で、ソータのニーサンはどないしたん?」
「お別れして世界を出た所で涙腺が限界を迎えて、俺のプライベートスペースでギャン泣き中」
「うるせぇ! ギャンってほどじゃねぇわ!」
「布団から出てこないけど、怒鳴る元気があるなら大丈夫かなって」
「せやね」
列車の運営側としても、初めて月単位の長期滞在が経験できた。
爽太君も大会優勝の悲願を達成できたし、めでたしめでたしってところだろう。
* * *
「ハーイ、それでは種明かしの時間でーっす!」
爽太君が落ち着いて、サゥマンダーのコーヒーでほっと一息ついたところでそんな事を叫んだのは、勢いよく挙手をした道化さんだった。
「……なんか種明かしされるような謎あったっけ?」
爽太君と一緒に怪訝な顔で道化さんを見れば、当の本人は「チッチッチッ」と指を振りながら肩を竦めた。
「あったでしょー? 物理的な距離っていう概念が存在しない狭間で起きた、幽霊の人身事故なんていう珍事」
「えっ」
「アレは道化のせいです」
「テメェコノヤロウ」
「アー! 暴力ハンターイ!」
道化さんが言い放つのと同時に、素晴らしい瞬発力で飛び膝蹴りをお見舞いした爽太君と道化さんがドッタンバッタンと取っ組み合いを始める。
迷ったけど、両者棒読みだからとりあえずそっとしておいた。
バーチャル空間だからモノ壊れないようにできるしな。
「チッ、良い動きで受け流ししやがる」
「いやいやヒトでそれだけ動けるのは相当だよ。才能に満ち溢れてて道化嬉しいわぁ」
ある程度でひと段落した二人が戻ってきたところで、俺は会話を再開した。
「……で? なんで爽太君を轢かせたの?」
「いやわざと轢かせたわけじゃございませんよ!? 道化は『この列車と相性が良い』『戦闘に長けた幽霊』の縁をちょっと引っ張っただけね!?」
「じゃあなんでオレは轢かれた?」
「勢い余ったんじゃない?」
「そんな理由?」
爽太君は『ただの不運』で轢かれた事に納得のいかない顔をしていたが、悪いけど確認しないといけない重要事項が別にある。
「で、その条件の人材を引っ張ったのは……列車の防衛のため、であってる?」
「あってるあってる」
「……おい、その言い草。まさかこの列車、防衛機能の無い丸腰とか言わねぇだろうな?」
「最終兵器魔王さんを除外するとまさかの丸腰です」
「はぁああああ!?」
俺は爽太君に捕食者に追われて魔人に会った事や防衛関係の現状を説明した。
すると爽太君は頭を抱えたまま仰け反り過ぎてブリッジみたいな姿勢になってしまった。
「バッカじゃねーの!? 襲撃有りのコロニーシミュで被害ゼロ目指すんだったら早い内に戦力整えるもんだろーがよ!? お前ゲームとかやらねータイプ!?」
「ゲームは……訪れた駅でその駅固有のキャラを集めよう!みたいなのを少々。あー、あと生首タップして消すやつを暇つぶしに程度」
「スタンプラリーとパズルゲーム!! よく今まで無事だったな!?」
「補助AIが優秀だから」
「いやぁそれほどでもあるで?」
「照れんな!」
一通りのたうち回ると、爽太君は深く深く深呼吸しながら胡坐をかいて座り込んだ。
なお、この間道化さんはひたすらゲラゲラと笑い転げていた。実にうるさい。
「……よし、わかった。ミッチーがまったく戦闘に向いていない事がよーくわかった」
「ミッチーって呼ばれるの中学生以来だなぁ」
「で、そのSシリーズとやらは作れるようになってんの?」
「材料は色々補充した分で足りたらしーで? ただ作ったところでSシリーズ用の管理AIがおらんから無駄になんねん」
「……そのSシリーズ管理AIの役をオレにやれって言いたいんだろ、そこの道化は」
「そーそー、そーいうこと」
あ、そういうことか。
どこかAIのある世界で買わないといけないかと思っていた俺は素直に感心する。
そうだよな。俺が機関車両管理AIの役をやってるんだから、同じ幽霊の爽太君なら戦闘用車両管理AIの役ができるわけだ。
俺がそれを理解したのを見て、爽太君は「うん」と頷いた。
「いーぜ、やってやるよ。乗ったからには運命共同体だ。……こっちから戦争仕掛けるわけでもないんだろ?」
「そういうのは嫌だからしない」
「だったら襲撃されない限りはVR訓練って名目のゲーム三昧してていいわけだ。オレにとっちゃ理想の環境だな」
なるほど、これは相性が良い。
俺も、いつまでもシェアルーム状態なのはちょっと困るしな。
そんなこんなで、リワンダーアークはSシリーズ車両の建造が決定した。
* * *
「先に行っとくけど、道化が自主的に動くのはとりあえずここまでね」
ヤドゥカニーと爽太君がSシリーズ車両について詳細を詰めている時。
ふと背後に現れた道化さんに言われたのはそんな言葉だった。
「えっと、それはどうして? いや、おんぶに抱っこになるのは良くないとは思ってるけど」
俺が訊くと、道化さんは空間内をぷかぷか浮かびながら答えてくれる。
「まぁ道化の召喚主は相棒だとか、他にも細かい道化なりの理由はあるんだけど。一番の理由は悪縁だとか良縁だとかの話」
道化さん曰く。
居場所に戻るための旅路を安全にするために今回は動いた……というよりも、そういう理由だから今回は動けた、のだという。
「そも呼び出された道化は『使われるモノ』だからね。あんまり自主的に動くもんじゃない。好き勝手に遊びはするけどね」
「それはいいんだ?」
「そう、それはいいの。でも呼び出された道化が自主的に目的を持って何かすると、反動があるんだわこれが」
「悪い事が起きる、的な?」
そうそう、と道化さんは頷く。
「道化が自主的に遊びに来てるんならいいんだけどねー。召喚で呼び出されているとそういうわけにはいかない。これはもう、そういう存在としてルールが決まってるから。世知辛いねー」
「……つまり、ハハルスさんの指示なら問題ない?」
「そういうこと。でも相棒は機械のシステムのアレソレなんかには気付かない、門外漢だから」
ハハルスさんは召喚術特化で、それ以外はからっきしだって言ってたな。
「今回は、『そのあたりに道化が気付いて、そして道化が遊び半分に勝手にした』。『道行……ミッチーに成り代わって見てみた異能が面白そうだったから、ついでに使用者が楽しめる環境になるように、試した』ちょっと苦しい言い訳だけど、なんとかそういう事に、した。道化が勝手にした事だから、その反動は道化にだけ返る。列車は知らぬ存ぜぬ、だから関係ない」
そういう事に、した。
道化さんはそう言い切った。
何をどうしたらそういう事になるのか……と言うか、ナニに対してそんな言い訳じみた事をしないといけないのかわからないが。とにかく道化さんに庇われたと言う事はわかる。
「えっと、ありがっ」
「ダメ、それはダーメだよ。キミらは無関係なの、いいね?」
お礼を言いかけた言葉を咄嗟に手で塞がれる。
……そうか。知らぬ存ぜぬ。お礼もダメなのか。
俺が理解したことを察して、道化さんは手を外す。
「でも、キミらはもう道化がラッキーを引いた事を知っちゃったから。今後は道化が縁を引けば、その反動はこの列車に返る。だから、ここまで。オッケー?」
「……了解です。ちなみに、道化さんに返った反動って何が起きるの?」
「さぁ? 言うて道化だからねぇ……元の場所に戻るのがちょっと遅くなるとか、そんなもんじゃない?」
カラリと何ともないみたいに肩を竦める道化さん。
……なんだか心配だなぁ。
このヒト……いやヒトじゃないらしいんだけど。飄々と軽薄そうでいて、周りのために自分が色々被ろうとしてるような感じがするんだよ。
『自分よりも周りの方が価値がある』みたいな。そんな感じだ。
だから、ついつい心配が口に出た。
「……無理しないでくださいね」
「え?」
「道化さんだって立派な乗客のひとりなんだから、何かあったら相談してください。俺に話しにくかったら、サゥマンダーだっているんだし」
そう言うと、道化さんはしばらく固まって……こてんと首を傾げた。
「…………揃っていない道化とかゴミみたいなもんじゃん。乗客にカウントしていいの?」
「何が揃ってないのかわからないんで……なんでカウントしちゃいけないのかもわからない。道化さんはひとりの道化さんで、いてくれて助かってますよ」
道化さんは沈黙したまま、首を傾げた姿勢からさらに傾いて、そのまま倒立して反対側にくるりと側転した。
「……うん、そっか…………アハ、アッハッハー! 戻った時が楽しみだねぇ!」
わざとらしく、白々しく、ケラケラと笑って、道化さんは自室に戻っていったのだった。
* * *
そもSシリーズとは何か。
俺が勉強を兼ねて確認した機関車両内のデータによれば、それは『戦闘時に稼働するもうひとつの機関車両』だ。
日本の電車を思い浮かべてほしい。
先頭はもちろん運転手が乗る操縦席があるわけだが、末尾にも逆方向を向いた操縦席がある。走る向きが変わる時は、そっちが頭になるわけだ。
Sシリーズは、その末尾の逆向き先頭車両にあたる。
ただ、俺が操縦するMシリーズとは色合いこそ同じだが、形状はまったくの別物だ。
玩具みたいな蒸気機関車の形をしているMシリーズと違い、Sシリーズはいわゆる装甲列車。砲を持った、戦車の汽車バージョン。
内部は専用の管理AIが常駐する操縦システム、車両防衛に着く人員専用の宿舎にトレーニングエリア、そして銃火器や魔導兵器等の保管庫。
以前補助AI達が慌てて在庫が無いか確認していた『ストライカー』という無人戦闘機もここに格納される。
御覧の通り、戦闘関係だけを詰め込んだ車両がSシリーズだ。
「……なんでSシリーズは既定車両に含まれてなかったんだろう?」
「管理AIが別やからやね。Sシリーズは専用管理AIの承諾があらへんと車両が接続されへんねん」
「Sシリーズ管理AIは街の防衛関係任務に就いていたはずでござる。格納庫のSシリーズ車両には既にAIが不在であったゆえ接続承諾が下りなかった、つまりは接続拒否判定になったのでござろう」
「なるほど」
こんな風に管理AIや権限が別なのは、テロ対策とか軍備上の理由も色々あるらしいが、AIの疲労を軽減するのが最大の目的らしい。
戦闘用AIはかかるストレスが大きいから、それ以外の業務を極力減らしているのだとか。
「わかる」
「わかるんだ爽太君」
「VRMMOやってると身に染みるぞ。ゲームの仕様で家事掃除がまるっと簡略化されてるか他に任せられるかしてねーとやってられん。そこに加えてゲームじゃなくリアル命のやりとりだって前提条件が付くんだろ? マジで相応の優遇がねーとやってられんわ」
まぁ危険な仕事だもんな。
俺は根っからの一般人だからあまりピンとこない、想像するしかできないけど。守ってもらう身としては感謝を忘れないようにしたい。
* * *
そして数十日後、Sシリーズの建造が完了した。
車両番号はS01、リワンダーアークとなってから建造するSシリーズの一機目だから01だ。
車両の末尾に接続。
魔力伝導、通信関係、異常無し。
ストライカーはこれから順次増産。
武器の類は使える人員がいないので、とりあえずサンプルみたいにひとつずつ作っておく事になる。
爽太君は『S01車両管理責任者:Souta.Ichijo』として登録された。
普段はVRゲームで訓練したり、ゲームで遊んだりしつつ、希望者にVRゲーム内で戦闘訓練をつけたりが平常業務になる。……大体ゲームしかしてないな?
訓練はさっそく魔王さんが希望して転がされているようだ。字面も絵面も酷い。
……これで、ようやく安心して走れる体制が整ったような気がする。
もちろん足りないモノはまだまだたくさんある。
それでも、なんて言うのかな……集落の基礎が整った、そんな感じがするんだ。
やっと、最初に目的に掲げた救助活動に本格的に打ち込めるようになったリワンダーアーク。
その操縦席で俺はすっかり日課になった朝の放送を開始する。
《御乗車の皆さま、おはようございます。列車内標準時刻にて6時をお知らせいたします。当列車、片道異世界特急『リワンダーアーク』は運行に支障無し……》
ここまででひとまず一区切りとなります。
また書き溜めが出来たら更新します。




