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018:貨物車管理補助AI:クィンビビー:Queenbbee-Q.M03.AB02188405:


 ワタクシは貨物車管理補助AI『クィンビビー』。個体識別番号は『Queenbbee-Q.M03.AB02188405』となりマス。


 主な業務は、貨物車と運送関係。その他、清掃を含むドローンを用いた雑多なお仕事もワタクシの担当となっておりマス。


 ああ、そうソウ。作物の世話も、今は一時的にワタクシが管理しておりますワ。

 農業もヒトの経験や技術が廃れてはいけない分野ですカラ。本来は乗客の農業従事者が担当するのですけれド。担当可能な乗客がおりませんので、仕方ありマセン。

 元々不測の事態等で農業従事者が業務不可能になった場合はワタクシが代役を務める事となっておりましたので、それと同じ事デスワ。

 どうせ作物の受粉作業は蜂蜜作りの一環でワタクシがやっておりますカラ。物のついでというヤツですわネ。


 ……ええ、ワタクシと配下のドローンには蜂蜜作りの機能が備わっておりマス。

 開発が、『蜂をモチーフにするなら蜂蜜作れないとダメだろ!』と言い張った結果でございマス。

 何がダメなのかは未だによくわかりませんワ。



 * * *



 さて、『リワンダーアーク』として再出発したこの列車も、ある程度の食料と物資を揃える事ができ、どうにか体裁が整ってきた今日この頃。

 特殊乗員となる管理者サマを除けば三人目となる新しい乗客が増える事となりましタ。


 彼女の名前は、ティール・レーヴァン。

『叡智の箱舟』という魔法関係の研究・教育機関として活動している場所からの乗客デス。

 我々にとって未知の儀式にて推薦がアリ、彼女の研究テーマを鑑みても移動し続けるリワンダーアークは良い環境だと判断されたようデスワ。


 ワタクシはさっそく、お引越しにて関わる事になりマシタ。


 寝台車で割り当てとなったお部屋は、今暮らしているお部屋よりも広くなるようデ。持ち物を全て持って行ける事を、ティールさんは喜んでおられマシタ。

 ひとり立ちの新生活って、御実家に色々置いていく事も多いですものネ。ワタクシ、入植地で引っ越し業務もしておりましたので、存じておりマス。


 部下のドローン達が次々と運び込んでくる荷物。

 一番多いモノが鉢植えの植物。次点が書籍の類。

 バァクに頂いた部屋番号へ、どんどん運び込みマス。

 荷解きと配置は、ご本人が乗車してカラ。



 ちょっと乗車の際にドタバタしたようですけれド、無事にティールさんは列車の一員となり、リワンダーアークは出発いたしマシタ。



「鉢植えは全部温室で、縁が白いのを棚の上の段。フックが付いてるのは吊るしたいんだけど……」

『梁ございましてヨ……こんな感じでよろしくテ?』

「あ、イイ感じ! ありがとビビーちゃん」

『どういたしマシテ』


 緊張して固くなっておられましたのデ、管理補助AI一同、敬語はいりマセンとお伝えしておりマス。ぜひ、気安く接して下さいナ。

 そうしたら、なんとワタクシ、またもビビーちゃんと呼ばれるようになりマシタ!


 フフ、そうデス。また、なのデス。


 ワタクシ女王蜂がモチーフですカラ、他の補助AIと違って唯一ハッキリと性別が女性型と定められている補助AIなのデスワ。

 なので親近感があるのでしょうカ。ほとんどの女性にはビビーちゃんと呼ばれるのデス。もちろん男性も、フレンドリーな方はビビーちゃんと呼んでくださる方がいましたワ。


 ティールさんは仲良く荷造りのお手伝いをしていた御友人とお別れしたばかり。

 やはり心細かったのでショウ。

 ワタクシの感情値起伏設定はそれほど高くありませんケレド、気楽に接して良い女性型のAIがいると理解されると肩の力が抜けたようなのはわかりましたワ。

 聖女さんも気さくなお方ですし、すぐに慣れると思いマス。


『この鉢植えは観葉植物デスカ?』

「ううん、これは全部薬草だよ」


 ドローンの一体に操作権限を一時借りてお話をします。


『薬草。お薬の研究もなさいますノ?』

「アタシは薬は専門外。立ち寄った世界に鉢植えを出してみて、異世界でも薬草の効能が変化しないかどうかを確認してたの。もったいないから、収穫したのは薬学の教授に渡してたけど」

『アラ。それでしたら、マンドラゴンが欲しがるかもしれませんワ』


 エリクサーもそうですけれど、各種医薬品の材料が足りないと嘆いておりましたカラ。

 お野菜からも作れないことはないらしいデスガ。必要量が多くなるので、食料を優先してもう少し在庫が増えてからとなっていたのデス。


 荷解きを終えると、ガランとしていた空き部屋は、可愛らしい魔法使いの女の子の工房となりマシタ。

 やはりヒトが入ると、部屋が息を吹き返しますワ。


 小休憩を挟んだ後に、ワタクシはティールさんを医療車へご案内いたしマシタ。


 事前に連絡を入れておきましたので、マンドラゴンは扉をくぐってすぐの所に……最大サイズのホログラムを出して立っておりマシタ。


 何故。

 ソレは『出迎え』ではなく、『待ち構える』と言うのデスワ。

 扉を開けたら巨大な大根が視界いっぱいに広がるティールさんの驚きが見えませんノ? ひっくり返りかけたじゃありまセンカ! ワタクシのドローン瞬発力が火を噴きましてヨ!

 よろしくテ? サイズの大きさは、歓迎の大きさと、イコールではないのデス!

 ホント、仕様とはいえ情緒に関しては朴念仁なのですカラ!


 話し合いの結果、ティールさんが使用しない収穫分の薬草は、マンドラゴンへ卸される事となりマシタ。


『持ち込み量に応じて支払いをします。先日あちらの教授から代価としていただいた薬草の成分分析は済んでおりますので……それぞれ、単価はこの表くらいが適正かと判断します。いかがでしょう?』

「え、ええっと……別にタダでも」

『それはいけません』

『それはいけませんワ』


 ワタクシ達管理補助AIは、その辺厳しく設定されておりますのヨ。

 システム上、どうしたって効率を重視してしまいますカラ。コストゼロの供給があればそれを推奨してしまうにきまってイマス。

 それは様々な悪循環を招きますカラ。きちんと拒否するようになっているのデスワ。

 ですから、どんなちょっとした提供や、子供のお手伝いであろうとも、きちんと代価が発生するのデス。


 ……とは言っても、現状それを使う機会はほとんど無いのですケド。

 人数が少なすぎて、経済が成り立ちませんカラ。

 今のところは『貢献ポイント』という状態で、娯楽品・贅沢品を希望した際に考慮される事になる、とバァクが言っておりマシタ。

 そのあたりの説明は、バァクが個人カードを渡した際に一緒に説明がされておりマス。


 ティールさんは、硬貨や紙幣ではない事に驚いていらっしゃいました。

 この列車は、閣下の運用時から一貫してデジタルマネーですワ。

 だって、この狭い車内で物理的な貨幣なんて採用したら大変な事になりますモノ。ワタクシの貨物車にも貨幣専用のスペースが必要になってしまいますワ。


 なお、魔王さんと聖女さんと管理者サマは、使い放題のブラックカードデス。

 いらっしゃらないと列車が動けなくナル。

 つまりは、リアルタイムで世界を救い続けているわけですから、こういった扱いになるのですワ。



 医療車で諸々の取り決めを終え、では解散となった所で、ワタクシはティールさんに呼び止められました。

 内緒でお話したいことがあるとの事。


 そういう事でしたら、一緒にティールさんのお部屋へ向かいます。


 ワタクシ女性型ですから、こうして女性に相談を持ち掛けられる事がままありますノ。

 サゥマンダーも、バァク曰く『性別:サゥマンダー』ですから、気にしない方の方が多いのですケド。なにやら、ワタクシの方が話やすいという方は一定の割合でいらっしゃいマス。

 運送業務でちょくちょくお会いしますから、声をかけやすいのも理由のひとつかもしれマセン。

 もちろんワタクシの感情値の起伏はあまり高くありませんから、手に負えないと判断すればサゥマンダーやお医者様へ引継ぎますワ。


「えっと……あのね? ミ、ミチユキさんの事、なんだけど」


 ほんのりと赤く染まった頬。


 あ、コレ知ってますワ。

 今までも何度かございマシタ。


 恋のお話!!!


 キャア! なんて可愛らしイ!

 ワタクシこの手のご相談は大好物ですワ!!


 あ、ペンギニーは引っ込んでラシテ。

 違います、処理が急加速していようがファンが激しく回っていようが不正アクセスではございませんワ。

 わかっています、それがアナタの業務である事は重々承知しておりますケド。今回は脅威ではありマセン。引っ込んでラシテ。


 ティールさんはお話してくださいマシタ。

 学園長から卒業記念にいただいた魔導具の事。

 その魔導具が、ティールさんの運命のお相手として、管理者サマを指示した事!


 とはいえ、道具に示されたからと言ってそう簡単にヒトの心は恋に落ちマセン。

 しかし、道具が示したことをきっかけに、意識してしまうのがヒトの心。

 まずは相手を知りタイ。そんなお気持ちが透けて見えましてヨ。

 まるでお見合いに挑む可憐な乙女デスワ!

 アー! 可愛らしイ!

 ワタクシかわいいモノ大好きですノ!

 ペンギニーはお呼びでなくってヨ!


「その、ミチユキさんって……この列車に乗る前に、こっ、恋人とか、いたのかな?」


 そうですわネ。そこ大事ですわよネ。

 生憎ワタクシもそういった話を管理者サマとはしておりマセン。


 よろしいデスワ。

 次の定期ミーティングにて、ワタクシ、終了後の雑談にでも訊いてまいりまショウ。

 ただ、どうしてもワタクシはAIなのデ。

 管理者サマ本人から許可が出なかった場合はお伝えする事ができなかったり表現がふわっとするかもしれませんワ。そこはご容赦くださいマセ。


「う、うん、わかった。ありがとビビーちゃん」


 よろしくてヨ!



 可愛らしいティールさんを堪能して、ワタクシはドローンの権限を返しマシタ。


 ああ、次の定期ミーティングが楽しみですワ。

 日頃の業務にも力が入るというモノ。


 さぁさドローン達。

 消灯時間ですワ。お掃除の時間でしてヨ!

 なんですの、その呆れたような雰囲気ハ!

 ワタクシ、並列処理でお仕事はきちんとしておりますデショウ!

 相談に乗るのだって、立派なお仕事の一環でしてヨ!


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