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013:三船 道行



 精神的な疲労が酷くて休憩のために立ち寄った世界で、思いがけず塩と魚介類を手に入れることができた俺達は。

 特にどこの世界に行くでもなく、狭間をつらつらと流し運転していた。


 理由はちゃんとある。



 俺達は、読書がしたかった。



 ……まぁざっくり読書って分類したけど、ようは勉強と遊びに少し時間をかけたいなって事。



 まず、魔王さんと聖女さん。

 この二人は、俺達の列車に定住したいと言ってくれた。

 俺達は諸手を上げて歓迎した。


 その上で、二人は『勉強して知識を得たい』と俺達に相談したんだ。


 まず、二人は持っている魔力が強すぎるから、その扱い方をきちんと学ばないと危ないっていうのが第一。


 次に。

 どう聞いても二人の故郷はコッテコテの異世界中世ファンタジーって感じの文明加減。

 そんな世界で、お勉強が不可能な生まれの二人の知識量は……なんというかお察しだった。

 二人はそれを、俺と補助AI達との会話から悟ったらしい。


 俺はまぁ、平成令和の日本で一般人やっていたから、義務教育は当然で高校・大学と卒業している。

 30と少しの人生の中で、それなりに漫画・小説・映画・ゲームを嗜んでいるから、色んな文化にも馴染がある。

 だからこの列車も、AI達も、今まで寄ってきた異世界も、『ああ、そういう世界観なんだな』ってすんなり飲み込めるわけだ。


 魔王さんと聖女さんは、それができない。


 このままだと、何かあった時もわけがわからなさすぎて困るだろうし。せっかく異世界ツアーみたいな列車に乗っているのに、世間知らずすぎて寄った世界でちょっと観光に出るのも難しい。

 それはあまりにももったいない。


 なので、二人は俺の故郷でいう小学校の勉強から始めている。


「この列車って学校あるの?」

「あるよぉ、バーチャル内に」


 当然のようなバァクの言葉に俺はめちゃくちゃ驚いた。

 バーチャル。

 学校が。

 リモートとも別。

 これが異世界ギャップか……いや、この列車作った世界、めちゃくちゃ文明進んでるもんなぁ……

 それによく考えてみれば、寝台車に学校用の部屋を作ったとしても、列車の通路を大勢の子供が一斉に移動すると色々大変そうだ。理にかなってはいるんだろう。

 ……『魔王と聖女がバーチャル学校で勉強』ってなかなかのパワーワードだけど。


 本来教師はヒトがやるはずなんだけど、いないからバァクが臨時の家庭教師みたいに教えているらしい。




 で、俺の方はというと。

 サゥマンダーとマンドラゴンからドクターストップがかかった。


 そもそもこの機関車は、開発初期の段階ではヒトが操縦する予定だったらしい。俺がシステムを操作しやすいのはその名残だ。

 ただ、前みたいに緊急事態になると大量の処理情報が流れてきてヒトだと対応が難しい事と、シガラミの多いヒトだとテロの標的になりやすい、という理由で管理AIの運用に変更されたとか。

 変更後は当然AIが扱いやすいように調整されているわけで。

 それをヒトである俺が無理矢理使っているんだから、そりゃ疲れるだろうって話だ。


 そしてもうひとつ。

 世界ガチャを引く時に、俺の精神力が使われているんじゃないかっていう仮説が立った。


 なんといっても今のところ世界ガチャは百発百中。


『魔力が高くて異世界に行きたい人』あるいは『魔力がやたら豊富な世界』を念じたら、『やけに魔力濃度が高い世界で、魔力が強すぎて異世界に行った方がいい魔王と聖女』を引いたし。


『魔力と食料を交換できる相手』あるいは『資源が回収できる崩壊跡地』で念じれば、『畑を作れる神様が魔力切れで遭難している、金属の端材がゴロゴロしている崩壊跡地』を引いた。


 捕食者に追われていた時も、あれは世界ガチャを引いたんだと思う。

『生まれ故郷が同じ日本系っぽいよしみで見逃してくれる、捕食者を倒せるヒト』を引いたんだ。


 その直後に『とにかく穏やかな所で休みたい』って念じたら、めちゃくちゃ水平線が綺麗な癒し系のクジラさんがいる世界を引いたしな。

 なんなら、『刺身食いてぇな』ってちょっと思ったのすら含まれてた可能性がある。


 ……こうやって並べてみると、引きの強さが本当にヤバい。


 前の旅は、こんなことは全くなかったらしい。

 そりゃそうだよな。

 こんだけ引きがよかったら、一年もかからずに移住先が見つかるだろう。

 以前は何十台って一緒に走っているMシリーズ列車団の、全管理AIが一斉に念じて世界の検索をかけていた。

 その時とあまりにも違う、とは補助AI達の証言。


 これがヒトとAIの違いなのか、それとも俺固有の現象なのか、それはわからない。


 わからないけれど、こんなに希望が通るのは無意識に何かしらの代償を支払っている可能性が高い。


 俺にヒトの体は無いから血でも生命力でも寿命でもないだろう。

 そうなると精神力がゴリゴリ使われているんじゃないか。っていう仮説だ。



 なので、サゥマンダーとマンドラゴンによって、俺の生活環境の見直しと基本スケジュールが組まれました。



 なんという事でしょう。

 列車の運転に特化されていたこの空間。

 その背後にベッドとソファとテーブルに本棚までついた、暖かな生活空間が!


 いや、マジですごい。


 ものすごく浮いてる!!!


 光の線とか半透明な画面とかでSF感満載だったところに、振り返ったらドラマのセットかな? って感じの部屋があるんだぞ?

 三度見したわ。


 今後は

 朝の放送の前に起きて朝食を済ませて。

 午前は列車の運転をしつつデータの確認やお勉強。

 昼食を摂った後は状況に合わせて仕事したり自由時間を過ごしたりして。

 消灯の放送に合わせて業務の締めと翌日の予定の確認。

 晩飯食べたら、その後はおやすみ。

 っていう具合だ。

 俺が下がっている間は、サゥマンダーとペンギニーが見ていてくれて、警告が出たら俺が呼ばれる事になっている。



 すごい、ヒトみたい。



 思わずそう呟いたらサゥマンダーが呆れた顔で「ニーサン、ヒトやからな?」と念を押してきた。


 そんなこと言ったって、一回死んで機関車になってるから今までが当たり前なんだと思ってたよ。ヒトじゃなくなったから、ノンストップでブラック勤務しないといけないかなって。


 俺のそんな内心をお察ししたらしいサゥマンダーは、今までになく真剣な顔で俺に訥々と言い聞かせた。


「ええか? 心までヒトをやめなくてええねん」

「人権って知っとる?」

「この列車ではお化けにも人権適応されるんや。ニーサンがそう決めればええんや。ハイ決まった。今決まった」

「ブラックとかいつの時代の話しとるん? アレは悪しき風習、過去の汚点や。今はもうおらん。死んだ」

「ヒトはヒトらしく生きてーや。頼むから」

「ええね?」

「ええーね???」


 こんな事をAIに諭されるのもどうかと思うけど、あまりにも真剣すぎて「ハイ」と頷く以外の選択肢は俺には無かった。流れでブラックは死んだ。


 そして試しに寝てみたら、なんと眠れました。

 システム的には『管理AI:スリープモード』って感じだったらしい。サゥマンダーが教えてくれた。

 寝て起きたら頭の冴えが段違いでめちゃくちゃ驚いた。


 そんな感じで、ようやく余暇や勉強の時間ができた俺も、それならと列車に保存されている色んなデータに手をつけ始めたわけだ。




「お昼の時間やでー」

「お、あんがと」


 俺の食事は前のココアみたいにバーチャルなデータのモノをサゥマンダーが持ってきてくれる。

 最初はいらないんじゃないかと思ったけど、ちゃんと上手い飯を三食取るようになると俺のメンタルが驚くほど前向きになった。飯で満たされてるのが自分でわかるもん。


「今日はピラフ?」

「せやで。ピーニャンの素揚げ付き」


 異世界の飯だから、『表記揺れかな?』って感じの名前とか知らない料理とか『何でその組み合わせ?』ってのも普通に出てくる。

 でも不思議と同じ料理もあるんだよな。オムライスとか、ラーメンとか。いや、ラーメンに生レタスとミニトマトがサラダみたいに乗ってるのはよくわからんかったけど。


「そういえば、魔王さんと聖女さんは飯食ってるの?」

「食っとるよー。スープとパンは作れるようになったんやで」


 簡単なのやけど! とサゥマンダーは少し悔しそうだった。


 なんでも、そういう簡単なメニューの調理機はあるらしいけど、手の込んだ料理っていうのは料理人の仕事だったし、そもそも各部屋にキッチンはあるからほとんどが家庭料理を作っていたのだとか。

 食堂車っていうのはレストランポジションだったのだそうだ。


「ヒトが自分で作らんと、料理の文化が廃れるやろ? ワイが献立の相談に乗れば栄養管理もしやすいし」

「パイセンそんなことまでしてたの?」

「一家に一体サゥマンダーの時代やで! ……いやマジで。ワイがいなくなるの耐えられへんて、入植後もまさかの続投やもん」

「……結婚したいとか言われなかった?」

「見た目がプリチーなトカゲやからな……滅多にはおらんかったで」

「滅多にはいたんだ?」

「……何個体かはゴールインしとった」

「うわぁ」


 未来に生きてるなぁ。



 * * *



 そんな感じで、基本スケジュールが問題無いかのテストも含めて、どこの世界にも行かずにゆるゆると流していたある日。


 システムが黄色の警告を出した。


 黄色はそこまで緊急じゃない。

 ちょうど席について勉強中だったから、落ち着いて詳細を確認する。



 ──未確認移動物体発見



 ……なんだその『UFO見つけた』みたいな内容。


 首を傾げながらカメラアイを見る。

 まだかなり遠いな……拡大……拡大……拡大。


 対象物にピントが合うと、俺は納得して深く頷いた。



「なるほど。未確認移動物体だな」



 カメラアイには、俺達と同じように狭間を移動しているらしい……白い陶器でできている超巨大な魔法のランプみたいなモノが映っていた。



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