聖女召喚反転術〜逆にさ、魔物を日本に送り付けたらいーんじゃね?ワシってあったまいー!〜
「パパー!ボキは遂にやりました!やりましたよー!完成したんでしゅ!聖女召喚反転術が!」
「おお!遂に聖女召喚反転術が完成したのか!ヨシヨシヨシヨシ」
「クウ〜ン」
長年の研究が成果を出した事を聞いたワシは息子を抱きしめてベッドに二人で倒れ込んだ。
聖女召喚反転術!それは、聖女召喚術の効果を反転したものじゃあ!聖女召喚術が日本という所さんから魔物を倒せる聖女を連れて来る術なら、それを反転したこの術は、魔物を日本に送り込んで聖女に倒して貰う術なのじゃ!
「ワシの祖父の祖父の代から続けていた研究が遂に完成した!これでもう誘拐犯なんて言われずに済むのじゃよな!」
「そうだよパバぁ!」
「実用化はいつ出来る?」
「既に瘴気を転送する実験は成功してましゅ!魔物でも問題無いはずなのよぉ!後は魔物の通り道に反転魔法陣を描いていけば、いずれ魔物は居なくなりましゅ!」
「よーしよしよしよし」
「クウーン」
息子とベッドで大ハッスルした翌日、ワシは国民の前で聖女召喚反転術完成を告げた。
「百四名のゲンカイシューラク王国民諸君!先日遂に聖女召喚術の反転に成功した!王子がやってくれたのじゃ!」
「王様ぁ、ほならワシらはもう魔物に作物食われないんでっか?」
「食われん!」
「な、なら、魔物に食われへんかった分はワシらが食ってええんか?」
「食ってええ!これからはお前ら全員が一日一食の時代が来るのじゃ!」
「じ、じゃあ、帝国の人みてえに男と女で抱き合って子供作ってええのんか?」
「それも許す!生まれたら教えるのじゃ!祝うから!」
「「「ゲンカイシューラク十六世様ばんじゃぁぁぁい!!!」」」
ワシの演説に国民は沸き立つ。スタンディングオベーション。ワシの名前連呼。人はメシと女を自由に食えたら幸せとはよく言ったものじゃ。
まあ、ワシはこっそり隠れて一日二食しとったがな!王族特権ってヤツじゃよグヘヘヘ。
んで、国民への発表から半年が経った。聖女召喚反転術は何の問題も無く効果を発揮し続けて、魔物の数はどんどん減少した。畑からの収穫量も倍増の見込み、そんな時、帝国からの視察が来たのじゃ。
「囚人頭イランコトスよ、ゲンカイシューラク島を包む瘴気が急速に薄まったが、何かあったのか?」
「グヘヘヘ、実は聖女召喚術の応用をしたんで」
ワシは良い事をしたと正直に話したのに、何故か視察官は犯罪者を見るような目でワシを睨みつけて、本土へと連行した。
「被告、囚人頭イランコトスは自らをゲンカイシューラク島の王と名乗り、禁忌とされた聖女召喚の儀式を繰り返した。間違い無いか?」
裁判官の言ってる事は正しくもあり、間違ってもいた。なので、ワシはその間違いを正してやる事にした。
「裁判官の坊や、ワシは囚人のまとめ役じゃが、ゲンカイシューラク王族直系でもある。そして、祖父から父に父からワシにゲンカイシューラク王位の継承は正しく行われとる。帝国の皆さんからしたらゲンカイシューラク島は犯罪者の掃き溜めかもしれませんが、ワシらのルールでは王国は未だ存続しとるのです」
かつて総人口二千人を誇ったゲンカイシューラク王国は、ワシの六代前の王とその息子が聖女を怒らせて半壊した。島には瘴気と魔物が溢れ、帝国との交易も途絶え国際社会から孤立し、いつしか罪人が送られる地となった。
王国の名は地図から消え、島はゲンカイシューラク流刑地と呼ばれる事となったが、所さんがどっこい王家の子孫は細々と生きており、数年毎に流れてくる罪人を情報源兼子種兼食料兼労働力とする事で命を繋いできた。
この島はただでさえ聖女と神を怒らせた場所として忌み嫌われており、ロクな資源も存在しなかったから、帝国人が王家存続に気付いたのは割りと最近の事じゃ。島の所有権がどちらにあるのか政治的判断が難しい上に、力尽くで奪うメリットも少ないと判断した帝国政府は、ワシら王族に囚人頭という地位と囚人達の管理権を与えお茶を濁した。
放っておけばその内、勝手に滅ぶし何の脅威も無い。もし、再び聖女召喚しようとしても自滅するだけ。定期的に監査だけしとこ。そう思っておったんじゃろう。んで、今に至る。
「被告、貴方がどういった存在かは高度な政治問題となるので一旦保留しましよう。聖女召喚術の罪についてのみ説明しなさい」
「ワシは聖女召喚の逆をしただけじゃよ。瘴気と魔物を聖女の故郷である日本に送り込んだのじゃ。これなら誘拐に当たらないし無罪じゃろ?」
帝国法及び国際法には、聖女召喚術の行使は誘拐以外の何者でも無いそれ故に許されないと書かれている。じゃからワシらの行為は誘拐に該当しないから無罪じゃと主張したら、裁判官も傍聴席も全員顔を真っ青にした。
「貴様、何て事してくれたんだ!」
「じゃって、過去に聖女が怒った理由って、こっち側に連れてこられた事のみじゃろ?魔物と戦う事については何ら不満は漏らさなかったと歴史書にも書いてある。不勉強じゃのう諸君」
「貴様のやっている事は聖女の住む聖地への不法投棄だ!きっと、天罰が下るだろう!かつての様に、国単位で被害が出るぞ!」
「はー?聖女って日本ではその辺におる女で、日本の人口は一億ぐらい。つまり、五千万ぐらいの聖女がおる訳で、ならワシが魔物落とし続けても影響無いじゃろ?」
「不敬罪だ!神と聖女への不敬罪だ!」
「んな法律無いわい!裁判官なら今ある法律の範囲で殴って来いや小僧!」
結局この裁判では何も決まらなかった。ワシのやった事への処罰については、あの裁判官と裁判所には荷が重すぎたと判断されたのじゃ。裁判所での判断不可とされたワシは帝国宰相の執務室に連れて行かれてた。
「単刀直入に言いましょう。我々は聖女の罰が恐ろしい。たった一人か二人のやらかしで国を滅ぼすのが聖女だからです」
「ほんならどーする?帝国民のワシが聖女を怒らす事を半年前からしちゃってた。もう帝国は終わりじゃの〜。これからお前らはいつ来るか分からん天罰に一生怯えるのじゃ。グヘヘヘ」
「何をおっしゃってるのですかゲンカイシューラク国王陛下?貴方は我が帝国から完全独立した島国の王ではないですか」
宰相は話の分かる奴じゃった。神と聖女の怒りの矛先としてワシは生かされ、地図には再びゲンカイシューラク王国の名が蘇った。ほんで、今まで送られてきた分の罪人は王国への移民として扱うとの言質も取れた。
最高の結果を得てホクホク笑顔で帰ると、息子が海に長い棒を突っ込んでグルグルとかき混ぜていた。
「あ、お帰りパパ!生きてたんだね」
「お前何しとるんじゃ」
「ボキの作った魔法陣失敗作だったんだんでしゅ。瘴気も魔物も近くの海に転送されてるだけでしゅた。だからこうやってバレない様にかき混ぜたり沈めたりしてりゅの」
あー、マジか。魔物、日本に送られて無かったんか。
「息子よ、この事は墓まで持っていくぞ」
「うん!」
おしまい
今回のキャラ設定。
父:策士に見えて何も考えてない。基本的にハッタリとノリで生きてる。
息子:魔術以外無能のフリをして父を利用している。最初から転送先は海に設定していた。