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「ドブ、ドブ! 起きろ!」



 どこかで、ドブを起こす呼び声が、何度もくり返されていた。



(うるせぇーなぁー、トットと起きろよ、ドブ!)



 尚も、くり返す呼び声に、思いだした。



(あ、ドブって僕だ、僕だった!)



 アラフォーの見た目に、“僕”は無いだろうと、人前では“俺”で通していたが、やはり外見(そとみ)はオッサン、中身は中学生(卒業したけどね)な、僕は、一人になると、いつもの“僕”が出ていた。


 薄明かりの中、慌てて身体を起こして、起き抜けの回らない頭を軽く振り、欠伸をしながら目を開けて、ア然とした。



「どこだ、ここ?!」



 記憶が正しければ、魔法の練習の後、宿のベッドで眠ったはずなのに、そこは、部屋ではなく、布で仕切られた何処かだった。


(誘拐?違うか。 あれ、この布はテントか?)


 周りを覆う布の感じが、以前、サマースクールで行ったキャンプのテントに似ていた。

 そんな事を考えていたら、外から声が掛かった。



「なんだドブ寝ぼけてるのか?早くテントから出てこい。見張りを代わる時間だぞ!」



 状況が飲み込めないまま、急かされる様に、テントから出た“俺”は、おもわずフリーズした。


(なんの冗談? 森ん中じゃん!)


 田舎住まいなのに、虫が嫌いで、自然から距離を取っていた生活だったので、寝起きからテンションだだ落ちだった。



「やっときたか!ドブ遅いぞ」



「す、すみません…」(知らないオッサンだ…)



「すみません? 何だぁ、らしくないぞ? 調子狂うなぁ…」



「お、俺だって、謝るくらいするって…」

(いゃー、いつもを知りませんって)



「…ふぅ、思わず固まっちまったぜ! そうか、ドブも大人になったもんだな!」



 目の前のオッサンは、()()()()()と、やたら馴れ馴れしく絡んできた。


(こ、これが、噂のウザ絡みとゆうやつか?)


 俺は、まだ、なにか言っているオッサンに、スキル“愛想笑いでスルー”をキメてみた。



「お、ドブ、やっとらしくなったな!」



(せ、正解?だったらしい)



「ところでドブ、グレイをどう思う?」



 オッサンは急に声をひそめて聞いてきたが、俺が言葉に詰まっているとみると、



「やっぱりドブもそう思っていたか…」



 と、したり顔で、我が意を得たりと気色ばんだ。


(なに悦ってんだよ!俺が思ってるのはチゲーよ、

 グレイって誰?って事だよ)


 知らない名前(オッサンの名前も知らんが…)が出てきたので、黙っているしかなかった。



「まぁ気付いているならいい。悪い奴では無さそうだしな…だが、警戒は怠るなよ」



 オッサンさんは、そういって立ち上がり、テントに向かって行った。



「おやすみ」



 俺が、背中に声をかけると、オッサンは幽霊でも見たような顔で頷くと、テントに消えた。


(で、なんで森にいるんだ? 見張りって、何を見張るの?)


 チンプンカンプンな状況に、俺はとりあえず、火が消えない様に見張るかと、横に集められていた小枝を焚べた。




 そんな、現実逃避から数時間後、何事もなく辺りは白み始めた。


(分かっているだけで、オッサンとグレイ?か、他にもいるのか?)


 俺は、更に明るくなって、人が起きてくる事を考えたら憂鬱になった。


 そもそもこの状況が、分からない。

 何のために、ここでキャンプをしているのか、何人で来ているのか、全く分からない。


 起きた時に、掛けていた毛布は、宿での物より厚手であったし、そもそも、街中の宿から、森に移動している段階で、まだ夢の中だと言われた方が、納得できるレベルだった。


 いよいよ明るくなり、緊張の増す俺に、とうとう声が掛けられた。



「おい、ドブ? お前、剣も持たずに、見張りをしたのか?」



 欠伸をかみころしながら、さっきのオッサンが、装飾をほどこした、立派な鞘に納まった剣を、俺に差し出してきた。


 俺は、受け取るべきなのか分からなかったが、オッサンが引っ込めないので、受け取って、脇に置いた。


 オッサンは苦笑いをしたようだが、俺は、ここぞとばかりに、先程のスキル(愛想笑いでスルー)を発動した。



 その時、もう一つのテントから、人が出てきた。俺は、出てきた人物を見て、目を見張った。


(ローラさんも一緒なのか…宿屋のオッサンにも誂われたが、俺達は恋人?ナンテね…)




「おはようグレイ、休めたかい?」



(グレイ?)



 知らんオッサンは、ローラさんに、グレイと呼びかけた。



「えぇ。ありがとうダナン、あなたは大丈夫そうね」



 ローラさんは、オッサンに()()返し、次に、顔にハテナを貼り付けた俺に、向き合った。



「ちょっとあなた、顔色悪いわよ! やっぱり調子、悪いんじゃない?」



 ローラさんが心配そうに言った。


(こ、恋人?)


 俺が、返事を言い淀んでいると



「まだ出発まで時間があるわ、朝食ができたら起こすからテントで休みなさい」



 と、ローラさん(恋人確定)が言ってくれた。


 俺は



「ありがとう」



 とだけ言って、テントに逃げ込んだ。





「ダナン、リチャードは、大丈夫なの?」



「さぁ、昔から変わっているからな」



 外で話す、二人の声が聴こえていた。


 ローラさんの呼び名の違いも気になるが、オッサンの名前が、ダナンと知れただけで収穫だなと思いながら、一先ず眠る事にした。



(ってか、リチャードって誰?!)



(それと、課金するからリネームカードを要求する!)


そんな事を思いながら、意識を手放した。





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