表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/38

7

「やぁ!」


 軽く手を上げて挨拶をするダナンを、リチャードは訝し気に見た。



「あれ、聴いてないかい? 今日からの同行者だよ」



「あぁ、すまん。聴いてなかった。ギルドはいいのか?」



 社交的に振る舞う事の多いリチャードだが、五歳(あの日)以来、人付き合いが好きでは無くなった。


 騙そうと近づく奴はいなかったが、父を失った悲しみと、変に構ってくる奴が、目の前の男を筆頭に、多々いたからだ。 


 中でも、保護者ぶる事が多いダナンは、もっとも苦手な相手だった。だからこそ、ギルドで再開した時も、今も、あえて鷹揚に構えるという虚勢を張っていた。


 そんなリチャードが、冒険者として、割りと早く街を卒業できたのは、剣のセンスだけではなく、環境を変えたいという、強い思いが有ったからだ。



「おはようダナン。リチャード、調子はどう?」



 リチャードとダナンが、いくつかやり取り(じゃれ合い)をしていると、荷物を抱えたグレイが二人に混ざった。


 リチャードは、グレイの抱えた荷物を、さりげなく引取った。本当は、ダナンの同行について、グレイに問い質したかったが、ダナンから、すでに昨日のあらましを聴いたので、堪えるしかなかった。




 ダナンがいる利点としては、林の入り口までギルドの馬車が送ってくれた事だろう。体力の温存と時間の節約に、とても効果的だった。



「ね?! リチャード、あなたは本調子じゃないのだから助かったでしょ?」



「そうですとも、冒険者は、体が資本ですからね。休める時は、休まないといけませんよ」



 グレイの言葉に、ダナンまでのって、そう言われたが、いつもより良く眠れたリチャードにはピンとこなかった。


 リチャードは、その後も続く、二人のおしゃべりを聴き流し、手を振る若き冒険者や馬車の音に飛び立つ鳥など、流れ行く風景を、なんとなく見ていた。


 馬車は、日が大地に垂直になる頃、林の入り口に到着した。


 ギルドの御者は、明日以降、二日に一度、同じ時刻にここを通りますねと言って、帰って行った。


「さぁ、いこうか!」


 宿で用意してくれた軽食を食べ、後始末をし、膝を払って、リチャードは立ち上がった。


 野営を考えれば、多人数の方が良いのは、C級冒険者のリチャードも、十分わかっていたので、同行者の事を深く考えるのは止めにしていた。



「リチャード、今日はどの辺まで進むの?」



 グレイの問いかけに、林の真ん中過ぎまでが、良いだろうと答えた。


 林の終わりまで行こうとすると日が暮れ、初の野営の準備が、暗い中になる事。山に近づくと生態系が変わる可能性がある事。そして、同行者の体力が少ないであろうと加えた。


 最後の言葉に、ダナンから抗議が出たが、それは聞き流した。




 林の中はひっそりとしており、たまに遠くの方で、鳥の鳴き声が、聞こえるだけであった。


 リチャードは、馬車移動を後悔し始めていた。倒れたリチャードを気づかい、用意されたのであろうが、その結果として草原地帯の魔獣の様子を、確認できなかったからだ。



「草原には、いつもより冒険者が多く出ていたな」



 ダナンも気づいていたようで、そんな事を言った。



 林の中の日暮れは早く、一行が予定地に着いた頃には、辺りは薄暗くなっていた。


 結局、野営地に着くまで、魔獣との遭遇は無く、辺りは不気味な程の静けさだった。



 野営の準備をととのえ、簡単な食事を終えた一行は、今日の感想を話し合った。



「この辺りまでは冒険者も入るはずだが、全く痕跡が無い。」



 街の冒険者の事情を知るダナンが言った。



「それってどういう事?」



 言葉の意味に、ピンときていないグレイに、リチャードは説明した。



「狩り場となった場所なら、数日は痕跡が残るものなんだよ。丸っ切りないということは、魔獣にとって…」



「安全な場所!」



「そう、それなのに俺らもここまで、一度も遭遇してないからダナンはおかしいと言っているんだ」



「あぁ、そうだね。これは完全な異常事態だよ」



「でも、遭遇しなければ、調査にならないんじゃなくって?」



「だな。だから、やはり明日は山まで行かなけれはならないな」



 誰しもが、今の一連の会話を反芻する様に黙り込んだので、おのずと話し合いは終わった。


 一行は、明日の為にも休むことにし、最初の見張りはグレイがすることになった。


 リチャードとダナンは、それぞれ寝る前に周囲を散策したが、魔獣に関しては全て空振りだった。




 やはり、これは確実に異常事態だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ