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『やっと、見つけたよ』
緊迫した戦場に、似つかわしくないノンビリとした声が響いた。
『あれ? なんだい傷だらけで』
声の主が、パチンと指を鳴らすと、僕の傷はズボンにできた穴を含め、すべてが治っていた。
『ほら、とりあえず立って、立って』
「ありがとう、でもどうして?」
僕は、声の主に、思わず尋ねた。なぜなら管理人さんは、自分の管理する世界に、一切の手出しはしないと聞いていたからだ。
『いや〜、普段なら手出しはしないんだけど、途轍もない手違いがあってさぁ〜』
「手違い?」
『そうそう、現況はコイツ!』
そう言って、僕の頭を叩くと話しを続けた。
『予定なら君は、当然、赤児から人生が始まるはずだったのに、コイツが邪魔をして何故だか魂が融合してしまったんだよ』
(また頭を叩かれたが、痛いのは僕なので止めてほしい…)
『そうだね、悪い悪い』
(そうだった心が読めるんだっけ…)
『最近になって、君はどうしてるかなぁ〜って覗くまで気づかなくてさ〜、いやーマイッたマイッた』
(えぇー!)
『と、いうわけで本来の形に戻さなきゃと探してたんだけど、君、動きが激しいから… やっと見つけたって感じ』
「えぇ!じゃあ僕は赤児になるんですか?」
『そうだね、その身体は持ち主に返して、君にはもう一度、魂になってもらってから本来の身体に移ることになるかな』
「でも、この状況じゃ…」
(ピンチのローラさんとおまけをおいて自分だけ転生するのは…)
『うん?状況? 別にいいじゃないこのままで、本来の君には関係ないんだからさ』
「えぇ!そういう訳には…」
「おい!オマエら、俺を無視して何を長々と喋ってやがる!!」
『だれ?この人? 許可してないのに、なんで動けるの?』
思えば、ローラさん達もゾンビ達も、時が止まったかの様に、先ほどの姿勢のままだった。
「なんか神とやらに、この世界に転移をしてもらったという人で…」
『何、神? 転移?
…お前、この世界の外からきたのか?』
「ハハハハ、その通り! 俺は神に請われ、この世界を支配するために送られた存在だ!!」
『フム、じゃあ消えて!』
管理人さんが、指を鳴らすと同時に、男は破裂した。
『あれも、醜くてこの世界に似つかわしくない!』
そう言って、また指を鳴らすと今度はゾンビ達が破裂した。
(… )
『言いたいことは分かるけど、この世界に存在しないものを処分するのは職制の内だから…』
あれほどの魔術を操った男も、耐久に優れたゾンビも、パチン一つで消滅させる管理人さんにドン引きした。
『えぇー!仕事だからさぁ〜
…まぁいいや、それじゃあ行こうか!』
そう言って、管理人さんが指を鳴らすと、僕の意識は開放され、宙にまった。
上空から見てると、ローラさん達が動きだし、倒れているリチャードさんに駆け寄った。
ダナンさんもゼアスさんも無事で、リチャードさんを囲んでいたが、リチャードさんだけは起きる気配がなく、ローラさんは涙を流しながら、リチャードさんの体を揺すっていた。
(なんで?)
『どうやら彼だけは、とうに死んでいたみたいだね』
管理人さんは、僕の疑問に応えてくれたようだった。
『どうします? 今ならあの身体を使って人生を送ることもできますよ?…お勧めはしませんが…』
泣きじゃくるローラさんを見ていると、それもアリかなという気持ちが湧いてきた。
「…僕の生命を使って、リチャードさんを蘇らせることはできませんか?」
管理人さんは驚いたのか、目を見張って言った。
『言ってる意味が分かります? 君の生命を差し出すってことですよ?』
「えぇ、管理人さんもマンガにもあるでしょ? 日本人ってそういうとこあるんですよ…」
尚も泣きじゃくるローラさんを見ていると、不思議と怖さも後悔も感じなかった。
『気にいらないけど特別ですからね!』
管理人さんが、そう言って指を鳴らすと眼下のリチャードさんが突然、起き上がった。
と、同時に、僕は意識が遠のいていくのを感じた。
(さよなら、ダナン・ゼアス、リチャードさん…そしてローラさん! どうか幸せに…)
『あ〜ぁ、ホント人の言うことを、ちゃんと聞かないんだから…』
管理人の呆れた呟きが、最後に聞こえた…
完
最後まで読んで頂き、ありがとうこざいました。
物語の最後が尻切れに感じたかもしれませんが、意図してそうさせて頂いております。
投稿初日から感想を頂き、とても嬉しかったのですが、結末が期待に沿わないであろうこともあり、返信できずじまいでした。この場をかりて失礼をお詫びします。
また新作を投稿しますので、その際にはお読みいただけれは幸いです。
ありがとうこざいました。




