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…思えば、俺の体がおかしくなったのは、あの日からだった。
グレイとゼアスとの買い出しからの帰り道、二人のからかいにウンザリしていると、前を歩く身重の女性がいた。
なせだか、背中がゾワッとし、振り向くと、勢いよく光の玉が向かってきていた。
このままでは、光の玉が身重の女性に当たるのは確実で、俺は何故だか走り出していた。
最悪、微細振動で弾けばと、女性を庇う様に立ったが、光の玉は弾けず、まともに食らってしまった。
後で聞けば、二人は光の玉など見ておらず、突然、身重の女性に走ってせまる変人扱いをうけてしまった。
だが俺は、確かに光の玉を見たし、体に受けたし、それがなければ、気を失うことなど、なかったはずだった。
その後、知らずに髭が剃られたり、起きたら顔にパックがしてあったり、変異の度にグレイ達に聞いたが、誰も彼も普通通りに、変なだけだと言われた。
寝た場所と起きた場所が違うと、何度訴えても、常に一緒に行動していたグレイさえも、そんな事はないと、可哀想な人を見る目で見つめてきた。(とても心外だ…)
……でも、俺は確信している!
いる!
そう、いる!
誰かが、俺の中にいる!
頼む、そこに、いるなら救ってくれ!
いるんだろ! 身体なら好きに使ってくれ!
俺は、もう行かなくちゃいけないが……
仲間を、仲間を救ってく………
……頼む、頼むぞ…………………
いやー、だからさぁ〜 絶対ローラさんも気があるって!
(完全に、気のせいだと思われます。)
なんでだよー ホント、久々出てきた癖に冷たいなぁー
(そもそも雑談の為に出てきた理由ではありません)
エッ? 何しにきたの?
『お〜い、お〜い!』
エッ? 何?
(今のは私ではありません。混線しているようです)
混線…? 夢なのに…?
(はい、ですから私が出てきたのは…)
(…頼む…………)
エッ、何か頼みごと? 金ならないよ!
(今のも私ではありません……
………只今よりシステムスキャンを行います)
え、おい? 何? やめて、恐いよー
あれ、おーーい!
(…緊急メンテナンスを行います。ログアウトして下さい。)
ちょ、ちょ待てよー!
あはっ! なんだ、まだ夢の中じゃん。
ボワッとした視界だし、みんな揃っちゃてるし。
一番近くにいるローラさんが、またなんか喚いてるな。
ローラさんは、とても優しくて綺麗だけど、ちょっと口うるさい時があるな…
ダナンが、片膝ついて僕の方に歩いてくる男を睨みつけながら、なんか叫んでいるな。
前から思っていたけど、ダナンって器用だな、首が動かないみたいなのに、目と口だけで、歩く男を追ってるよ。
ゼアスは…
寝てんのか? 顔はみえないけど、うつ伏せで…
おーい、うつ伏せ寝はよくないぞ〜
じゃなかった、地面に寝ると風邪ひくぞ〜
じゃなかった、服が汚れ……
えっ? なんで夢だと思うって?
だって、みんなが僕の事をリチャードって呼ぶんだもん。
そういえば〜 結局、リチャードさんに会えてないな…
夢になるほど、気になる存在? ゥフなんちゃって…
僕に向かってくる、この男は何なの?
下品な笑みを浮かべちゃって、絶対、もてない系の奴だな!
「「「リチャード!」」」
ほら〜 また、みんながリチャードって呼んでる〜
あ、三人分ってことは、ゼアスも起きてるのか!
それにしても、こいつなんなんだよ!
急に怖い顔しちゃって! ん? 敵か? 敵なんだな?
なんか毒々しい手斧なんか出しちゃって〜
恐くねえわ!こちとら夢だってぇ〜の!
まぁ、ウザいから吹き飛ばしたれ!
どうせ夢の中でぃ、派手にキメるぜ!!
カ〜ラ〜カ〜ウ〜アっ アロ〜波ッ〜!!!
「「「リチャード!!!」」」
僕の、ハワイの大王風衝撃波を食らって、男が遠くへ飛んでいった。キラリーーン
完
ってウソ! 男は、太い木の幹にあたって、崩れ落ちた。
さっきまで、蹲っていた仲間達が、僕に駆け寄ってきた。
「リチャード!大丈夫なのか?」
「ダナンさん、リチャードって、僕はドブ…」
「おい、俺もダナンも、ここん所のすごい活躍見せられたら、いつまでも子どもの頃のあだ名で呼べるかよ!」
ダナンに代わって、ゼアスが僕の肩を叩きながら言った。
「あだ名? あだ名… 僕がリチャード??」
肩に乗せられたゼアスの手を振りほどいて、ローラさんを見つめた。
ローラさんの頬には、両方とも涙のあとがあった。
「ローラさん、誰に泣かされたの?」
そう聞くと、ローラさんは真っ赤になって
「あなたよ!」
と言って、僕の頬を引っ叩いた。
思わず、頬を抑えると、じんわりとした痛みが広がった。
(あれ?、夢じゃないの?)
そんな事を思っている間中、ローラさんは、僕の胸をポカポカ叩いていた。
(あれ? 胸は痛くないや、やっぱ夢?)
「貴様!舐めたまねをしてくれたな!!」
怒声とともに、先ほど吹き飛ばしてやった男が、立ち上がって向かってきた。