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32

 

(早く、早く離れなければ!)


 グレイは、地面に横たわる男の死体に、辺りを気にしながら枯れ葉をかけていた。




 明け方から、先程まで続いていた魔術による破裂音は、少しばかり前に止んでいた。

 今、奴らのいる対岸には、炊煙が立ち昇っていた。


 敵の全容が確認できたことは、幸運か、不運かは分からなかった。

 なぜなら、奴らのリーダー格、彼の魔術師こそ数年前に突如、帝国に現れ、すぐに一席となった鬼才の魔術師と言われた男だったからだ。


 従者一名、護衛三名と数えて、あと一人は?と思った瞬間、すぐ後ろで枯れ枝を踏み折る音がした。


 すぐに横に跳び、腰の隠しにあった投げ矢(ダーツ)を放った。


 矢は男の喉元に刺さり、叫び声が辺りに響いた。

 男は、尚も声を上げようとしたが、それは叶わず、その場に倒れた。



(聞かれた?!)



 身を隠しながら、対岸の男達をみると、変わらず談笑していたので、グレイは滝音に感謝した。




 そうして、死体を隠したグレイは、気はせりながらも、ゆっくりと、ゼアスを寝かせた場所へと戻った。


 寝かせたはずの場所に、ゼアスの姿はなかった。


 慌てて辺りを探すと、地表近くに大きな洞のできた木に寄り掛かり、虚空を見つめていた。


 移動に無理をしたのか、顔色は悪く、息も絶え絶えだった。



「…お嬢、置いていって下さい」



 戻ったグレイに気づいたゼアスの声は、いつになく小さかった。



「フフ、道が分からないって言ってるじゃない。それに解毒作用のある草をみつけたわ、それを飲んでからどうするか、考えましょう?」



 本来のレシピは煎じるのだが、火の使えない今は、せめてと、小刀で刻めるだけ刻み、絞り汁をそのまま飲ませた。





 川面の光が弱まり始めた頃、また爆発音が響き始めた。今度の音は、様々な方向から聞こえてきていた。


 それは明らかに、二人を追い立てるための攻撃音だった。


 ゼアスの容体と、隠れた木の丈夫さに期待して、動かないでいた…いや動けないでいた。


 時折、破片が近くを掠めたが、グレイは、本当に近くに飛んできたものだけを、魔術を使って避けるようにした。


 陽射しは陰りを見せ、後、ほんの少し耐えれば、日没となる、そうなれば一息つける。そう願いながら止まぬ攻撃に耐えていた。





「おい、ギム!……チクショー!!」



 男の叫ぶ声に、隠した死体が見つかったことが分かった。すなわちそれは、敵の接近を意味していた。



「いたぞー!」



 グレイは、声を聞くとともに、素早く自分達を見つけた男へ、出の早い雷撃の魔術を放った。



「ウワッ!…あぶねー」



 グレイの魔術は、男の手前の木の枝に当たり、葉を散らした。



(こんな時に!)



 グレイは勝手ながら、今まで味方をしてくれていた森に裏切られた気がした。



「タイチョー!これ以上、近づけないから、魔術でやっちゃってくださいよー」



「そうですよー、タイチョーの魔術なら一発でしょー!」



「お前ら、巫山戯てるのか?

 まぁいい、じゃあ逃げない様に見張ってろよ!」



 グレイは、男達の軽口を聞いて、



(顔でも出したら吹き飛ばしてやる!)



 と、魔術を構えていた。


 だが、相手は木々に隠れて見えず、いきなり連続で、魔術の弾による衝撃に晒された。


 完全に、こちらの居場所はバレており、正確に敵の魔弾は飛んできていた。


 グレイは、洞の前に立って、敵の攻撃を防いだ。敵の攻撃は、その正確さゆえに、慣れれば迎撃も容易かったが、止むことなく続けられた。



「ハハ、魔力量比べのつもりかよ!」



 男は、笑いながら言って、魔弾の排出速度をあげた。


 辺りは砂埃が立ちこめ、隠れていた木の洞も削られていった。


 グレイは、それでも防御の魔術で耐えていたが、自分の方が魔力量が少ないであろうことには、気がついていた。



(せめて一矢!)



 と、飛び出したい衝動に襲われたが、それをすれば、後ろにいるゼアスの命が散ることも分かっていた。



「ホウ、なかなか粘りますねー」



「ホントだ!タイチョーの魔術が弱いんじゃないのー?」



 グレイは、敵の位置を把握できていなかったが、奴らのニヤけ顔は想像できて、それがまた悔しかった。



「しつこいんだよー!さっさと諦めろ!!」



 魔術師の男は、部下の煽りに乗せられたのか、特大の魔弾を放った。


 グレイは、精一杯の防御魔術で、なんとか弾いて上に逸らしたが、二人が隠れていた木に直撃し、幹を消し飛ばした。


 改めて隠れる間もないグレイは、覚悟を決めた。



(リチャード!)



 最後に心に思い浮かぶのは、やはりリチャードのことだった。






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