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30

 

「始まりの街」から隣街は、迷うこともない一本道である。


 その距離は、早朝に立てば、遅くても夕暮れには着く距離である。


 道の両側は草原が広がり、その先に森も見えるが、わざわざ森に足を延ばそうとする者などいない。


 隣町からの移動先は三つあるが、急な出立を思えば、隣町で装備を整える可能性があり、急げば会える確率は多分にあると思っていた。



「リチャード!」



 同じ道を行く商隊を二つ程抜いた頃、後ろから爪音とともに聞いた声で呼ばれた。



「ダナン、どうした?」



「「どうした?」じゃないだろ!

 ギルド長も言ってたが、この件は介入するって言っただろ!」



「そうだったな、心強いよ」



「手紙を受け取ったこともあるが、こっちからも早く伝えてやりたいことがあってな、まぁ乗れよ」



 ダナンは、ギルド所有の二頭立ての小型馬車を使っており、座り位置を少しずらしてリチャードを誘った。



「助かる!」



 リチャードが飛び乗ると、馬車は軽快に走り出した。



「伝えたいことって?」



 リチャードが問うと、ダナンは、王都のギルドで帝国の魔術師が、数名とともに「始まりの街」について詳しく聞いていたとの情報かあると答えた。


 その情報から、彼らの狙いが、グレイの可能性は十分あると感じていた。


 流石は、ギルド所有の馬車で、隣町までの行程はみるみるうちに減り、夕暮れを待たずに到着した。


 当初の予定より、かなり早く着いたリチャードだったが、グレイ達の足取りについては芳しくなかった。


 小さな街なので、門番は二人での交替制だが、その二人ともがグレイ達を見ていないと言うのだ。


 一応、街で唯一の宿屋を訪ねて確認したが、こちらも不発だった。


 リチャードは、道を戻りたかった。ダナンは、まもなくの日没を理由に反対したが、それならば此処で別れようというリチャードの言葉に、渋々、戻ることを了承した。


 二人が馬にまたがり、常歩で戻ることしばらく、馬が何かに興味を持ったように止まった。


 馬に好きなように歩くように促すと、道を外れ十数歩でまた止まった。


 馬をおりて辺りに目を凝らすと、人が踏み分けたであろう跡を見つけた。



「リチャード!こっちだ!!」



 少し離れた場所を探索していたダナンが、何かを手にしていた。


 ダナンの手には、折れた矢があり、鏃の一部がやや黒く変色していた。


 更に周囲を捜索したが、矢以外の遺留品は見つけられなかった。


 だが、元斥候(スカウト)のダナンは、違う手がかりを見つけていた。



「リチャード、この草を見てみろ。その草と踏まれた後の曲がり具合が違うだろ?」



 言われて草を見比べても、リチャードにはさっぱりだったが、ダナンが言うには、踏まれた草の曲がり具合から、逃げ手が二名、追っ手が六名を超えない数だろうとのことだった。


 リチャードは、初めてダナンを頼りに思い、副支部長も伊達じゃないなと知った。



「あそこの森に追い込んでいるな…」



 ダナンは、日没をむかえて僅かな薄明の中に浮かぶ、森の輪郭を指して言った。



「ダナン、急ごう!」



 一緒に行動した数日、グレイが弓を使うのを見たことがなかったし、ゼアスの得物が両手斧ならば前衛を担うはずなので、矢の負傷者がどちらかなのかは明白だった。


 唯一の救いは、ダナン曰く、毒が塗られていない事、致命的な傷ではない事が、鏃の臭いと汚れで分かっているとのことだった。


 二人は、馬の嘶きを防ぐために籠を装着させ、その馬の目を頼りに森を目指した。


 馬のおかげで程なく森には着いたが、先日までの林と違い、そこは鬱蒼としていて馬で乗り込むには無理があった。


 二人は、馬を置いていくことにした。端の木に、何かあれば逃げられるように、ゆるく手綱を結んで、森に入る準備を終えた。


 鬱蒼した森の中での捜索は、困難を極めるかと思ったが、割とすぐに痕跡を見つけることができ、それを辿るのは容易だった。


 しばらく進み、滝音らしき音が聴こえて近づくと、松明の灯りと数名の怒号の先に、蹲るゼアスと、それを支えるグレイを見つけた。






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